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スライムな恋

 誤字報告、ありがとうございました。

大変助かります(*^^*)




 この国の前王妃が亡くなって数日後、未だ冷めやらぬ悲しみの中ベッドで過ごす第一王子ラファエロ。


ノックもなく入室した新王妃ビルモアは、投げ捨てるように言い放つ。

「おまえなど、この国に必要ないのだ。 生かして貰っているだけ、ありがたいと思うのね」


ビルモアはそう言い放ち、ラファエロに向かって呪文を唱えた。

「! ノクャジイサ レナニムイラ、ス、テンナエマオ !」


するとラファエロの体は、真っ青なスライムになった。


そして、小さくて鉄柵付きの檻に入れられたのだ。


勿論スライムになれば骨もなくぐにゃぐにゃボディなので、そんな所出入り自由なはずなんだけど。 残念ながら人間の気持ちが強いラファエロは、この事実を受け止められず檻から出ることもできなかった。


声帯は無いはずだけど、大きな口からは何故か普通に声は出せる。

スライムの真ん丸おめめ()からの視界も、以前と同じだ。

あくまでも人為的な魔法だからなのか?


「助けてよ! 僕はここにいるよ!」


だけどどんなに叫んでも、誰も来てくれない。


王妃が消音を含む障壁(バリアー)を張って、声を遮断しているらしい。

それに王子であるラファエロの部屋を、勝手に出入りできる者は少ない。


その後の夕食の席で、ビルモアは悲しげに俯きラファエロの様子を皆に語る。

第一王子(ラファエロ)は未だ悲しみの中にいて、人前には出たくないようです。 しばらく静かにしてあげましょう。 食事も部屋の前に置いて欲しいそうです」


「悲しみはわかるが、皆に顔も見せぬ程弱いとは。 これではワシの後など、とても継げぬぞ!」

顔を険しげに語る国王ガウィン。


しかしビルモアは続ける。

「まあ、国王(ガウィン)様は、私が亡くなっても悲しんで下さらないのね?」と俯き寂しく呟く。


ガウィンは慌て、()かさずビルモアに言う。

「そなたは別じゃ、わかっておるだろう最愛よ」



満足気に微笑みあう2人を止める者はもう居ない。 唯一の止められる者(前王妃)は、既にこの世に居ないのだから。 ちなみに唯一の味方と言える王太后(祖母)様は、前国王(祖父)様が体調不良の為、共に保養地に引っ込んでしまっていた。


ラファエロの亡き母リリスは伯爵家の出であるも、幼い時から癒しの力が使える優しい人だった。 当時の王妃様(現王太后)に、聖女のようなリリスに嫁いで欲しいと希望され輿入れとなったのだ。 しかし当時の王太子(ガウィン)には、婚約はしていないが既にズブズブの恋人、公爵令嬢ビルモアがいた。 当然王太子妃になれると思っていた彼女は激しく抗議をしたが、王妃の命令は覆せない。 国王に相談しても「まあ、第二王太子妃で良いじゃない」と、相手にもされなかったそうだ。


リリスにとっては、味方が乏しく悋気な側妃(ビルモア)もいる王城。

そんな針のむしろ状態だが、リリスはラファエロが生まれた後は仕事に精を出した。 少しでも国民の生活が良くなるように。 そして、少しでもラファエロの立場が良くなるようにと。


