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33話.弱さ


『偽りとは誰かを犠牲にした真実である』


 そんなことを言っていたのは……誰だったか。

 偉人じゃない。

 だとすると身内か。とんでもなく変質な身内もいたものである。

 要するに。

 真実を隠す為につく言葉は、必ず誰か犠牲を伴うって話だ。

 それが――時に自分でも。

 そして、その偽りが誰か一人のためのものだとして、その人が真実だと認識した時、それは真実となる。その人にとっては、少なくともそれだけが(嘘だという可能性があることを考えなければ)、確かな情報として認知されるわけだから。

 嘘も、偽り続ければ真実になる。


 でも、嘘なんてすぐばれるよな。



 俺は、拘束された。

 壁に沿ったパイプに後ろ手で縛られ、自身は床にあぐらをかいている。

 手首を縛っているものは……ロープか。まあ、解けないこともないけど、粗い繊維だしな、無理をすると痛い。ナイフもないし、まいったな。

 結局、九一ここのいち咲苗さなえさんと話していた俺は、あの後発見された奴らに対し、対抗することも抵抗することもできなかった。

 結果、拘束である。

 面目ないことこの上ない。馬鹿ですらある。

「はぁ」

 やっぱり、咲苗さんが救うべき女の子だったか。

 俺が発見された際、俺は即刻縛りあげられたというのに、彼女はさっきの部屋に置いてきたまんまである。この場合、彼女があの部屋に閉じ込められていたのだろうと考えるのが自然だ。

 でも……。

 なんで咲苗さんは軟禁で、俺は緊縛なんだろう。

 いや、俺の不憫な扱いに納得がいかないとかではなく。

 もしや、彼女は何か大事な用事があって捕らえられているのだろうか。人質や交渉に使われる、とか。まあ、それにしたって両手の自由を奪うくらいはするだろう。

 彼女は乱暴をされた風でもなければ、縛られてすらなかった。

 それに、わざわざあの高級な内装の部屋に置いた理由がわからない。あんな部屋なら、せめてボスなりリーダーなりが使うだろう。

 もしかすれば、彼女は奴らにとって、かなりVIPだいじな捕虜だったりするのだろうか。

 いやいや、だから、本当に俺だけがこんな不遇な扱いを受けることに不満を覚えているわけではなく……。

 あの、だって、男女差別ですか? この男女共同参画社会であるこのご時世に。

 女の子はあんなにふかふかな椅子で、男の俺は地べたですか。

 コンクリートですよ。

 冷たいですよ。

 あなたたちの気遣いくらいに冷たいですよ。

「っつか、これからどうするかだよなあ……」

 まったく、ヘマして捕まったのはいいとしても、このまじゃあどうにもしようがない。本来の目的である『女の子の救出』もできっこないじゃん。

 他人よりも自分の心配が先、って感じだ。

「はあ……。なんでこんなこと引き受けたんだろうな、俺。別に昔のツケも何も気にすることなんてないんだから、車に残ってればよかったんだ……。わざわざあんな……」

 あんな……。

 ――昔の知人なんかに。

「恩人とはいえ、俺の中ではばをきかせ過ぎなんじゃないのかな、利家としやさん」

 俺の中には、今も、俺の大切な人たちがいるってのに。こんなところにとっ捕まって。

 本当に俺は心が弱くて……。

「馬鹿みたいだな」

「恩人と慕っている人間に対して、馬鹿とは……ご挨拶なんじゃねえの?」

 ビクッと、背筋に悪寒が走った。

 頭をぶんぶんと振りながら声の出所を探す。どちらかというと首で頭を振り回している感じだ。

「何してんだよ。ここだよ、ここ」

 言われて、頭上を見る。

「あ……」

 天井の、通風孔。

 網目状のそれから顔を覗かせる利家さんの姿があった。嵌め殺しなのだろう、彼ははずすこともなくそこから声を送る。

「早々に捕まるとはな。まったく、そこまでお前の腕が鈍ってるとは思わなかったぜ、正直」

「利家さん、俺は――」

 やっぱり、もうこの手は、拳は……。

「まあまあ、ようを巻き込んだのは俺だし、今助けに行くさ。ちょっと迷っちまってな、少し時間はかかるだろうけど」

「迷ってたんですか……」

「ああ。進んでたらどんどん道が狭くなっていった。俺の人生かと思ったぜ」

「あんたの人生観とか知りませんよ」

 そして悲しいな、利家さんの未来。狭くなってんだ。

「おいいたぞ! ここだ! 通風孔だ!」

「なんでこんな狭いところに!」

「馬鹿じゃねえのあいつ!」

 利家さんの奥から、凄まじい怒気を帯びた声が聞こえてきた。まるで指名手配犯を追い詰めるべく奮闘する刑事が如く。

 って、見つかってんじゃん。

「……。まあ、なんだ。すぐそっちに行くからよ。待ってろ」

「わかりました……」

 ……気長に待ってます。

 ろくろっ首になるかもな、俺。

「……………………」


 グダグダじゃん。



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