6話.クラス替え そして入学式へ
坂を降りきってちょっとした市街地に入ると、駅前にたたずむ少し寂しげなカフェの店先に、見覚えのある人影が立っていた。
なんか苛立たしげにカツンカツンと靴を鳴らして、腕を組んでいる。
ありゃどー見ても智里だな。
……うわあ。
般若のような形相でこっち見てる。俺たち睨まれてる。心なしか俺中心。
こちとら必死で走ってんのに。
「遅いよ! 初日から何やってんのよ」
カフェの前に到着するなり、俺は怒鳴られた。少し待って、賢も辿り着くものの、なぜか智里の怒りの対象は俺のようだ。
「まったく、また寝坊? 今日から彩も一緒の学校なんだから、あんまりみっともないとこ曝さないでよね」
「ちょっと待てよ智里。なんで俺ばかり怒るんだっ?」
俺は心外に思い、彼女へと反論する。
「今回の寝坊は俺じゃない。むしろ無関係だよ」
「はぁ? じゃあいったい、あんた以外の誰が寝坊なんかするわけ?」
「あ、あの……」
俺と智里との間に賢が入る。
が。
「あのねえ、賢。いい? こういうことは、ちゃんっと言わないとダメよ? 叩いてでも起こしてやらないと、陽の寝坊癖は直らないんだからね」
「あ、いや、あの……そうじゃ――」
「そりゃないだろ智里。俺は寝坊なんかしちゃいねえよ。今日は、昨日遅くまで起きてた賢が――」
「嘘言わないでよ陽。賢が寝坊するなんて聞いたことないわよ。賢があまり言い出せない性格を知ってて言ってるなら、陽、あんた人間として最低だよ?」
「お、おいおい。なんだってそこまで言われなきゃいけないんだよ! 俺は嘘なんか言っちゃいねえよ! 賢が寝坊したのは本当だし。どころか俺は、叩いてでも起こしてた方なんだぜ?」
「ね、ねえ、ちょっと。二人とも――」
「陽が起こすなんて、それこそ聞いたことないわよ。覚えてる? 中学校の合唱コンクール。寝坊のせいで1人遅刻したくせに、金賞を取ったって決まった時には、いつの間にかみんなと一緒に騒いでたじゃない」
「過去は過去だろ。高校に入ってもそれなりに遅刻はあるけど、今回に限っちゃ、誠心誠意違うって言える立場だぞ!」
「だ、だから。ねえ、ちょっと――」
俺と智里の間で戸惑う賢だったが、あまりにもあんまりな智里の言い草には、俺としちゃやっぱり言っとくべきことがあった。
「お前な、智里。そうやって何でもかんでも決めつけにするところ、良くないだろ! 中学の時、お前の女友達がバレンタインのチョコ失くした時だって、真っ先に俺を疑っただろ」
しかももらってないからだ、とか失礼な理由つきで。
「あれだって結局、校舎内に侵入した野良猫のせいだっただろ」
「そんな細かいこと、覚えちゃいないわよ」
「あのなあ。俺はあれのせいで、信用ガタ落ちだったんだぞ!」
「あんたの信用? そんなの、あってないようなもんじゃない」
「ああ! お前ついに言っちゃったなこの野郎! 言い放ちやがったなこの野郎!」
「あ、あの……お二方――」
「「賢!」」
「は、はい!!」
俺達の息もぴったりがっちりな呼びかけに対し、賢は怯えながらも答えた。
「賢! 智里になんか言ってやってくれよ。お前が真実を言えばこの場は収まるんだからさ!」
「賢! 陽の言葉に丸め込まれちゃダメよ! こうやってつけあがるんだから!」
「あ、あうあ。あわわ……」
「賢!」
「賢!」
俺と智里は、一歩ずつ賢へと歩みよる。
俺達の影に覆われる賢は、もう溢れだしそうなほどの涙を溜めていた。
「……う、うわぁぁあ~ん!!」
賢は圧倒する俺達を突き飛ばし、学校の方へと駆け抜けていった。
「…………」
「…………」
沈黙。
俺と智里は不意に目が合い、また黙った。
「あの、さ……」
口を開いたのは、智里。
「賢。あんなに速く走れたんだ……」
「そ、そうだな……」
確かに。
ありゃまさに、脱兎の如く……だったな。
「って! こうしちゃいられないだろ。追いかけるぞ、智里!」
「あ! ちょっと待ってよ! 陽っ!」
そうして、朝から二度目の全力ダッシュを試みた。
が。
俺達が賢に追いついたのは、学校での事だった。
無茶苦茶はえーよ。
入学式は昼から執り行われる模様だった。
別に。
「昼からなんてずるい」
だの。
「俺達ばっか午前からなんてかったるい」
だの。
なんだのかんだの
なんたらかんたら
なんとかかんとか
なんでもかんでも
文句なりなんなり言うなんてしないけどさ。
うん、そんなことは言わない。
「けどさ、どうしてこんな席順なわけ?」
新学期。
新学級の新クラスメイトだよな、ワクワクの種は。ドキドキの要因は。
だが、俺の隣には智里がいて、俺の後ろには賢がいた。
俺の席は……真ん中らへんの、まあそこそこいい場所。
でも、新学期の新学級だけれども。
ただそれは
1年C組から――
――2年A組へと
変わったところで、何か具体的な変化が得られただろうか?