しかし国民の支持を集めた結果側妃(ビルモア)に目をつけられ、出る杭を打たれた形とばかりにリリスは即死級の毒を盛られた。

毒を盛った犯人は既に処刑されているが、首謀者はわからず仕舞い。

今後も首謀者の証拠はでないだろう。


亡くなる直前に、リリスが魔力を蓄えていた金のピアスをラファエロの耳に着けてくれた。

「いつかこんな日が来ると思ってた。 これ(ピアス)があれば、外的な損傷なら1度は危険を回避できるから。 置いていってごめんね、貴方は生き延びて………」

聖なる力を持ってしても、解毒は間に合わず…………

椅子から倒れたリリスを抱き上げ、最期の言葉を聞いた後、彼女の体から力は抜けていた。

その顔の両眦から涙が落ち、悲しい姿だった。 

ラファエロは17才になっていたが、すがって泣くことしかできず…………


そしてその後に、ビルモアに呪文をかけられ現在に至るだ。





 今日は国王ガウィンの誕生祝賀祭(王妃の死後1年後)。

祝いの言葉を述べようと、城の周囲を囲むように国民が集まっていた。

「「「おめでとうございます 国王様ばんざーい !!!」」」


国民から見える位置にある城内の大きなバルコニーには、国王、王妃、王子達、王女達、宰相、外務大臣、軍務大臣、財務大臣、厚生大臣、騎士団長、魔法師団長達等の王族の他にも重臣が勢ぞろいだ。


手を振り声に答える国王。

そして(おもむろ)に声を上げたのだ。

「皆の者ありがとう、そして1つ報告だ。

ここで王太子となる者の名を宣誓する、第二王子ブラントンだ。 皆の者、これからよろしく頼むぞ」

「「「国王様おめでとうございます !!!」」」

「「「王太子様ばんざーい おめでとうございます」」」


国王の決定に国民は歓喜の声を上げる。

第二王子も王妃も、満足気に手を振っていた。

そこに第一王子の姿はない。


集う民衆の中でも、第一王子はどうしたんだ?と疑問の声が。

「お前、あの噂知らないのか?」

「噂って?」

「第一王子が、公務をボイコットして引きこもっているって」

「ああ俺も聞いたぞ。 どうやら第一王子は、教師が来ても部屋から出てこないらしいぞ」

「どう言うことだ?」

「部屋から声はするけど、今は出ていけないから帰ってくれと。 そう言ってずっと必須講義もボイコットしているらしい」

「本当か、その話。 第一王子は文武両道で、民の声を聞く優しい方だったぞ。 村にも前の王妃様と、何度も様子を見に来てくれたのに」

「しー、大きな声で言うな。 今の王妃様は、ずっと第一王子が気に入らなかったんだから。 側妃時代から第二王子の方が出来が良いとアピールして、変な空気を作ってたみたいだぞ」

