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34話.脱出


「あの、もう一人の方は大丈夫なんですか?」

「ああ、あの人なら平気だろ。なんせ、警察の目すらかいくぐって生きてる人だから」

「え、え?」

「シートベルト、ちゃんと締めてくれよ。直進できる保証はねえから」

 目を白黒させる九一ここのいち咲苗さなえさんへの言葉もそこそこに、『アスリート』のエンジンキーを回す。

 静かな、しかし重厚な振動を感じつつ、メーターがゼロに戻ったのを確認する。

「行くぞ」

 ギアをチェンジしてサイドブレーキを下ろすと、廃ビルから3、4人の男たちが出てきた。どうやら俺たちを追ってきたらしい。


 俺を救い出してくれたのは九一さんだった。ドアノブを捻る音が聞こえて振り向くと、そこに九一さんはいた。

「ここにいたんですか。逃げてください」

 彼女は俺のそばで屈み、ロープをほどいた。随分とあっさりほどいたな。

 ってゆーか切ったか?

 助けてくれたからいいけど。

「ありがとう。よくここがわかったね。ビルの構造には詳しいのか?」

「そんな話は後です。さあ早く」

 そんなこんなで脱出しちゃったとさ。


 明らかに殺気立った目つきで近づいてくるお兄様がた。ありゃ簡単に帰してくれそうにないな。

 んーやばくないかなー。もしかして利家としやさん、捕まったかもな。

「まぁ、待つつもりはないけどな」

 アクセルを踏み込む。エンジンの回転数が急上昇すると同時に、車体は一気に加速した。スポーツカーとかじゃないから、あまり派手な音はならないけど。向かってくる男たちが慌てる。ザマミロ。アクセルを緩めるつもりはない。俺はハンドルをとられないよう用心しながら、男たちの方へ突っ込んだ。

 わーはえー。

 唸りを上げた闘牛にでも見えたのだろうか。

 男たちは情けない悲鳴を上げて散り散りに避けた。そりゃ恐いよな。車が急スピードで突進してきたら。

 男たちの間を高速で抜け、そのまま車道へと飛び出す。アクセルワークをコントロール……そして、ブレーキを駆使しながらハンドルを回す、と。そんなこといちいち考える暇なんかない。なぜか勝手に身体が動いていた。

 しばらく走行すると交差点にぶつかった。そこから大きな通りへ出て、車線の流れに乗った。

 穏やかな速度でのドライブを心がける。

 少しすると赤信号に引っかかった。

 止まる。

「…………」

 車内の『どうにかこうにか落ち着いた感』が沈黙へ誘う。けど、その沈黙がどうも落ち着かない。

 変に落ち着く作用でもあんのかこの車種は。座り心地抜群だし。ってか、なんでそもそもあの人、こんな高級車なんか乗ってんだよ。絶対に正規のお仕事や手続きで手に入れたもんじゃねえだろ。汚い金でも使ってんのか。汚い仕事でも扱ってんのかなあの人。最近会ってなかったから詳細がつかめない。

 ミラーで背後を確認する。

 追手は来ないだろう、たぶん。じゃなきゃ利家さんを置き去りにしてきた意味がない。せいぜい時間稼ぎになってくれ。

 そして沈黙。

 とにかく、沈黙。

 どうしよ。

 音楽でもかけようか。いやいくらなんでもそれはなー、とか思いつつ、HDDの音楽を聞こうとスイッチを押すと、

「ダダダッダダッダッダ! ダダダダダダダダダダダ! ダダダダダダッダッダ! ダダダダダダダダ! ッダーダダダダ!」

 超大音量の音楽が流れた。俺も九一さんも身体をビクッと、一瞬宙に浮かせた。いやマジで。

 耳を抑えながら慌てて音楽を消す。その後は言わずもがな、痛いほどの無音が、壮絶な疲労感と共に流れ込んできた。

 おいおい利家さん、なんでこんな車の中でRockn'Rollしてんだよ。

「……あの」

 沈黙に耐えかねたか、九一さんが口を開いた。

 信号が青になる。

 返事をしつつ、発車する。

「竜崎さんって、確か同じ学年ですよね?」

「そうだろうよ。九一さんはけんと一緒に生徒会してんだろ? 賢は九一さんと同じ学年。そして俺は賢の双子なんだから、同学年で間違いない」

「ってことは、高校二年生」

「わかりやすい解説ありがとう」

 これを見てる誰もが設定なんて忘れてるから助かる。何カ月ぶりの更新なのに一切そこに触れないとはどういうことだと、ずっと思ってたからな(更新サボりをいじるネタも飽きたのだろうかこの作者)。

「竜崎さん。なんで運転できるんですか?」

「ん? ああ」

 そこつっこむの遅くね?

