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底辺作家の異世界取材記  作者: 山岸マロニィ
Ⅰ章 ストランド村編
1/55

(1)ハードモードで始まる異世界生活

 ――こんなハズじゃなかった。


 転生していきなり大ピンチというのは、展開としては面白いと思う。

 けれどその場合は、主人公が敵に対抗する手段、例えばチート能力(スキル)を持っているとか、そういう設定が必須だ。

 でないと、物語は秒で終わってしまう。


 ……ただ転生しただけで、設定を何も理解していない主人公を、いきなり野生のオークの目の前にスポーンするとかありえない。


 オークは二メートルを優に超える大きさ。突然現れた獲物にヨダレを垂らして、こちらへノシノシとやって来る。

 俺は地面に座り込んだまま、ただ迫り来る豚鼻を見上げた。


 そして、期待する。

 もしかしたら、そろそろ脳内に「天の声」みたいなのが聞こえだすかもしれない。

「潜在能力、解放。レベル、HP、大幅に上昇」

 みたいな。そして、

「武器を選択してください」

 と、視界の端に画面が現れて、タップすると手の中に聖剣が現れたり……。


 けれど、オークの鼻息が前髪を揺らす距離になっても、一向に天の声は聞こえないし、武器もない。


「…………」


 ガチでヤバいかもしれない。

 オークのヨダレがタラリと落ちて、ジーパンに染みを作る。


「ヒッ……!」


 汚っ! と思わず足を引っ込めた動きが、オークを刺激したらしい。奇妙な声で吠えて、オークは棍棒(こんぼう)を振り上げた。


 ――死ぬッ!!


 俺は反射的に飛び出した。

 腕を振りかぶったオークの脇を抜けて走り出す。


 辺りは一面草っ原。

 身を隠せる木陰もない。


 町みたいな所へ逃げ込めれば何とかなるだろう。しかし、建物の影すら見当たらない。


 異世界って、こんなところじゃないだろ?

 城があって町があって、酒場を兼ねた冒険者ギルドがあって、エルフのお姉さんたちとパーティーを組んで、ダンジョン探検に行くところだろ普通。


 なのになんで、訳も分からないまま、いきなり棍棒を振り回したオークに追いかけ回されなきゃならないんだ。


 ――それに、ここは一体、どこなんだ?



   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 俺は、牛山(うしやま)源太郎(げんたろう)

 中学生作家だ。


 ……とは言うものの、投稿サイトのランキングに上がったことすらない底辺作家。


 せめて、もう少しPVが欲しい!

 と、小説作法のサイトで研究していたら、


「作家は経験した事しか書けない」


 とあった。

 ――これだ! と思った俺は、今まで誰もやった事がない経験をすればいいと考えた。


 『異世界転生』である!


 実際に異世界に行った体験記を書けば、リアリティがあるから絶対ウケる!


 それから俺は、異世界転生をする方法をネットで調べた。

 そして、一番安全で信憑性がありそうな、エレベーターで異世界に行く方法を試そうと思った。

 それには、十三階建ての建物に行く必要がある。

 確か、同級生が住むマンションが十三階建てで、エレベーターがあったよな……。


 と、道に飛び出したところ、運悪くトラックが走ってきて――。



   ____________

    【        ||

    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 まさか、「これだけは絶対に嫌だ」と思った方法で異世界転生するとは。

 しかも、思ってた異世界と違う。こんな草しかない所で、どう異世界体験をしろというんだ。


 しかも、いきなりオークに喰われそうになってるし。


 転生できた(らしい)事以外、全部大ハズレじゃないか。


「こんなハズじゃなかったッ!!」


 便利スキルで有能パーティーに引っ張りだこ、世界の秘宝を手に入れた俺は、辺境に国を作って、冒険仲間のエルフのお姉さんたちとハーレムしながらスローライフする――はずだったのに!


 そして俺は帰宅部だ。鍛えていない足腰、そして呼吸器はすぐに悲鳴を上げだした。


「ハァ、ハァ」


 チラッと後ろに目を向けると、オークはまだ諦めずにノシノシと追ってくる。全力で走れば逃げ切れそうなスピードだけど、俺の足はもう、そんな速さで動かない。


「……た、助け、て……!」


 上がった息で何とか叫ぶが、草っ原に人などいるわけがない。

 折れた枯れ草に簡単につまずいて、俺は頭から草むらに突っ込んだ。


「…………」


 オークの足音がノシノシと迫る。

 「ブヒー」という特徴的な鼻息が首筋に掛かった。


 ……万事休す。


 こうして、俺の異世界生活は、つまらなく終わっ……。

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