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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅱ章 甲鉄機兵編
28/55

(27)仲直り大作戦①

 旅を始めてから、ニーナに元気がない。

 ……彼女を母と(した)う、星野コスモとの悲しい別れがあってから、まだ日が浅いから無理もない。


 ただ、それだけじゃなく、どことなくバルサとの間に距離ができてるような気がして、俺はそこが気になった。


「…………」

「…………」


 この日の朝食も、二人はエドを間に挟んで座った。

 やっぱりコスモのステッキの件が、夫婦の亀裂になってしまったのだろうか。


 その日、俺は何気なさを装ってアニと二人、一行から少し離れた。


「……夫婦って、何だろうな」


 俺がそう言うと、

「はあああ!?」

 とアニが顔を真っ赤にして反応したから驚いた。

「な、何だよ!」

「べ、別に、何でもねえよ……」


 それから、ニーナとバルサ夫妻の事を話すと、アニは「なーんだ」と言ってから答えた。

「それは、オレに聞く事じゃねえよ……ここだけの話、エド、結婚と離婚の経験があるらしい。あいつなら、そういう時の対処法を知ってんじゃねえかな」


 ――昼の休憩時。

 泉に水を汲みに行ったエドについて行き、俺はさりげなく聞いてみた。


 すると、エドは答えた。

「あるわよ。結婚も離婚も、三回ずつ」

「……三、回……」

「それがどうかした?」


 俺は率直に、ニーナとバルサの関係を気にしている事を告げた。

 岩に腰を下ろしながら、エドはうなずく。

「正直、アタシも気になってたの」

「なら、何かいい作戦はないか?」

 俺はそう言って、原稿用紙を取り出した。


 しかし、エドは首を横に振って笑う。

「無理よ。夫婦ってのはね、そんな単純なモノじゃないわ」

 エドは一口水を飲んで、俺に悪戯(いたずら)っぽい目を向けた。

「一番やっちゃいけないのはね、周りが仲直りさせようと余計な口を出す事」


 俺は絶望した。

 スキルで何とかなると考えた己の浅はかさに。


 どんよりオーラをまとった俺を見て、エドは苦笑いした。

「でもね、そのままにしておいても好転する可能性は低いわ……そうね、何かきっかけが欲しいわね、あの夫婦がお互いの存在を見直すようなきっかけが」


 ……きっかけ、かぁ……。

 その夜、俺はヤクの毛皮に横になりながら考えた。


 夫婦と言わず、カップルが仲良くなるきっかけとして有名なのが「吊り橋効果」ってやつだ。

 一緒にスリルを体験をすると、相手が頼もしく見える、らしい……経験はないが。


 あと、夫婦といえば、結婚式の披露宴でよくやるよな。

 ――ケーキ入刀。

「お二人の初めての共同作業でございます」

 司会者がそう言うやつ。

 なーにが初めての共同作業だ。一回り年上の従兄(いとこ)の結婚式でそう思った。


 でも、「お互いの存在を見直すようなきっかけ」としては、悪くない気がする。


 吊り橋効果と共同作業。これを組み合わせた物語(エピソード)、かぁ……。


 少し考えてから、俺はとりあえず原稿用紙に書いてみようと思った。

 ヤクの毛皮の上に広げてみる。

 だが、フカフカすぎて書けたものではない。それに、焚き火の火力が弱くて、字を書くには明るさも足りない。

「参ったな……」

 俺は原稿用紙の表面を手でピンと伸ばした。


 ――すると、原稿用紙がまるで板のようにピシッと伸びたのだ。

 その上、紙面がボーッと光っている。


 ただの紙が、タブレットに変身したみたいだ。


「こんな事ができるのか!」

 俺はそれを持ち上げてみる。するとさらに驚く事に、空中に留まる事もできるのだ。

 好きな位置、好きな角度で書けるタブレット。

 何だこの作家垂涎(すいぜん)の便利アイテムは!


「早く言えよ!」

 俺が言うと、赤ペンの文字が浮かび上がった。

 【聞かれなかったので】

「音声入力もできるのか!」

 【……ミスです。本当はできません】

「そう言うなよ、なぁ」


 けれど、それ以上赤ペンは何も答えなかった。


「…………」

 だが、成果は十分だ。

 俺はニヤニヤしながら、先程思い付いたネタを書いてみる。


 滑らかな書き心地は、高精度なタッチペンのようだ……ただ、一度書いたら、赤ペンに消されるまでは修正できないが。

 しかし、二重線で消したり、{ で加筆するのは、書式的に間違いではないからアリなようだ。


 俺は試行錯誤しながらも、一通りエピソードを書き終え、最後に「。」を打つ。


 ――すると紙面が強く光り、文字の部分が浮き上がる。それは光の粒子となって森の奥へと消えて行った。


「…………」


 一応、赤ペンのOKは出たようだ。

 ……この安堵感と「本当に大丈夫か?」という不安は、作家と担当編集の関係に似てるのかもしれないと、ふと思った。


 そうは言っても、赤ペンという編集の判断は()()である。

 ここに書いた物語は、()()現実になるのだ。


 少々の不安はあるが、エピソードのはじまりは、明日の朝。

 今夜はしっかり寝ておこう。


 原稿用紙を二つに折ると、元の紙に戻った。

 それを折り畳んでポケットに収め、俺はヤクの毛皮に横になった。

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