何百年経っても君をずっと愛し続ける
これは自、殺を促すものではありません。あくまでもフィクションとしてお楽しみください。
「ねえ、幸せって何かな?」
「急にどうしたんだ。そんなこと言って」
「やっぱり、お金がいっぱいあること?美味しいものを沢山食べること?」
「まあ、それも一種の幸せだが」
「私はね、幸せは好きな人と死ねることだと思うの。好きな人と一緒に死ねば、きっと天国でも一緒だと思うんだ」
「はぁ?おい本当にどうしたんだ。急に幸せについて語り出したと思ったら、死ぬとか言い出すし」
「ねぇ、だからさ。私と一緒に死んでくれる?」
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「は?」
俺たちは今日、久しぶりに休みが重なって家デートをしていた。2人で出前を頼んで、映画をポテチとコーラを片手に楽しんでいた。久しぶりに恋人らしいことをして、映画のエンドロールでキスもした。我ながら少しクサイなとも思った。
彼女は俺と離れた後にこんなことを言ってきた。俺の口から溢れでた言葉は脳を通らず、ありのままを包み隠さず溢れでた。
「ど、どういうことだよ」
「そのままの意味だよ。私が死ぬ時は君も一緒に死んでくれる?ってこと」
「違う。そういうことじゃなくて、なんで急にそんなことを言い出したんだよ」
「当ててみてよ。君がどう考えてるのか聞きたいな」
「ふざけんじゃねぇよ!!」
「!?あ、ごめんふざけすぎた。反省反省……」
「す、すまん。大声出して驚かせたな」
俺は彼女の明るいところが好きになった。俺にはない光に、いつの間にか魅了されていた。嫌われないよう少しずつ、少しずつ関係を気づいていった。いざ告白しようという時に彼女から告白された。両思いだったことよりも、先に告白されたことの方に驚いてしまった。
俺たちが付き合い始めて5年。良好な関係は今でも続いて、2人とも働き始めて金銭的に余裕が出てきて同棲を始めた。そろそろ結婚を考え始めていた。
「お願いだ。本当のことを教えてくれ」
「………」
「頼む。お前が急にそんなこと言い出すなんておかしい。何があったか聞かせてくれ」
彼女は俺から目を逸らし、俯いてしまった。さっき言ったことは、彼女の本心なのだろうか。きっと彼女のことだ。いつもは明るい彼女がこんなことを言い出すなんておかしい。
「……。わたし、ね。すい臓がんって言われちゃった。見つかった時にはもう、いろんな所に転移、しちゃって、もう手遅れなんだって」
「すい、臓、がん…」
彼女からぽつり、ぽつりと聞かされた言葉はどれも残酷なもので俺の心に深く傷をつけた。
「ごめんねぇ。もう長くは一緒にいれないんだ」
そっと俺に抱きついてきた彼女はあったかい。いつかこの体から温もりが消えて、ただ冷たくなるだけかと思うと恐ろしくなり、彼女を強く抱きしめた。
「ほら、泣かないで。君が泣いちゃ私も悲しくなっちゃうじゃん」
俺はいつの間にか泣いていた。聞いた瞬間は現実味がなかったが、言葉を何回も噛み締めてようやく現実を目の前にした瞬間、涙が溢れていた。
「ねぇ私ね。死ぬのは怖くないんだ」
「うん……」
「でもね。私は1人で死ぬのが怖いんだ。きっと、君と一緒に死ねば怖くないと思うんだ」
「……俺は君を失うのが怖い。君がいなくなった世界で、生きていける自信がない」
「君は本当に私のことが好きだね。……あのさ、ちょっと提案あるんだけど」
「なんだ?」
「これから海に行かない?私、夜の海って見たことないんだ」
「君がそう言うなら叶えてあげる」
「嬉しい。深夜のドライブだね」
