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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅰ章 ストランド村編
19/55

(19)地獄の人形師《パペッティア》

 ――アルファズの六賢、だと……!


 バルサは凍り付いた。

 その名は聞いた事がある。

 エインヘリアルを束ねるアルファズの側近中の側近。自己中心的な乱暴者揃いのエインヘリアル内において、「全知全能の神」を名乗るアルファズに劣らない能力を持つ六人だ。


 そのうちの一人が、ここにいる、だと……?


 メフィストフェレスは、(エクスカリバー)を構えたまま動かないバルサに目を向けた。

「なかなかいい武器を持ってるじゃない? さ、ワタクシに渡しなさい。そうすれば、楽に死ねるわよ」

 それから、バルサの背後で身構える面々にも告げる。

「抵抗は無駄よ。ワタクシのパペットちゃんがミンチにしちゃうから。早く武器を放棄した方が痛くないってのは、言わなくても分かるわよね、相当なおバカさんじゃなきゃ」


 ――その時、鐘楼から矢が飛んできた。

 そして、ファウストという名の化け物のこめかみに当たったのだが……。

「…………?」

 まるで鋼鉄の(よろい)のように、灰色の皮膚が弾き返した。


「何だと……!」

 アニの使う弓・サルンガの威力は、オークでも一撃で仕留めるほどだ。

 それなのに、この化け物の皮膚を傷付ける事すらできないとは!


「驚いた? 驚いたわよねぇ。フフフ。教えてあげましょうか、そのヒミツを」

「マジカル☆キラキラ・シャイニングスター♪」

 コスモのステッキがファウストに向けられる。閃光が怪物のハゲ頭を包むが、澱んだ目に変化はない。


「…………」

 絶句するバルサたちに、メフィストフェレスは高笑いを浴びせる。

「話は最後まで聞くものよ……この子(ファウストちゃん)も、もちろん転生者よ。転生者であると同時に……キメラなの」


 張り詰めた空気の中で、メフィストフェレスだけが動き、ファウストの灰色の皮膚に手を置く。

「六賢の中に、エイトリ・シンドリっていう、錬金術師の先生がいてね。普段は武器の強化錬成なんかをやってるんだけど、たまーに生体錬成をやりたくなるようでね」

 と、メフィストフェレスの手がファウストの皮膚をパンパンと叩く。

「冴えない無能な大男に、色んなモンスターを掛け合わせたの。そしたら、こんな化け物が出来上がったってワケ」


 唖然とするバルサたちの表情を楽しむように一瞥(いちべつ)してから、メフィストフェレスは続けた。

「でもね、ちょっと暴れて大変だっから、ワタクシがもらったのよ。……フフ、気付いてるでしょ。ワタクシの能力は、人形師(パペッティア)この子(パペット)の魂を預かって、空っぽになった体を操るの。だからね、この子に心はないのよ。精神系の能力なんて通じないわ。もうひとつ言えば、目も見えてないから、目眩しの光魔法も通じないし、痛みも感じないから、中途半端な物理攻撃も無効よ」


 メフィストフェレスはニッと目を細めた。

 こちらの手の内は全てお見通し、という顔だ。


「あ、ワタクシを倒せばファウストちゃんが大人しくなると思ってる? フフフ、私の手から、この子の魂がその体に戻ると、どうなると思う? ――アルファズ様でさえ手に余って、ワタクシに下げ渡された子よ。長年自由を奪われた怨念が、どういう暴れ方をするかしらね」

 (てのひら)に載せた青い炎を示しながら、メフィストフェレスは鋭い視線を鐘楼に投げた。

 弓を引き絞ったアニが、そのまま硬直する。


「もう分かったわよね、あんたたちの選択肢はひとつしかない事が――さ、武器を渡しなさい」


 しばらく沈黙があった。

 その後、バルサはすぐ後ろにいるニーナに囁いた。

「みんなを連れて逃げろ」

「…………」

「ここは、俺が足止めする。その隙に逃げろ」

「でも……」

「僕もバルサを手伝うから大丈夫」

 そう言ったのはファイだ。

「ダメだ。おまえも逃げろ」

「そう言わないで……僕はもう、ヘヴンに託したんだ。僕の分まで生きろって」


 その意味を察したバルサは小さくうなずいた。

 そして、エクスカリバーを上段に構える。


「ふうん。さっきの戦闘を見て、なかなかやると思ってたけど、あんたたち、意外とバカね」

「それはどうかな。俺の本気を見ないで判断したおまえの方が、バカかもしれねえぜ――!」


 エクスカリバーが光をまとう。

 と同時に、バルサの足が地面を蹴った。


「ファウストちゃん、やっておしまい!」

 メフィストフェレスの指示で、モーニングスターが唸りを上げた。

 それがバルサに向けて振り下ろされる直前。


「サイコキネシス――ッ!」


 ファイが手を掲げると同時に、モーニングスターが光を放つ――と、そのまま空中で静止した。


「オラあああああ!!」

 エクスカリバーがファウストの首元に当たる。バルサの全力を乗せた一撃が、分厚い皮膚に傷を穿(うが)つ。

「うおおおおおお!!」

 剣先に気迫を込める。刃はズブズブと皮膚に食い込み、やがて鮮血が噴き出した。


 ――だが、そこまでだった。

「ファウストちゃん、しっかりなさい」

 メフィストフェレスが、手の中の青い炎に爪を立てる。

 すると、ファウストが身悶えした。

「……イタイ……イタイ……!」


 全身に這った虫を振り払うような動きで、バルサは振り落とされた。

 それを見たファイも膝から崩れる。モーニングスターがドンと、土煙を上げて地面に落ちた。


 全力を使い切ったバルサは、肩で息をしながら、返り血に染まった顔でメフィストフェレスを睨む。

 ファイも同じく呼吸が苦しそうだった。ファイの場合、バルサよりも体力がないため、より疲労は深刻だ。


「フハハハハハ!」

 メフィストフェレスの小さく描いた唇が、大きく開いて二人を嘲笑う。

「ファウストちゃんのお肌にちょっぴり傷を付けられたのは褒めてあげるわ。でもね、あんたたち、勘違いしてるのよ」


 バルサの背後で足音がした……複数だ。

 まさか――と祈る思いで振り返る。

 そして絶句した。


「ごめんなさい……」

 逃げたはずのニーナが、血まみれの盗賊たちに捕らえられている。

 エドも、チョーさんも、コスモも同じく。

 バルサは青ざめた。普通の人間が、あの傷で生きていられるはずがない。この盗賊たちは不死者(ゾンビ)か――!


 そこで、バルサはハッとした。

 ――盗賊たちを斬った時、()()()()()()()()()

 それはつまり……。


「ようやく気付いた?」

 メフィストフェレスに視線を戻すと、彼の周囲に、小さな青い光が幾つも飛び交っていた。


 彼は笑った。


「完全に魂を抜くと扱いが大変だから、この子以外の人形(パペット)には、自意識を残しておいたの。死なない程度に魂の一部を抜き取った感じ? だからあんたたち、気持ち良く勝った気になったでしょ?」


 バルサの血の気が引いていく。

 ……奴の狙いは、()()()()()()()()()()()()()()だったのだ!


「そう。ワタクシが操っているのは、ファウストちゃんだけじゃないの――ここにいる兵士たち、全部よ」

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