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3話.ワンピース

 春休み中に登校などという意味のわからん補習に付き合わされた挙句、昼で放課という放任主義にいい加減腹立たしく感じた今日この頃。この瞬間を持って、俺こと竜崎陽は、教育委員会及び彩桜学園職員連中に本格的な殺意を覚えたことを大々的に宣言致します。

 合戦じゃ。

 乱戦じゃ。

 襲撃じゃ。

 闇討ちじゃ。

 と、3話目でいきなり「彩桜学園の非日常的な日々」へとタイトルが変わる覚悟を決めた俺だったが、そこはそれ、賢や智里になだめられて、とりあえず俺たちは昼食を共にとることにした。

 いや、確認しておくが、俺は短気ではない。

 そりゃ一時期短気な時もあったよ。

 人間だし、反抗期は迎えるものだ。

 それも、俺としては短い方だったけどな。

 短い短気。

 短期だったな。

 それは置いておく。無駄話だから。

 閑話休題と言ったっけか(これ自体が無駄話)。

 さて、俺と双子の兄である賢、幼馴染の智里はファミレスに向かっていた。

 道中、こんな話で盛り上がる。

 俺たち兄弟の間で歩いていた智里が話しかけてきた。

「そういえばさ、陽は料理作ってるんだよね?」

「お前と違ってな」

 殴られた。

 相槌あいづちを間違えたらしい。

 中指を少し立てていたらしい。先端がこめかみにヒット。目の前に火花が散った。

 そんな局地を狙うな!

 暗殺拳法の使い手かお前!

 どこの世界に幼馴染を昏倒させるやつがいるんだよ!

「っつー……まぁ、作ってるよ……」

 痛みに耐えながら、俺は相槌を打ち直した。

 クリーンヒットした瞬間には「ぐえっ!」とか言っちゃったけど。

 耐えきれなかったし、実際。

 叫びたかった。

 俺の外傷などを気にする風でもなく、智里は続けた。

「でもさ、二人ともいつもパンじゃない? 昼ごはん。だったらさ、陽がお弁当でも作ってくればいいじゃない、賢の分まで」

「えー、やだよぉー。朝起きれねえし、面倒だしぃ」

 やるべきことは母親じみているのに、それを面倒だからと駄々っ子さながらに断る高校生、それが竜崎陽だ。

 別に己を恥じてなどいない。

 俺が恥じているのは料理のできない賢である。

「その言い方は酷いよ、陽」

「だから、毎回毎回お前は俺の頭の中を覗くな。プライバシーの侵害で訴えるぞ」

 双子だからって脳内まで共有してねえぞ。

「でもさ……」

 智里は話をし直す。

「実際、いつもよりちょっぴり早起きすればいいだけの話じゃない。お弁当のおかず自体は前の晩から下準備しておくだとかさ」

「お前な、自分で弁当を作ってもいないくせに好き勝手言うなよ」

「う゛……」

「大体、お前だって早起きできないだろ? ずっと前にお泊まり会的なことをして、一番寝てたのはお前だろうに」

「うぅ……」

「それに、お前はあのお母さんの愛情こもった手作り弁当で満足かもだけどよ、俺は自分の料理なわけだろ? 気持ちの入りようが変わるだろうが」

「でも、僕の分も作ってくれれば、それはそれで美味しくできるんじゃない?」

「そうじゃなくてな、賢。俺は、誰かに作ってもらった弁当が食べたいだけだよ。賢は俺よりも早起きなんだし、賢が料理を作れれば申し分ないんだけどな」

「うぅ……」

 賢も智里も同じような表情をして俯いてしまった。

 料理ができると言っても、さすがにそこは主婦との違い。日々の生活をおろそかにしている以上、料理の腕がたっても家事の方がたたない。家事を優先すると料理が落ちる。

 結果的には総合力をつけなければ、宝の持ち腐れ。損するだけなのである。

 まぁ、料理ができると言うだけでここまで優位に立てるのだから、それはそれで得してるんだけどな。

 智里の家は、最近引っ越したのだ。

 まぁ最近と言っても、ここ一年前くらいのことだけど。

 俺たちが彩桜学園に入学することを告げた年の春休み真っ只中。つまりはちょうど一年前くらいだ。彩桜学園に近いからなのか何なのか、家族ごと、俺たちが住んでいるアパートの近くに住居を移したのだった。

