36話.やっと学園モノらしく
私立彩桜学園の日常的な日々。
特に面白そうな気配のするタイトルではない。
その上、最近では『日常的な』ものではなくなってきているし、なおかつ『学園』の部分までもがないがしろにされている。
こんな状況でいいのであろうか。いや、作品そのものがおもしろいならいいのかもしれない。しかし正直、この作品には奥深さもなければ爆笑できる箇所もない。つか主人公がモノローグとはいえここまでストーリーにダメ出ししてる時点で間違っている(感想には個人差があります)。楽しく見てくれている読者に申し訳ない。
「ということで、今回は我がクラスメイトを紹介したいと思う」
「陽ちゃん、急にどうしたの?」
週が明けての月曜日、俺こと竜崎陽は登校中に幼馴染から心配された。
ルームシェアリングという読者に忘れられているであろう設定上、登下校は嫌でも一緒に歩くことになる。今日は四人仲良くの登校だった。
まぁ、智里とは土曜日から口をきいてないんだけど……。ケンカ中である(これも忘れ去られつつある設定)。賢から俺や智里へ仲裁なり仲介なりが入ったが、俺は怒っていないのだからどうすることもできない。智里が勝手に怒っているだけだ。
俺がからかったのが悪いんだろうけど。
そんなわけで、智里は賢と共に俺や彩の後ろを歩いている。
「なんか、久し振りに学校へ行く感覚があるな……」
「え? いつも通りに週末を過ごしただけじゃん。陽ちゃん、そんなに濃い時間を過ごしたわけ?」
日曜日に俺がどんな目に遭ったか、彩たちには話していない。あんなバトル展開や車で脱出なんてことがあったんだ(車は適当な無料駐車場に置いといた。今頃レッカー移動されてるかも)。
いらぬ心配をかけさせたくないし、あらぬ誤解を受けたくない。
それに、昔つるんでいた利家さんのことを、こいつらは快く思っていないからな。
なにか特別な用件でもない限り、俺とあの人は、今後会うことはないだろうと思う。
「いやー。登校の時間って長いようで、案外短いよね。だるぅい気持ちで起きたのがついさっきのような気がするよ」
彩が言う。
「そうだな。楽しい時間は早く過ぎるっていうけど、朝の爽やかさがそうさせるのかもな」
後列は重苦しい雰囲気だけど。
俺たち四人は教室に入った。そこには去年から一緒の人間、あるいはクラス替えにて幸運にも俺と同じクラスになった人間もちらほら。
「陽ちゃんと同じクラスになるのは幸運なの?」
「黙っとけぃ、彩ちゃん。俺のモノローグに口を出すな。久し振りの更新なんだから、このお話」
っつか、やっぱ閑話でのペースが本編にも引きずられてるな。
悪い傾向だ。
気を取り直そう。
ともかく、俺たちは二年生の教室に到着したのだ。
これで予告通り、俺のクラスメイトを紹介できるってもんだ。
さて、誰から紹介したものかって……あれ?
俺は教室をざっと見渡したあとで、横にいるツインテール少女を見る。
「なんでお前がこの教室にいんだよ!?」
「そうなんだよ、陽ちゃん」
俺が渾身のつっこみ(絶叫Ver.)をかましたにもかかわらず、彩は腕組みをして神妙な顔をする。
「よく考えたら、この生活がずっと続くんだよ、これから。朝、みんなで楽しく登校したっていうのに、生まれたのが一年遅いっていう理不尽な理由で三人と離ればなれになっちゃうんだよ! こんな悲劇の別れが毎朝繰り広げられるんだよ!」
「オーバーに両腕を広げるな。必死そうな顔をするな。毎日の放課後には感動の再会があるんだから」
「放課後は必ず会えるって限らないじゃない。用事があったら下校時間がずれるんだから」
「そうだけどな……」
「というわけで、私はこの教室で授業を受けます」
「はぁ!?」
どんな急展開だ!
そんなとなりのトトロみたいな画ヅラに耐えられるか!
このツインテ、この話を崩壊させる気か!?
「俺は賛成だぞ、陽!」
彩へ抗議しようとすると、違う方向から声が飛んできた。
「俺の名前は長内深黒だ。よろしく、お譲ちゃん」
「は、はぁ……」
突然寄ってきた俺のクラスメイトは彩に手を伸ばす。彩もそれに応えようと手を握ろうとするが、それより前に俺が彼の手をペシンと払った。
「俺の幼馴染に触れるな、変態が」
「な、なんと!」
深黒は心外だ、とでも言いたげなオーバーアクションをした。
いや、こいつは常にオーバーリアクションだけどな。
「一年からの付き合いじゃないか。変態なんておかしな言いがかりはよしてくれよ、陽くん」
「黙れスーパード変態・ザ・カスタムめ。彩がお前を知らないのをいいことに近寄ったりしてんじゃ……」
人差し指をつきつけて堂々とキメたつもりが、そこに深黒の姿はない。
……あれ?
どこいった?
