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35話.九一菊花


「よくわかったね、竜崎りゅうざきようさん」

 喉元に突きつけられたダガーナイフ。その刃先よりも鋭い目つきだった。

 俺は車を走らせながら彼女を見る。

 九一ここのいち咲苗さなえを。

 小さな女の子だ。同い年だろうか。一つ学年が下と言われても納得できそうな矮躯。

 そんな彼女が……どうしてこんな……。

「彼女、じゃないよ。もうこんなことする必要もない」

 すると九一さんは自分の髪を掴み、一気に引っ張った。髪の毛が抜ける。いや、脱毛進行中というわけではなく、カツラを脱いだだけだった。

 それはウイッグじゃない。そんなおしゃれのためにつけてあるわけじゃなく、それは――

「変装……か」

「その通り。まぁ誰でも見りゃわかるでしょ、そんなの」

 九一さんの下から出てきたのは、男の子だった。九一さんに瓜二つの少年。カツラを被るだけで十分本人だと思える顔立ちだった。

 見てみるとかわいらしく思うが、その顔は、歪んだ笑いに染まっている。

「お前、誰だよ……」

「そうだね。活殺自在な相手の名前も知らないんじゃ、死んでも死にきれないよね」

 彼はダガーナイフを構えたままで名乗った。

「僕の名前は九一。九一菊花(きくか)だ」

「九一?」

「さっきまで名乗っていた九一咲苗。僕はその弟だよ。双子のね」

「な、なんだって」

「君たちと同じさ。君たちと違って、僕たちは二卵性双生児だけど。それでも昔からよく言われたよ。咲苗に男のこの服を着せれば菊花みたいで、菊花に女の子の服を着せたら咲苗そっくりだってね。僕たちは、世界一似ている二卵性だよ」

「へえ。性格の方は全然似てないみたいだけどな」

 というか、今まで双子という設定が活かされていなかったこのストーリーについて、他の双子が、主人公よりも早くその設定を活かし始めたのが驚きだよ。

「で、お前は何者なワケ? なんで俺、切っ先を向けられてんだよ」

 ただナイフを捨てるよう勧告しただけだろ。こんなバトル展開に発展するようそなんてなかったはずだ。少なくとも、俺には戦う意思がないからな。

「君がナイフに気づいたからさ、竜崎陽。ただそれだけだ」

「それだけって……」

「僕たちは君のことを知っているよ。君の過去も、交友関係も、弟の竜崎賢のこともね」

「へえ、そりゃ光栄だな」

 とんだ有名人になったもんだ。

「けど、だからなんだってんだよ。俺のことを知ってりゃ恫喝どうかつしていい法令でもあるのか? それに僕たちってなんだよ。まるでお前がどこかの組織に属してるような言い方――」

「生徒会だよ、僕も咲苗もね」

「生徒会?」

「そして生徒会は君を危険視している。君の経歴を知っていれば当然だと思うけ――」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