 つまりその家族、娘の登下校を楽にするためだけに、わざわざ移動するパワフル家族なのだ。

 どんな移民族だあんたら。

 水を求めて大群をなす象を見習え。

 生命の為でもなく、同族の為でもない。

 たかだか娘の欲一つで定住地を定めるな。

 不動産屋になんて交渉したんだ。過保護すぎんぞご両親。

 とまぁ、そんな感じ。

 ちなみに智里の家は両親との三人暮らし。兄弟姉妹はいないらしい。

 いたらわかるか。幼馴染だし。

 智里のお昼はいつも、母親に作ってもらった愛情弁当らしい。しかもその愛情は半端じゃないらしい。基本肉食の智里の為に、弁当箱の上段には、生姜焼きをご飯の上に乗せていた。中段には、ウィンナー、焼き鳥、レバーの焼き肉などなど……。下段には何かといえば……そこには、ケンタッキーもビックリの特大ピースやらクリスピーやらがぎゅうぎゅう詰めにされていた。

 …………。

 素直にひくよ、あれ。

 油でデロデロだった。

 火つけるとよく燃えそう。

 火元があるはずのない教室からボヤ。

 新聞にはなんて載るだろうな。

 まぁ、それはいい。思い出すだけで胃がもたれる。胸焼けする。胸が燃焼しそうだ。

 俺たち三人がそこそこ大きい広場を通ろうとすると、

「あれ? おーい! 陽兄ちゃーん!」

 遠く前方の方から声がする。

 幼い、やけに甲高い声だった。

 明らかに、女の子、みたいな。

 ぶっちゃければ幼女である。

 しかし、どこにもそんな姿が見当たらない。聞き覚えのある声だったが、見覚えのある姿が確認できない。

 よく見ると、広場の中心にある噴水の奥から手を振っている小さい影が見える。

 上からすっぽりかぶった感じの、明らかに楽そうな白いふわふわワンピースに包まれたシルエット。大人サイズを買ってしまったのか、膝下まで隠れてしまっている。

 しっとりとした黒い髪だ。幼い体型があいまってか、つやっぽいというよりも輝いているように光っている髪だった。黒光りまでいくのか? これは。 

 ……わかりやすい。

 春先でまだまだ寒さが引けていないというのにもかかわらずのワンピース愛好家、といえば俺の中では一人しか浮かんでこなかった。

 その少女は、てけてけと広場の噴水周辺をかけて来て、俺たちの前へと現れた。

 遠くからだと気づかなかったが、どうやら防寒対策のようで、真っ白なワンピースの上に更に白い上着を羽織っているようだった。袖はそこまで長くなくとも、幾分かは暖かそうだ。

 ワンピースの少女は、俺へと話しかけてきた。

「陽兄ちゃん、ひどいよぉ。せっかくメールしたのに返してくれないんだもん……」

 おそらくは、賢が焼きそばの麺をぶちまかした時のことだろう。

「悪い悪い。あの時は、なんつーか……まぁ、立て込んでてな」

 俺たちの目の前にいる少女の名前は、姫宮ひめみや(さや)

 俺よりも一つ年下で、もう一人の幼馴染だ。

 まん丸くてくりくりした目と、これまた丸っこい顔立ちから、いつまでも幼い感じが抜けない。低い背も手伝ってか、まだ小学生くらいの感覚に陥っている自分がいた。

 しかも、ワンピース愛好家のくせに日焼けをしないものだから、真っ白なワンピースを着て地肌も白い。まるでバレリーナのようなファッションになってしまっている。

 ま、小さいから可愛いくらいだけどな。

「ところで彩、お前こんなとこで何してんだ?」

「お散歩だよ、陽兄ちゃん」

 お散歩って……また随分と暢気なやつだなこいつは。幼稚園児みたいな理由でお外に出るのか、今の中三は。

「私はもう高校生だよぉ」

 彩は唇を尖らせながらそう言った。

「いや、まだ春休みだし。今のお前は、中学生でも高校生でもない中途半端な時期にいるやつだよ」

「もう。陽兄ちゃんってばいっつも私を子供扱いするぅ……」

 彩は頬を膨らませながらそう言った。

 もうそこら辺の動作から既に子供だ。

「大体、兄ちゃん兄ちゃん言うな。お前は俺の妹じゃねえだろうが」

 これはいつも言っている台詞だ。

 幼馴染とはいえ、小学校でもこいつとは遊んでいた。「年上の人のことは敬語で呼びましょう」と先生からでも言われたのだろう。それでついた呼び名が「陽兄ちゃん」だ。

 こいつの敬称の中には「兄ちゃん」という項目があるのだろうか?