「あなたは魅力に満ちている。そのあどけない瞳、清浄な心。この世に舞い降りた天使か、はたまた男を魅了してしまう女神か……」
「は、はぁ……」
背後で気持ちの悪い口説き文句と困惑のあいづちが聞こえた。深黒のやつ、俺では話が通らないと思って彩へ直接話しかけやがって。なんとしても近づけてはならない。
「あのなぁ」
振り返り、再び口を挟むことにする俺。
「陽ちゃん、なんでそんなに必死なの?」
彩が疑問を呈す。不思議そうに小首を傾げていた。
でもそこは彩。少しだけ笑っているように見える。空前のモテ期到来に、俺が止めるものだから、その様子がおもしろいのだろう。
恋愛感情うんぬんよりも、俺の焦っている姿そのものがおもしろいのだろう。案外、腹黒いやつなのだ。
だが違う!
これには厳然たるワケがある。
別に、彩に男が言い寄ろうが知ったことじゃない。彩がどんな男と好き合おうが付き合おうが知ったことじゃない。
俺の見えないところで育めばいいし、俺の知らないところで展開されるべきだ。
けど彩には、間違った道に踏み入ってほしくはないんだ。
長内深黒などと付き合ってしまっては、彩の人生が破滅する。
「その男はな、ロリコンなんだよ」
「え?」
「ちょ、おいバカ!」
放心する彩。
慌てる深黒。
まぁ、予想通りの反応だな。
「俺は断じてロリコンなどではない! 確かに女子や女児は好きだ。だがそれは彼女たちをロリータと見ているわけではない。彼女たちはあの幼年にして既に立派なレディなのだ! 女子高生などはもう熟女と断定して構わないんだ!」
「ご高説の最中悪いが、俺の背中が妙に痛いんだけど」
おそらく、クラスの女子たちの鋭い視線が深黒を射抜いているんだろう。とんだ流れ弾をくらったもんだ。
この場にいるのが恥ずかしい。
「な。こいつはこういうやつだ」
俺は彩の肩に手を置いた。もう一方で指差す先には、女子たちの視線にビビった深黒があとずさっている。
「女子中学生を見ればケータイで写真を撮ろうとするし、女子小学生を見れば口説こうとし、幼稚園児を見れば仲良くなって家までついていこうとする。その都度、止めに入るのは大変なんだぜ」
恐ろしいことに、年齢が下がるほど接触レベルが上がっている。
「本当にいたんだ、ロリコンって……」
「ああ。傷んでるよ、あいつは」
あるいは病んでるのか。
「おい貴様! どさくさにまぎれて何をその子と話し込んでいるのだ!」
顔中にたんこぶや青アザを増やした深黒が叫ぶ。
「いや、お前。その『どさくさ』の間に女子たちとどんなことがあったんだよ……」
紅の豚のラストシーンみたいになってんぞ。
「ともかく! その子がこのクラスに来るというなら、俺は喜んで迎えるぞ!」
「俺も賛成!」
「あ、俺も俺も!」
なぜか男子陣は盛り上がっていた。長内深黒の横にはいつの間にか彼の支援者となっている数人の男子の姿が。
なんだ、この形勢逆転。
幾年前の自民党の気分。
主人公交代とかあんのかな。嫌だなそんな小説。
いや今はこの状況を打破せねば。このままでは俺のクラスに彩が加入してしまう(ありえねーけど、なんでもアリだからなこの話)。
どうしよう。
なにか手を打たねば。
と――俺が圧され気味になっていると、
「朝から騒ぐなぁ!」
甲高い声が空気を引き裂いた。
シンと静まる教室。
声のした方を振り返ると、そこには学級委員副委員長・河原志保美が仁王立ちを決め込んでいた。
今更ながら登場。
河原志保美。
彼女が今回メインとなる人物である。
更新遅くなりましたねNOTEです。
はじめに断っておきますと、冒頭の陽の語りはあくまで主人公である彼の思いですので、本作を楽しみに読んでくださってる方々、これからも自分の感想に自信を持ってご覧になってください。
これからも本作をよろしくお願いします。
さて。
はい、そうです。
河原志保美の登場です。
やっとまともなクラスメイトです。
やっとまともな学園モノです。
露原湊、九一咲苗・菊花に続いて、第三章(?)のヒロイン(??)的な立場です。まぁ、ボンドガールみたいなのと捉えていただければ……。
あ、それにもう一つ。今までサブキャラが何人か出てきました―利家さんとか、深黒とか―が、今後も登場するかどうかは不明です。名前だけ出てきた現・生活委員長ですら登場未定です。
作者のまとめ力に期待しても無駄ですのであしからず。(最終回で全員出てくるとか、そんなのは実現不能でしょうねー)
あとがきに書いてあることなんて読み流してくださって結構ですので、どれが本当でどれが冗談なのか判然としませんが。
とにかく。
やっと新たな展開を迎えるということです。
ちなみに、前回のはあれで終了です。消化不良ぎみでも終わりは終わりです。また別の章で前回のに関連させられたらいいなーとは思いますけどね。
更新の間隔が長かったのであとがきも長くなりましたNOTEでしたー。