「昨年に突然前王妃が亡くなったは、もしや…………」

「王子は既に城にも居ないって噂、俺も聞いたぞ」

「もう黙ってろ! 俺はもう行くぞ。 お前もその話止めろ!」

「ああ、すまん。 そうか第一王子は、負けたのか……」


大半が祝福気分の中、第一王子を知る者は心配していた。

第二王子が立太子された今、第一王子がスペアになる。

もう16才の第二王子に、健康上の問題はない。 

もし何かあっても現王妃の第三王子が11才で、第一王子がいる方が現王妃にとっては都合が悪い。

お世話になっていた人達は、何もできない悔しさを滲ませて、騒ぎの中に紛れて消えて行った。




《そしてまた王子の部屋へ》

変身魔法と言ってもレベルがある。

・相手からそう見えるように、視界に幻覚を見せるもの

・表面だけを魔法のオーラで包み、変身させるもの

・骨格や内蔵など、生態ごと細胞レベルの変身、これはもう変化と呼ぶべきだろう。


つまり王妃も魔力持ち、それも特級のやつ。

しかもそれを誰も知らさずにいた(俺以外には今でも秘密だろう)。


この姿なので家庭教師が来ても出ていけないが、部屋の中から答えればその声は通じていた。 きっと近くにビルモアがいるのだろう。

食事だってこの姿では、取りにもいけない。

その為、もう数日何も口にしていない。


如何せんその状態に弱気になってしまうが、スライムボディのラファエロには人間の食事は必要ない。

1週間に一度、少量の水分と草と太陽の光を浴びれば十分なのだ。

幸いに日光だけは浴びられている。

後は外に出られれば得られるものばかりだ。


スライムになって3日。

やっと状況が整理出来てきた。

どうやらビルモアは、何らかの理由をつけて僕を幽閉し、衰弱を狙っているのだろう。

でも僕が話せば、ビルモアが行ったことがばれるので障壁(バリアー)を張り、家庭教師には安否確認を兼ねさせて、一時障壁(バリアー)を解除し会話させているんだろう。

自らの意思で閉じ籠っていると思わせる為に。

食事も適当に投げ捨て、摂取していると偽装しているのかも。


それにしても、あれから誰も部屋に入ってこない。

ビルモアさえも。



さすがにスライムボディに(嫌だけど)慣れつつあるので、そおっと柵から体を少しずつ押し出してみる。

「出れた!」

おおっと1人でうるさいかな?

でも、障壁(バリアー)で大丈夫か。


そのままの勢いで、扉の下に体をちょっとだけだして様子を見た。

すると護衛とは言い難い、がっちりとした傭兵みたいな男が扉の前にいる。

僕は思わず声を堪えた。

『なんでここにいるの?』


僕の疑問に答えたのはビルモアだった。

周囲に誰も居ないことを確認し、小声で傭兵みたいな男と話をしている。

「俺達はいつまでここに居れば良いんだ。 いい加減立ちっぱなしは疲れる。 殺るなら中に入って殺ってしまえば良いだろ?」

ややイラつき気に言う男は、年期の入った大剣を背に携え顔にも大きな傷が複数あった。

40代くらいの厳つい顔で、近衛騎士の欠片もない。

きっとビルモアの実家(公爵家)の私兵なのだろう。


「あくまでもモンスター(スライム)に驚いて、逃げる為に外に出たことにしなければならないの。 部屋にスライムの体液が残るのも不味いわ。 部屋でモンスターを殺せば、引きこもっているラファエロを守ったことになり、ラファエロが逃げる理由が失くなるもの。 だからラファエロが、この部屋を出たことにしないとダメなのよ」


それらしいことを話してるけど、結局は僕をモンスター(スライム)として処分する気なんだな。 危なかった!障壁(バリアー)内だったら僕の声は勿論、外の声も聞こえないからそんなことわからなかったし。 

廊下に出たら即死ぬとこだった。

僕は出てもいない汗を拭い、考えを巡らせた。

『よし! 窓の隙間からこっそり出よう』


幸い?なことに、王太后(祖母)が保養地に行ってからこっち、母と僕は古い離宮に追いたてられ、メイドが掃除に来るくらいだ。

食事だけは本宮で家族揃って食べたが、そこで毒殺が起こったのだ。

国王(お父さま)は、当然離宮への移動のことも知っているだろう。

但し僕らには悪いとは思っていないから、ビルモアに咎等はない。

国王(お父さま)にとって、ビルモアが最も優先されるだけのこと。


そして今は掃除さえされず、メイドは食事を扉の向こうに置いて去り、ビルモアの私兵が僕の暗殺を虎視眈々と狙っているだけ。


『もう逃げて良いよね! 僕が居なくなって困るのは、ビルモアの私兵くらいでしょ? 一応監視役と言うか見張りをしていた手前、逃亡を見逃した罪くらいはよろしくだ!』


憂いの無い僕の気持ちは軽く、朽ちかけた窓の隙間から逃げ出したのだ。

形見のピアスは、体の中をふわふわ浮遊している。

口から入った物じゃないから消化されないみたい。


そして僕は、素早い動きで広大な草原を走り回る。

部屋の中や天井歩きで、鍛えておいて良かった!