 ちなみに賢のことを「賢兄ちゃん」とは呼んでも、智里のことを「智里姉ちゃん」とは呼ばない。そのことに関して、初めは肩をガックリを落としていた智里だったが、年を重ねるごとに、それも変わってきた。

 俺も同じく変わってきたのだ。

 今さら「兄ちゃんとは呼ぶな」と言い始めたのも、この年になると恥ずかしいからである。しかも、高校生になってこんな呼び方で呼ばれてみろ。次の日からのあだ名が間違いなく「兄ちゃん」になっちまう。

 そりゃそうだ。

 実の妹でもないやつにそんな風に呼ばせてるなんて思われたら、身の破滅だ。

 ここで竜崎と姫宮の一線くらい引いておかないと。

「でも、じゃあ……なんて呼べばいいの?」

 彩は困惑した風に訊いてくる。

 うーん。

 それはそれで悩むな。

 俺としては、別に下の名前で呼び捨てにしてくれても構わないんだが。

「あだ名なんてどう?」

「あだ名?」

 急に割り込んできた智里に、俺は尋ね返した。

 そうか、「兄ちゃん」をあだ名にしたくないのだったら、あらかじめ気に入ったあだ名で呼ばせてしまえばいいのか。それはいいアイディアだ。

「そうだなー……。でも、あだ名ってどんなのだ?」

 悩んで智里に返すと、智里も悩み始めた。

「うーん。『竜崎陽』からとるのか……」

「別に名前からとるって決まってるわけじゃあないと思うけどな……」

 賢の控えめなつっこみが入ったところで、智里はぽんと手を叩いて、

「ザキ、とかどう?」

「ドラクエの呪文みたいな名前にしてんじゃねえ!」

 相手を即死させちまう呪文を名前にするな!

 そんな呼ばれ方されたら俺が即死しちまうわ!

「いいじゃない。この際、ザラキーマくらいにした方が」

「お前は鬼か!?」

 どこまでもザキ系の呪文を繰り返すな!

 ドラクエⅣのクリフトかお前は。

「で、結局どうすんのよ。私は『ザキ』でいいと思うけど」

「お前、本気で俺を殺したいらしいな」

 しかも、即死させるほどの恨みを持っているのか。用心しないと襲撃されるかも。

「しかも、それじゃあ賢と俺の区別がつかないだろ」

「確かに、僕だけ兄ちゃんになっちゃうよ」

 だったら兄ちゃんって呼ばれたくない、くらいの意見は言えよ、実兄。

「そうだ!」

 俺たちが議論していると、今度は彩がぽんと手を叩いた。

「ちゃんと区別がつくだろうな?」

 俺が確認すると彩は、

「うん! 簡単だし、これなら納得してくれるんじゃないかな」

 まぁ、これだけ自信満々に言えることだからいいか。

 そう言って答えを促した。

「陽ちゃん!」

 …………。

 あれぇ?

 そこかで聞いたことある気がする……。

 まぁ、いいか……。


 高校生のくせに、年下の少女からちゃん付けで呼ばれる男子が登場した。

 しかも、いっぺんに2人もだ。

 俺たち兄弟が、年上としての面目を失った瞬間である……。



 どうも、休日更新を決め込んでいるNOTEです。


 いや、寒いです。

 キーボードを打っている手が凍りそうなほど。

 もともとの冷え症もあるのですけど……一つの疑問があります。

 果たして今の季節はいつだ?

 季節感全く無視の我が作品から言えたことではないのですが、そんな感じです。紅葉が見ごろというニューうは流れていますか?

 私はあまり情報番組を見ないので知りません。誰か教えてください。


 いや、ブログみたいになってすいません。

 さて、今回は出てきましたね、新キャラ。

 なんか……登場の仕方がゆるいです。大して大事でもないみたいな印象を与えなければいいのですが……。

 姫宮彩。

 読み方が面倒な彼女ですが、後に大変なインパクトを与えてくれると思うので、そこはまぁいいとしましょう。

 後書きでの扱いもさほど大きくしない方向で。


 皆さんの感想や意見や評価なんかを随時募集しておりますので、是非、というか是が非でもよろしくお願いします。


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