 乗り込む時に指摘してもよさそうなもんだけど。そんな心理状態じゃなかったか、その時は。

「昔ね、あらかた教わったんだよ、色々なことを。それこそさっきの利家さんとか、いろんな大人に。どの車種が気持ちよくかっ飛ばせるとか、どの銘柄がうまいとか、ストレートとかロックとか」

「あの、ごめんなさい。理解力が足りなくて……」

「ん? なんで謝ってんの?」

 っていうかこの車どうしよう。停めておくとこなんかねーぞ。

 まぁそこら辺の路肩に停めとけばいいか。そのうち優しいお兄さんがしかるべき場所へレッカー移動してくれるさ。

 俺はもと来た道を逆走しつつ、自分の居住地へと向かった。九一さんもお隣さんのはずだから、このまま送っても問題ないだろう。

 このタイミングで本来行くべきは警察なんだろうけど……俺にはそんな選択肢、とうの昔になくなってる。利家さんが絡むできごとに警察を介入させたらまずいだろうし。

 あの人はそういう世界で生きてる人だ。巻き込むなよなー。こちとら平和に過ごしたいんだから。

 このお話が始まった時の「日常的なゆる~い感じをのほほんと書いていきま~す」ってコンセプトはどうした。バトルやら事件やらのテコ入れなんかいらねーんだよ。

 1年近くほったらかしのストーリーに読者数なんか稼ごうとしてんなよなー。

「そういえばさ、九一さん」

「はい?」

 俺の声に小首を傾ける九一さん。かわいー。

「朝の封筒さ、賢に渡すって頼まれたやつ。あれ、なんだったんだ? 俺あの後すぐ拉致られたから、賢に内容聞くこともできなかったし」

「え? えーと……なんでしたっけね」

「あれ、もしかして極秘ってやつ? 実はあの中に賢へのラブレターが入ってたりして……」

「えと。あの、うー……」

 なに、その表情。

 いやいや、いやいやいやいや、何をマジになってんですか。

 んなわけねーじゃん。

 だってA4サイズの茶封筒だよ?

 生徒会執行部って書かれてあったんだよ?

 そんなのにラブレターなんか入ってるはず……なきにしもあらず、いやいやないって。

 賢に恋人って。

 そんなのありえねえよ。だって、俺だっていないもの。賢にいて俺にいないとかはありえないじゃん?(誰に語りかけているのだ俺は)

 あの弱気な賢ちゃんが女の子と二人きりで歩いたり手を握ったり××××××なんてそんなそんな……。

「実は……そうなんです」

「うそだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 叫んじゃった。

 うん、叫んじゃった。

 走行中の車中で今までの人生をすべて覆すくらい大きな声で叫んじゃった。

「……っていうのは冗談にしてもだ、九一さん」

 一変して冷静な声で告げる。

「そのスカートの裏に隠し持ってるもの、危ないから捨てれば?」

 と言った。

 いや、言おうとした。

 言葉としては半分以上を紡いだだろうか、とにかく俺が何を言おうといているのか察知できるところまではいったのだろう。そのタイミングで。

 俺の喉元には、ダガーナイフが突きつけられていた。

 シルバーの装飾を施された柄には、九一さんのしなやかな指が絡みついている。

 彼女は俺にナイフを向けながら、微かに笑っていた。





 一年くらい空いてしまいました。これを投稿したところで一体何人が見てくれるやら。

 後書きの書き方も投稿の仕方も忘れていたNOTEです。

 一年ぶりってことは少しは成長したのかと思いきや、ですよ。

 それが全然なもんで。

 相変わらずの急展開を描いてしまいました。

 ナイフって……。

 これからまた更新できるときが来ることを願って締めさせていただきます。

「やべえ、なんだこの暑さ」が最近の口癖のNOTEでした。


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