 何言ってんだこいつ? さっきから抽象的な表現ばっかりで大事なことがほとんど読み取れない。俺はそれ程頭がいいわけじゃないんだぞ。

 まずは順番に、こいつに話を確認しながら質問していこう。

「最初に。お前は九一菊花。九一咲苗さんの弟なんだな? 双子の」

「そんなところから確認するの?」

「いいから答えろよ。こっちは頭の整理で忙しいんだ」

 オートマチックとはいえ運転中だしな。菊花は面倒くさそうに肩をすくめる。

「わかったよ。その通りだ。そして二人とも生徒会執行部に所属している」

「その生徒会のあんたが、なんであんなところに囚われてたんだ?」

「僕は囚われていたわけじゃない。むしろあそこを仕切っていたんだ」

「……? どういうことだ?」

 菊花はやれやれ、と頭を振ってから答えた。

「君を追いかけてきたやつら。あれはみんな生徒会の息がかかった者たちだ。ちょっと人相は悪いが、従順なやつらだよ」

「おいおい。じゃあお前がいたあの場所は独房の役割をしてたんじゃなく、お前が居座るためのボス部屋だったってわけかよ」

「そうだよ」と微笑む菊花。

 なるほど。そう考えればあの部屋の豪華さにも納得がいく。それに、『捕まっている』という同じ待遇のはずだった俺と別々の部屋だったことにもな。

 一人をVIPルームに、一人をあんなコンクリートの部屋に置いとくことないもんな。二人ともあの冷たい部屋においときゃいいはずだ。

 けどこいつは捕まってたんじゃない。こいつ自身があいつらに指示を出してたんだ。俺をあんな部屋に縛り付けておくことを。アイコンタクトかなんかでな。

「で、生徒会があんな廃ビルでなにしてたんだよ」

「そんなことを君に話す必要はない」

「そうかよ」

 即答しやがった。なんかむかつく。

「なんだその目は。僕に挑発してるのか?」

 ナイフを俺の首につけるな。こっちだって死ぬのは恐いんだよ。

 気を取り直して、質問を続ける。

「じゃあ次だ。俺の過去を知ってんだな? だからってなんでこんなこと……」

「このナイフは一応、だよ。君の過去を知っていれば当然の処置さ。一瞬で僕を倒さないとも限らないからね」

「そんなことしねーよ。俺はもうケンカはしないって誓ったんだ」

「でも、君の力は十分、生徒会の邪魔になり得る。少しでも首を突っ込むようなら、ここで排除しておこうと思ってね」

「物騒な言葉を使うなよ」

 ますます似てねーぜ、あんたらご姉弟きょうだい

 生徒会の邪魔、ねぇ。どうせその生徒会の活動内容も教えてくれないんだろーし……。

「それより、このまま帰ってもいいのか? 俺は今自宅に向かってっけど」

「いや、学校に向かえ。僕はそっちで降りる。君がこれ以上首を突っ込まないと誓うなら、このまま帰してやるよ」

「何やってんのかも知らねえのに、俺が何をしようってんだよ。それに、そのナイフをそろそろ下ろしてくれ。このままじゃまるでバスジャックだ」

 ふん、と悪態をつきつつ、彼はナイフを下ろした。張り詰めた糸が緩んだように、首元の力が抜けていく。もうちょいでつるところだ。

 自宅に向かっていた車を学校の方向に合わせる。ってか、簡単に了承してよかったのか? 学校関係者に俺が運転してんの見つかったらまずいだろ。それ以前に、菊花がこの事を生徒会に報告しないとも限らない。

 ヤバくね? 二年生に進級して何日もしない内に退学とかありえねえよ。

 すると、俺の心中を見通したのか菊花は、

「心配するな。ちくるつもりはないさ。一緒に乗った僕まで同罪だ」

 と言ってくれた。

 なんだ。

 こうして見ると意外とかわいいところがあるんじゃないか。素直に生活してれば、こいつだって異性同性かかわらず好かれると思う。

「勘違いするな。慣れ合うつもりはない。貴様が身を引かないなら、いつでもその身体を引き切ってやるからな」

「………………」

 素直な殺意を向けられました。

 前言撤回。

 まったくかわいくねえ。貴様とか言ったぜ、今。

 校門が見えてきたところで、俺は速度を緩めた。

「そういえば」

 菊花がそう言ったのは、そんな頃だった。

「竜崎賢は風紀委員だったね」

「ん? ああ。ってあれ? 確か生活委員じゃなかったっけ。やることは風紀委員と変わらないけど」

「そうか、変わったんだったね」

「変わった?」

 既に止まった車はアイドリングを続ける。俺はやっと、ちゃんと菊花の方を見た。こう見ると、ますます似てるな、九一咲苗さんと。俺たちもこうなんだろうかと思いながら、話を続ける。

「前は違う名前だったのか?」

「ああ、君は知らないんだ。以前はね、『風紀委員』って名前だったんだよ。それが、ある時から名前を変更させられた」

「変更させられたって……。まるで罰を受けたみたいに」

 俺はまったく意識しない形で口走っただけだった。

 が、彼は口元に笑みを浮かべた。ナイフを構えた時のような、凄惨な笑みを。

「そうだよ、罰を受けたんだ。僕ら生徒会の手によってね」

「せ、生徒会が!? なんで!?」

「邪魔をしたからさ。名前を奪われるというのはそのものの否定だ。道場破りが看板をいただいていくのと一緒さ。名前がなければ名誉も奪われる。この名称変更には、それだけ重い意味があるんだ」

 名前を奪った?

 名誉……いや、もっといえば存在を奪ったのと同じだ。単なる名前の変更じゃないのか。その裏にどんなやりとりがあったってんだ?

 どうしてこいつはこんなにも、愉快そうに笑うんだ?

「まあ、その頃には僕もこの学園にはいない。訊くなら、鈍丸にびまる清司せいじを訪ねるといいよ。生活委員がまだ『風紀委員』だった時代の、最後のメンバーだからね」

「鈍丸、清司……?」

「そう。現・生活委員長だ」





 解説の回でした。

 会話劇ですね。モノローグもあまり挟むことなく。ずっと車内でした。

 無理やり作った設定じゃないですよ。以前からこういう話にする予定でしたからね。一年も置いてしまったのは……まぁ……なぁなぁになってたっていうか……。

 まぁ、これからはできるだけ続けていけるようにしたいと思います。

 コメディ的なやりとりも積極的に交えたいので、どうか見届けてくださるようお願いします。

 あ、冒頭の「NOTEです」を忘れました。NOTEでした。



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