表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅰ章 ストランド村編
17/55

(17)それぞれの戦い

 ジリジリとエドが後退する。と同時に槍兵が前進してきた。

 このままではまずい!


 すると、屋根の上から声がした。

「おめえ、あるんだろ? 雨を降らせるようなすげー能力が」

 アニだ。連携して前進する槍兵の足を弓一本で止める事は無理だから、彼女も焦っているようだ。


 俺はジャージのポケットから、ボールペンと原稿用紙を取り出した……だが、こんな時に何を書けばいいのか分からない。

 俺が動けずにいると、アニが声を飛ばす。

「オレがおめえを守る! だからおめえは、死ぬ気で村を守るんだ!」

 アニは(サルンガ)を略奪者に向けた。


 ――落ち着け、落ち着くんだ。

 俺は無理矢理深呼吸をして、小屋の影から中庭を覗いた。


 エドがゆっくりと後退し、槍兵が完全に門の中に入ったところで、光の弾が破裂した――ニーナの魔法だ。

 建物に隠れ、エドの退路を計っていたのだろう。


 目眩しを受けた槍兵に対し、だがエドは前進した。

 ……と同時に、鐘楼から飛び降りる白い影。


「アチョーーー!!」


 分かりやすい奇声と共に、槍兵の頭上でカンフーが炸裂する。

「料理されたいは誰アルか!」

 チョーさんの気合いの入った着地ポーズで砂煙が上がる。

 その手にあるのは、麺棒。麺や中華まんの生地を伸ばす、あの棒だ。


 だがこれは、ただの麺棒ではない。

「ハアーーッ!」

 と一声上げてブンブンと振り回せば、たちまち槍より長くなる――如意棒(にょいぼう)なのだ!


「知ってる? アタシ、肉のミンチも得意なの」

 満面の笑みを浮かべたエドの手に、再びハサミが光る。


 エドとチョーさんの連携で挟み撃ちにされたら、槍兵たちはひとたまりもない。

 一気に防衛線が門にまで引き退げられた。


「……すげー……」

 俺はボールペンを握ったまま、呆然とその様子を眺めた。

 もしかしてこれは、俺の出る幕もなく、撤退してくれるんじゃ……。


 だが、そうはうまくいくはずはなかった。

 門の外から、矢の一斉射撃が見舞われたのだ。


「――――!」

 エドが腰に被矢し、よろめく。チョーさんが咄嗟に彼を支えて調理場に逃げ込んだ。

 自室に身を潜めていたニーナが、建物に隠れるようにそちらに向かうのが見えた。治療に行くのだろう。


「チクショー! 何とかならねえのか!」

 弓兵に狙い撃ちされ、屋根の傾斜に身を隠したアニが俺を睨んだ。


 俺は跳ねるように、薪割り用の切り株に走った。そして原稿用紙を広げる。

 とにかく、やれる事をやらなければ。

 俺は思い付くままに文字を綴った。


 〖略奪者は諦め、帰っていった。〗


 だが、無情に赤ペンは告げる。


 【現状に対し無理があります。】


 原稿用紙がまっさらになるのと同時に、俺の頭の中も真っ白になった。


 そこにアニが叫ぶ。

「――コスモおお!!」


 俺は飛び上がり、建物の隙間に顔を出した。


 ニーナと一緒に隠れていたのだろう。

 星野コスモが中庭を進んでいく。


「ダメだ! 戻れ!」

 アニの悲鳴も虚しく、第二射が彼女を襲う。


 ……と、中庭中央の円テーブルが立ち上がった。ファイのサイコキネシスに違いない。

 テーブルは矢を防ぐとバタンと倒れ、次の瞬間、声が響いた。


「マジカル☆キラキラ・シャイニングスター♪」


 ステッキの星から虹色の閃光が(ほとばし)る。

 第二射と同時に門内へ侵入しようとしていた盗賊たちが、それをまともに喰らった。


「キラキラマジックでキラリンラーン♪」


 盗賊たちはくるくると回りながら踊り出す……俺には分かる。星の妖精の踊りだ。

 俺もコスモのスキルを受けた時にああなったのか……と思うと、赤面を抑えられないような光景だ。


 門の外で構えているはずの弓兵も、踊る男たちが盾になり、第三射が撃てないようだ。


 ――そこに飛び出したのはバルサだ。

 盾になる盗賊を選り残し、無抵抗な盗賊たちを次々と斬っていく。

 残酷なようだが、コスモのスキルの有効時間には限りがある。その間にできるだけ敵の数を減らすのは、理に適った行動だろう。


 その隙に、アニは移動した。

 素早く鐘楼に駆け上がり、塀の外の弓兵を狙い()ちする。

 弓は、上からの攻撃の方が圧倒的に有利だ。視野が確保できるだけでなく、重力で勢いが相殺(そうさい)されないからだ。

 案の定、反撃の矢がアニを狙うが、鐘楼にまでは届かない。


 俺は胸を撫で下ろした。

 これならば、何とかなる……。


 ――だがその希望は、激しい破壊音に打ち破られた。


 ドーン!


 それは、調理場の裏からだった。

 慌ててそっちに向かい、俺は目を疑った。


 ――丸太の杭を打ち込まれた塀が、無残に破られている。


 ドーン!


 再度上がった土煙で、俺は事態を把握した。


 ――鎖で振り回された巨大なモーニングスターが、まるで割り箸を折るように、塀を形作る丸太を粉砕していく。


 そして、何度目かの攻撃の後、その主が姿を現した。


 転生初日に出会ったオークよりもふた回りは大きな男が、首輪から垂れた鎖をジャラジャラと引きずりながら、塀の内側に踏み込んだのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