ズザザザザッ、ズザザザザーと。

「ああー、やっと外だぁ! 自由だー! 草食べるぞー!」

ホクホク顔で頬張る僕に、突然声が掛かる。


「あの~、もしもし」

僕はギョッとした。 

喋るスライムに話しかける奴なんて、きっとビルモアの手先に違いない。

でも条件反射で答えてた。

「何ですか?」

声が自分で驚くくらい、警戒強めの低音ボイスだ。


そして声の方を向くと、空に浮かぶピンクのスライムが居たのだった。

「失礼ですが、貴方も呪いを掛けられたんですか?」

「はい?」

いろいろすっ飛んで、僕は世界の◯◯アツみたいに答えていた。




《ピンクのスライムの話》

「先程は、急に声をお掛けしてすいませんでした。 久しぶりに会話が出来るかと思い、気が急いてしまって!」


何やら謝っているピンクさんは、れっきとした人間だった。

今は浮遊魔法を使って、移動は飛んで行くそうだ。


もともと孤児で、名をサファイアと言う。

瞳の色が青だからだそう。 

ちなみに髪はマロン寄りのクリーム色なんだそう。


他の孤児達と一緒に教会の孤児院で育ち、癒しの力が発現した為王都の正教会に移動になった。

綺麗な寝床で飢えずに生活できることに感謝し暮らしていたが、そこで教会の闇を見てしまったらしい。

・ある時は孤児院や教会にいる見目の良い女子を貴族が養女として引き取り、妾のように扱って子が出来れば子だけ孤児院で引き取る。

・養女として引き取り、政略とも言えぬ女好きに嫁がし見返りを貰う貴族。

・夫婦に跡取りが居らず妾にした娘に子を産ませ、産んだら教会に戻す貴族。

・中には如何わしい店と知りながら働かせ、子が出来れば孤児院で育てるなどなど。


田舎の協会で育ったサファイアには、到底理解が及ばぬ所業だ。

いや、この孤児院も教会もこっそり悪行を行っているらしいので、後ろ暗さはあるのだろう。


仮にも聖職者達が、何故こんなことを。

そんな暗雲立ち込める思考の中、身を寄せあった女達は情報を共有する。

上にあげた非道以外にも、もっと酷いこともあるようだ。

ここには女子だけだが、男子はもっと酷いと。

農業、鉱山、漁業など、日雇いでもきつい仕事なのに、休みなく使役され怪我や病気になれば捨てられると。

そしてそんな捨てられた男達が、さらに弱い女や子供を働かせたり暴力を振るったりに繋がるそうなのだ。


誰も幸せにならない体系(システム)


そこで人買いのような司祭が来た際、サファイアの力を使って一寸づつ抗い始める。

養女を希望した貴族には、魔法で体だけ男に見える魔法を掛けて送り出し、相手先が怒って送り返してきたり。

年若い子を妾に希望したエロ貴族には、年配ボディ(垂れ乳)と出っ腹に見える魔法を掛けて、やっぱり無事戻ったり。

如何わしい店に行った娘には、相手が裸を見ればその相手が即寝の暗示を掛けた。 すると次第に指名がなくなり、やはり教会に戻ってきた。 誰を送っても同じようにすれば、店からの依頼もなくなった。