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「着いたよ」
助手席で静かに寝息を立てていた彼女をそっと起こす。ドライブに行きたいと言っていたが、流石に深夜だから眠くかったんだろう。
「ん…もう着いたの?」
眠気眼を擦りながら、小さくあくびをする。1つ1つのその動作がとても愛しくて感じる。
「うー。流石に深夜の海は冷えるねぇ」
「大丈夫か?」
「平気平気。それにほら見てよ。星凄く綺麗」
彼女は人差し指を天にさして感嘆の声を漏らす。彼女につられて俺も空を見てみると、幾つもの星がまるで宝石の様に輝いていた。こんな星空はプラネタリウムぐらいでしか見たことがない。
「私もいつかあの星になるんだよね」
星空に見とれていたが、その言葉を聞いた途端現実に連れ戻された。そうだいつか彼女は死んでしまう。こんな彼女の言葉を聞いたら、星空を見るたびにきっと彼女のことを思い出してしまう。
「そんなこと言わないでくれ。頼む」
「ごめんね。辛気臭かった?」
「こんな時くらい君が死ぬ未来を想像したくないだけだ」
「そっか。でもね、海に来たのは死ぬために来たんだよ」
「!?な、何言って……」
彼女の言葉を思い出す。彼女は言った。好きな人と一緒に死にたいと。つまり彼女は俺と一緒に海で心中したいということか?
「さっき言ったでしょ。私は好きな人と、君と一緒に死にたいって」
「君は……」
喉に言葉が詰まって何も言い出せなくなる。きっと彼女は延命して、少しでも生きることを幸せだと感じないのだろう。彼女にとっての幸せは俺と死ぬことなのだろうか。
「君は、俺と一緒に死ぬことが幸せなのか?」
「そうだよ。私の幸せは君と一緒に死ぬこと」
「俺の幸せは君と最後まで一緒にいることだ。でも、君と死ぬことじゃない」
「なんで?一緒じゃない?」
「違うんだ。俺は君に延命措置を受けて1日でも長く生きてほしいんだ」
「たとえそれが辛いことでも?」
「きっと君は延命措置を受けて長く苦しむことになると思う。俺は君が苦しむ所を見たくはない。だけど、今君が死ぬ所も見たくはない」
「君は私に生きてほしいの?」
「当たり前だ」
「そっか、そっかぁ……君はやっぱり、優しいね」
彼女はそう言いながらポロポロとこぼしていた。俺は彼女が泣く所を見たことがない。きっと彼女は自分の悲しみを表に出さないで、心のうちに秘めていたのだろうか。
泣いている彼女をそっと抱きしめる。
「俺はきっと君が弱っていく姿が耐えられないと思う」
「うん……」
「でも俺は君に1日でも長く生きて欲しいんだ。俺も現実に向き合う。だから君も…」
「ごめんね。実は私嘘ついた」
「え?」
「本当は君と一緒に死にたいなんて嘘なんだ。少しでも君の気を引きたかった。少しでも君の思い出に私を差し込みたかった」
「そんなことしなくても、俺は君のことをずっと思い続けるよ」
「ふふっ。君もなかなかに重いね」
「知ってる」
「私、延命措置を受けるよ。君と同じ様に私も少しでも長く一緒にいたい。私、頑張るよ」
「俺も出来るだけサポートする。あともう一ついいか?」
「なぁに?」
「俺と結婚してください」
「君、分かってるの?私いつか死ぬんだからバツイチになっちゃうよ」
「別にいいよ。それに前からいつ君にプロポーズしようか考えてたんだ」
「ふへへ。私今、顔ぐちゃぐちゃだよ。こんな時にプロポーズする?」
「返事、聞かせてくれる?」
「分かってるくせに」
「君の口から聞きたいんだ」
「もちろん、喜んで。幸せにしてね」
「当たり前だろ」
初めて短編小説を書きました。誤字脱字があったかもしれません。ここまで読んでくださってありがとうございました。