いや、変化自体に何かを求めるのは間違いというものだろう。
変化は所詮変化以外のなにものでもない。
ただ、ある一個体が容姿を変え、様相を変え、
状況を変え、環境を変え、
中身を変え、外見を変え、
ただ、その過程からの結果でしかないのだから。
何かを得られるのは、変化した後に生じるものであって、変化それそのものからではないのだから。
なんて。
悠長に、意外に深層に考えてみたり。
クラスメイトは、確かに変わっている感はある。
けど、周囲の人間|(賢や智里)が変わらなければ、去年度とさほど変わるわけもないような気もするのだが……。
今後に期待。
投稿して、ダメ出しをくらった漫画家の気分だ。
「そんなに不満? 陽」
後ろから声をかけられた。
賢だ。
この男とはちゃんと弁解して仲直りは済ませたため、こうして話しかけて来てくれている。
いくら性格が不一致だとはいえ、そこは双子。
心底から嫌いにはなれないし、嫌われることもないのだろう。
俺からすれば、世界で一番、信用のおける一人なのだ。
「いや、これはこれで不満はないけどな、賢」
俺は、本当に気にしていない風に答えた。
「こうしていつものメンバーが揃っている方が、やっぱ楽しいし」
「へえ、陽にしては珍しく素直なんじゃない?」
横からの甲高い声。
智里か。
「いつもは鬱陶しがるくせに。やっぱり、そういうところがなくっちゃだよねー。このこのぉ」
「既に半分くらい鬱陶しいよな、お前は」
智里のキャラ替えはいつ行われた?
微妙におかしくなっている気がする。
入学式前の面通しが終わり、俺達在校生は、体育館に集まった。
慣れないパイプ椅子だが、いつも座っている木のものと比べたら、格段にこちらの方が座り心地がいい。
やっぱり持つべきはクッションだよな。
友達と書いてクッションと読んでもいいな。
そんな友達が欲しい。
特に、誰かからのストレスをやわらげる役目の人。
まあ、ストレスを与えてくる人も、また友達だったりするのだけれど。
やっぱ難しいな、人間関係。
閑話休題。
しばらくして、教員の方々、来賓の方々、保護者の方々が訪れる。
自然、在校生の話し声の一切もかき消える結果となった。
まあ、保護者は自分の子供の入学式だから、在校生よりもにぎやかにはなるけれども。
在校生の方は、結構な緊張感をくらうものだ。
ああ、あれだ。
あの……小学校の頃、半年に一回ペースで校長先生が
「今日は、この学級と一緒に給食を食べようかな」
なんて勝手にずけずけと入り込んでくる意味不明なイベント。
何のフラグも立たねえ。
「あれえ? ここのクラスは、あまり活気がないなあ。おとなしくていいクラスだ」
おめーがいるからだよ……。
そして閑話休題。
というか。
当然、彩の両親も来てるんだよな――。
「ねえ、陽」
そう思うと、いきなり智里が話しかけてきた。しかも後ろから。
「なんだよ?」
「あれ見てよ、あれ」
声を潜めてくるのはいいが、肩を強引に掴むのはやめてくれ。
まあ、そう邪険にする必要もないので、智里が小さく指を差す方向を見る。
「あれは――」
そこにいたのは、彩の両親だった。
しかも最前列にいやがる。抜け目ねえな、相変わらず。
「そうじゃなくて、その隣だよ」
智里の小さな言葉が耳に気持ちいいが、どうやら何か焦っているようだった。
どうしたんだ?
そうして、視線をスライドさせてみると――
「っな!?」
大声を出しそうになって必死にこらえた。
ちょっと待て。
冷静になれよ。
今日は俺、なぜここにいる?
始業式があって、入学式に出るためだ。
そして、在校生として、新入生の新たなる生活の始まりを迎えるためだ。
そう。
俺は迎える側として、このパイプ椅子に座っている。
けど、なぜ――?
彩の両親の横の席――最前列に座っているのは、なんと俺(と賢)の両親だった。
しかも、ご丁寧に智里の両親同伴ときてやがる。
なんでだよ!?
あんたらは去年来ただろうが!
なんだ? あれか? 毎年恒例の花見に参加する気分で来てんのかあんたたちは!
ここはそういう場じゃないの!
その席はそういう席じゃないの!
しかし――どうやら、三世帯で、彩の晴れ姿を見に来ているご様子だった。
入場料払うわけじゃないからいいけど。
いや、むしろ、だから来たと言うべきか。
なら、来年からはとるべきだな、入場料。
どこに似非保護者がゲリラ出演しているか分からない。
「まあ、おとなしく見ててくれれば、別にいいと思うけどね」
俺も、智里の意見に賛成だ。
別に応援旗を振りかざすわけでもない。
別にサインをねだるわけでもない。
別に「彩たん萌え~!」などと叫ぶわけでもない。
いや、三つ目ならあり得ないでもないけど。
ま、恥ずかしい真似さえしなければ(既にしている感が否めないが)、別に大丈夫だろう。
そして。
入学式は、幕を開けた――
どうもお久しぶりです。NOTEです。
いつぶりになるのかはわかりませんものの、読者のみなさんに忘れられていないことを願いつつ、更新を行っているばかりです。
今回は、というか、更新当日である本日は、勤労感謝の日。
と、いうわけで、現段階での主要メンバー4人3組の両親が、全員登場したわけではあります。
偶然、今日この日に登場したまでで、初めから、この6話に入れる予定ではありました。
ええ。
そうです。
彼らの両親たちは、子供思いのいい人たちなのです。
常識に欠けますが。
ということで、今回は終わりです。
次回は、入学式の内容――またはそんなのぶっとばして入学式後のことになると思われます。
まだまだ、終わりませんので、見てくださっている方は、これからも末永いご愛顧、よろしくお願いします。
NOTEのおふざけに、どうぞお付き合いください。
感想、評価、コメントや意見などなど、まったく手を抜かず全力で待っております。
「私には読んでくれる読者がいる」
それだけで勇気づけられます。