そして手仕事等、自立できそうな手技を見つけ市井に逃がしてあげる。

幸いなことにサファイアの癒しの力は、膨大な魔力に支えられ毎日人々を癒す。

教会での治癒は治療費が高く、裕福な人達にしか与えられない。

それでも教会は、かなりの利益を得ていた。


だからこそ、あからさまにサファイアの悪戯?であろう行いも見逃してきたのだ。


そして教会での治療を終えると、「もう動けない。 死ぬー」

と倒れるのだ。

教会としては大事な金蔓に倒れてもらっては困るので、すぐに休めと言って部屋に投げ込まれた。


そうして司祭や牧師が帰宅した後、サファイアは市政に出向き少額か無料で治療を行う。

見返りは孤児院を出た後の就職先さがしや、教会で働く女達の嫁ぎ先探しや就職先探しだ。


贅沢は言わないが、身元がはっきりしていて勤務内容が明確なこと。

最初はこれに尽きる。

そんな感じで、1人ハローワーク状態で頑張っていたサファイア。



しかし彼女にも魔の手は伸びる。


「ええっ! 私が王太子妃候補ですか?」

司祭に説明され、戦くサファイア。

もともと王都に連れて来られた理由は、溢れる魔力を王家の手に収めたい理由からだった。

サファイアの治療は、ただのお小遣いかせぎだ。

サファイアが居なければ、また同じような悪事は復活し、教会が潤うことだけが続いていく。


サファイアは思った。

自分が王太子妃になるのは無謀すぎる。

丁重に断りを入れよう。

そして教会の現状を訴えて、改善を図ってもらおうと。


向かった先がラファエロの住んでいた王城、ヨーミンナ王国の国王(ガウィン)王妃(ビルモア)の待つ謁見室。

深いお辞儀をし挨拶を述べる。

「王国の太陽と月に御目にかかり、大変幸福です。 教会に便りが届き参上いたしました」


見目麗しいサファイアの大きな瞳と、背にかかる優しいクリームの髪に目を奪われる人々。

国王(ガウィン)も例外ではなかった。

「こほん。 既に聞いているかもしれんが、そなたにはブラントンの妻となりこの国を支える助けをと望んでおるのだ。 受けてくれるかな?」

優しく話す国王(ガウィン)

それに続け王妃(ビルモア)も語る。

「栄誉あるこの国に嫁ぐのです。 お前の意見など本来聞かぬのが筋。 ですが何かあれば申すが良い。 ただお前はあくまでも今は平民、心して話せ」


すんと、心が急速に冷えるサファイア。

『あ、これ無理ゲーだ。 間違って嫁いだら、王妃に逆らって即死のやつだ。 後、国王エロい目で見んな減る !』

いろいろな悪感情を抑え、落ち着いて話すサファイア。


「失礼を承知でお伝えします。 (わたくし)のような学なしが嫁いでは、王家の汚点となりますでしょう。 私のいる教会には、こんな私でも必要としてくださる人々が大勢おります。 この能力を活かし、生涯国の為に尽くす所存です」

再度深く頭を下げるサファイア。


国王(ガウィン)は、うむそれなら致し方ないなと呟くも、王妃(ビルモア)は怒りを隠せない。

「こちらから是非と願っていると言うのに、なんだその言いぐさは! お前は自分の立場をわかっておらぬようだ。 良いかお前は、末端ではなく頂点となる王族を癒すために呼ばれたのじゃ ! 断る権利などないと思え !!!」

激昂し、手にした扇を投げつけるビルモア。


「加えて申し上げます。 私には過分な身分ゆえ辞退いたします」

再度礼をし踵を返そうとするも、青筋をたて怒れる王妃が叫ぶ。

「その女、無礼を働いたゆえ牢に入れるのじゃ !」


「ははっ !!」


命令を受け、配置されていた近衛兵がサファイアを取り囲む。

そして地下牢へと連れて来られたのだ。

その後に王妃が牢越しに、捲し立てる。

「今なら許してやる。 土下座して妃にと願え !」

「過分ですので、辞退いたします」


「これだけ言ってやってるのに ! はっきり言うわ、平民のお前なんかにたいした用なんてない。 ただ王子に何かあれば、命を捨ててでも守れという任務をこなせと言ってるのだ。 いくらオツムが弱くてもわかるであろう !」


何故こんなに王子に固着するかはわからない。

でもこんな王妃の元に嫁いでくる訳がない。

「何度言われても『ああそう、じゃもう良いわ。 お前この女を犯せ!』ええっ !!」

「ははっ」

まだ若いが屈強な兵士は、牢の鍵を開け押し入ってくる。

その顔には仄かに欲情が滲む。


気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い !!!!!


