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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅰ章 ストランド村編
3/55

(3)治癒者《ヒーラー》と勇者《ブレイブ》

 ――死ぬ。


 そんな物騒な事を、こんなにあっけらかんと言うのはやめて欲しい。しかも笑顔で。


 俺はキョドった。

「ししし死ぬって、さっき言ったじゃないスか、俺ら、もう一回死んでるっスよね。なのにまた死ぬんスか? おかしくないスか?」


この世界(ヘルヘイム)での死は、魂の消滅。生き返る望みが断たれる、って事だ」

 バルサが呆れたように言った。

「さっき言っただろ。『試練』なんだから、それなりのリスクはある」


 それからバルサは、俺の姿をまじまじと見た。

「ところで、おまえの武器は何だ?」


 ……武器?

 そういえば、バルサは聖剣みたいなゴツい剣、ニーナは変わった形の杖を持っている。


 しかし、俺は何も持っていない。

 どこかでもらえるんだろうか?


 すると、ニーナが首を傾げた。

「転生した時に持ってなかった?」

「……へ?」

「私、この世界で気付いたら、もうこの格好だったわよ」

 と、ニーナはローブの裾を持って見せた。


「俺も」

 バルサが肉の袋と一緒に担いだ聖剣の(さや)を示す。

「エクスカリバーを持ってこの世界に来たから、俺は勇者(ブレイブ)と名乗ってる」


「エクスカリバー、ね……」

 ニーナが苦笑する。

「その剣に名前なんてあるの?」

「あるさ。俺が決めたんだ。聖剣エクスカリバー。それっぽいだろ」

「どうだかねー」


 言われたバルサがムッとする。

「そう言うニーナだって、その杖をカドゥケウスと呼んでるだろ」

「ええ、そうよ。螺旋(らせん)の蛇は平和と医術の象徴。ピッタリよ」

 と、ニーナは杖を顔の前に掲げた。


 二匹の蛇が絡み合った先に、天使みたいな翼が付いている。

 その間に、白い石。


「光の魔法を使えるの。直接の攻撃はできないけど、敵を攪乱(かくらん)したり、仲間の能力を高めたり、傷を治したり。いわゆる治癒者(ヒーラー)ね」


 そこでニーナは立ち止まった。

「君、本当に武器、持ってないの?」


 ……その真意を理解して、俺は青ざめた。


 オークから逃げ回っているうちに、落としたかもしれない。


 ニーナとバルサも顔を見合わせた。

 だいぶ歩いたし、道も目印もない草っ原。

 どこをどう逃げたかなんて、全く分からない。


 ニーナはまじまじと俺の格好を眺めた。

「服装から武器を推測しようと思ったけど、君の、何?」


 そこで俺は、改めて自分の着ているを確認した。

 ……いつも履いているヨレヨレのジーパンに、スポーツメーカーのロゴ入りのジャージ。足元は白のスニーカー……だいぶ土で汚れてはいるが。


 とにかく、転生前――トラックに()かれる前の格好と、全く同じなのだ。


「…………」


 なんで俺だけ、勇者や魔法使いみたいな、いかにもファンタジーな格好じゃないんだ?

 それに、武器とは?


 ニーナは(あご)に手を置いた。

「もしかしたら、ファイみたいな超能力者?」

「ファイ?」

「村で一緒に暮らしてる仲間。彼みたいに、武器を使わない能力持ちって可能性もあるけど……」


 バルサもニーナと並んで俺を見る。そして、

「それはないな」

 と言い切った。

「ファイみたいな、何というか、頭の良さを感じない」

「何でだよ!」


 憤慨(ふんがい)する俺を見て、ニーナが何かに気付いたようだ。

「……何、これは?」

 と、ジャージのポケットから何かを取り出す。

 ――と、それと一緒に、細長いものが転がり落ちた。

 それを拾い上げ、まじまじと眺めた俺は声を上げた。


「……ボールペン……?」


 百円ショップなんかでも売ってる、ごくありふれたノック式のやつだ。

 ……ただこれは、俺が普段使っているものではない。見覚えのないもの。


「これは紙切れね。四角いマスが描いてあるわ」

 ニーナの手にあるのは、しわくちゃに折り畳まれた原稿用紙だ。ニーナは(多分)外国人だから、原稿用紙を知らないのだろう。不思議そうに眺めている。


 だが、原稿用紙なんて夏休みの宿題にしか使わない。

 俺が(素人)作家だと言っても、今どきはスマホ執筆だから、原稿用紙なんて家にない。


 見覚えのないボールペンと、原稿用紙。

 これは一体……?


「…………」


 言葉がなくても、ニーナとバルサの表情で理解した。


 ――俺の()()が、これなのだ。


「嘘だろ……」

 もう少し、何というか、実用的なものはなかったのか。

 ボールペンと原稿用紙で、どうやってオークから身を守れと?


 ニーナもバルサも、俺と同じ気持ちだったのだろう。

「ま、まあ、武器は人それぞれだから、ハズレもあるわ……」

 同情を込めた視線が、俺に降り注がれた。

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