兵士が袖をひっぱり、服を脱がそうとしてくる。

それを避けようと、肘を勢いよく鳩尾に入れれば悶絶している。

「くそぉ」

兵士は服を脱がすことを諦め、鼻息荒く肩を掴んで押し倒そうとしてくる。

肩を掴む力は強く、痛みに顔が歪む。

「嫌だ。 なによこれ !」

そして押し倒された瞬間、兵士の耳元で囁く。

「レムネクカフ !」


次の瞬間、兵士はイビキをかいて熟睡した。

「ふーー」と息を吐き出し、服の乱れを手で払い起き上がる。


王妃を睨み付けると、「はっ」と叩きつけるようなため息が聞こえてくる。

「魔力の強い者がいると思ったから、勝手なことをしないように監視下に置くつもりだったのに ! でもお前なんかいらないわ。 こんな蓮っ葉、生かしとくのも目障りだ。 何処ぞでのたれ死ぬが良い !」

そう言うと、呪文を唱え始めた。

「! ノクャジイサ レナニムイラ、ス、テンナエマオ !」


すると、サファイアは真っ青なスライムになった。

「おーほほほほほっ。 お前もあの役立たずのように、生涯この姿で生きると良いわ♪」

用は済んだとばかりに、王妃ビルモアは高笑いしながら階段を登って行った。


「ほほう、あの王妃もなかなかやるわね。 でも、私の比ではないのよ、残念 !」

サファイアは舌を出して、微笑んだ。

すると次の瞬間、ボディがピンクに変化する。

魔力量が異常に高い聖女なので、変色したのだろう。

「あーもう、地下って虫いて嫌いなのよね」

そう言って宙に浮いたのだ。


何のことはない、ただの風魔法。

姿もすぐ元に戻れるのだが、汚れを弾くツルピカボディは活用せねば勿体ない。

単純に服を汚したくないだけだとしても。


そして気絶しているエロ兵士に、ちょっとトラウマをお土産に持たせた。 絶対こいつ手慣れてたし、心は痛まないわ。

私も肩痛かった !

「ュルデガミタイタレマサハ、デミサバクタンセ、ガコソアトツタ」

「良し! もうお前は出家しろ。 以上 !!!」

男前の顔をして、必殺する女サファイア。


次に兵士がいたそうとすると、絶叫が襲うだろう、合掌♪



そんな感じでふよふよ上まであがり、扉を開けずとも隙間から出てきたサファイア。

この国ヤバイな、教会の女性と孤児の子供を連れて、元居た地域に引っ越そうと本気で思ったのだ。

前の王妃様は良い人だったと聞いたけど、あの怪物(ビルモア)が居たんじゃ命も危なそうだ。 大丈夫かな?






そんな心配をしていたサファイアだったが、どうやら遅かったようだ。

ラファエロの目から、止めどなく涙が溢れ出す。

「お、僕にもっと力があれば、ビルモアなんか殺してやるのに! なんで僕魔力も体力も少ないの? お母さまを守りたかったよ」

ふえ~~~ん、ふえ~ん、泣き続けるラファエロ。

スライムボディをくっ付けて、体を擦り付けてなぐさめるサファイア。


一部を手にして撫でることもできるけど、せっかくこの姿なんだから、出し惜しみせんよ。


ラファエロもあまりのことにびっくりしている。

「好きなだけ泣きんしゃい。 泣いたら手伝って欲しいことあるの」

ピンクのニコニコスライムを見ると、今までの不安が溶けていくようだ。

ぴったりと僕にふっついて、ずっと話を聞いてくれるピンク、いやサファイア。

スライムボディはヒンヤリするけど、ふっついてると温くなってた。


そして知らず眠ってしまったのだ。



その後もサファイアは、暫く僕と一緒にいてくれた。

すぐに教会に戻って、関わりのある女性達に迷惑がかかっても困るからと。

そして僕の体にあるピアスを見て、すごい魔力が内包されていると教えてくれた。

きっと代々貯めてきた物なのだろうと。

「魔力は女に宿りやすい。 きっと君のとこもそうなんだろう。 この魔力量なら解毒くらい出来たと思うが、毒の効き目が強くて元の状態には戻れないかもと判断したのかも。 後、自分が使ってしまったら、君を守れないと心配したんじゃないかな?」

そうか、最期まで心配かけてたのかな?

でも後のことは良いから、お母さまには生きていて欲しかったよ。 今でもほろりと泣きそうな僕だけど、少しづつ強くなってるよ。


「あ、そうだ。 私の魔法でアホ王妃の呪い解けるよ。 解除する?」

「えっ!」

しれっと言われたけど、戸惑った僕。

人間には戻りたいけど、スライムも良いよね。

水と草があれば十分だし、体液を吸う蜘蛛とか蛇とか動きが俊敏な魔獣に気をつければ、ゴロゴロしてて怒られないし。

サファイアが体くっつけて眠ってくれるし。


それに人間になって、いろいろ出来るか心配なんだ。

勇気がないと言われるかもしれないけど、これが率直な気持ち。


「まあ、良いんじゃない。 変なプライド持つより自分見えてるし。 それに言ったじゃん、手伝って欲しいって。 それにはピアスの力も必要なんだ。 大事な物なのに良いの?」


うんと、僕は頷く。



そもそも聖女なんて、この世にいらない者なんだと言うサファイア。

それが今ここに居るのが可笑しい話さ。

近いうちにこの国に流行り病が蔓延する。

発生源(をこの国に持ち込むの)は隣国の、そう王妃の母親の実家の大国だ。

属国にしようと、弱った時の支配を狙ったんだろうね。

既に公爵家の近しい者は、隣国に避難している。

王妃が(サファイア)を求めたのも、万が一に自分の家族が流行り病に罹った時に治させるためさ。

ある意味、国王やビルモア達は逃げられず残された状態だ。

だって王家が揃って逃げられないからね。


だが、流行り病はこの国だけで終われない。

強い病原菌が残り、世界に流行する。

それで世界は滅びるという未来だ。

そこで私の投入さ、責任重大だよね。

それもこれもビルモア王妃に会って、生まれた理由を思い出したんだから怖いよね、手遅れしたらどうするのよ、ねえ !


まあ、あまり記憶を持って産まれると精神に影響をきたすそうだから難しいね。



「私は1度人間に戻って、善良な人だけに声を掛けるつもり。 君は誰か助けたい人いる?」


聞かれて困った僕。

「居ないかも?」

「そうなの? わかったわ」


王太后(祖母)様も前国王(祖父)様も、保養地に行ってから結局会えなかったし、手紙すらなかったしね。

僕は手紙書いたけど…………ね。

大事な人は守らないと、それで良いと思う。


僕の今大事な人は、王太后様でも前国王様でも、ましてお父さまでもないの。 弟妹さえ大事じゃないなんて情がないね僕も。


だからお互い大事な人を守りましょう。



そしてサファイアは、サファイアの信じる人に話をして同意をもらい予定の場所に来た。 出来る限り病原菌が少なそうな場所に。

そして出来る限り今の生活を続け、流行り病が蔓延する前に皆で変化したのだ。

「! ウオイエイエ、ムイラス、デナンミ」


サファイアと僕のピアスの魔力で、サファイアの選んだ人達を全員スライムにした。

流行り病が落ち着くのは5年後。

それまではスライムで過ごすことになる。


慣れるまでちょっと違和感だけど、慣れると楽なんだよね。


僕はサファイアにくっついて眠る。

嫌がられてないから良いよね。


サファイアは、僕の人間の姿が好みと言ってくれた。

素直に嬉しい♪

僕もサファイアの人間の姿は可愛いと思う。

5年後も楽しみだけど、このままが幸せと言ったら困るだろうか?


だって僕の初恋は、ピンクスライムのサファイアなんだから。

真っ赤な顔を見られると、バレてる気がして恥ずかしい。


君とくっついている今が幸せ♪


僕らの周囲でも、くっついている人が増えた。


意外と良いよ、スライムライフ♪♪♪



4/10 ヒューマンドラマランキング(短編)83位でした。

ありがとうございます(*^^*)


4/21 14時 ヒューマンドラマランク(短編)76位でした。

ありがとうございます(*^^*)

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