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32話.出会い×別れ


「なんで……君がこんなところに……」

 おかしい。

 なんだ、この奇妙な光景は。

 利家としやさんの仕事でこんな廃ビルに潜り込んで、女の子を連れ出す予定だったのに。

 この廃ビルには、他にも血気盛んなお兄さんたちが山ほどいるのに。

 なんで、そんなところに。

 九一ここのいち咲苗さなえさんがいるんだ?

「いやー驚きましたぁ。偶然ってあるものですねえ。こんなところで竜崎りゅうざきさんに会えるとは思ってもみませんでしたよ」

 危険な場所にいることなど忘れてしまいそうなほどに、彼女は陽気に笑っていた。

 まるで危機察知能力のない子供だ。

「そ、それは、俺も同じだけど……」

「あ、そうだ。この間はお世話になりましたぁ」

「は?」

「竜崎さんのおかげで随分と早く済んだんですよ、仕事。もう、委員長の人使いの荒さには参りましたよねえ」

 何を言っているんだ? この人は。この間って……俺たちは今朝初めて会ったばかりじゃあ。

 あ、まさか。

「あの、俺をけんと勘違いしてる?」

「はい? 俺? ってことは……」

 そこまで言うと、彼女は間違えて飴でも飲み込んでしまったかのように目を見開いた。

「もしかして……竜崎、ようさん、ですか……?」

「……ああ」

「ご、ごめんなさい。私、勘違いしちゃったみたいで」

「いや、いいんだけど」

 なんだろう。

 勘違いされていたせいなのか、彼女とは、これが初めての会話だと感じてしまう。

 そんな馬鹿な。

「ということは、今朝会ったばかりですよね?」

「そうだね。あの時も、咲苗さんは俺のことを賢と間違えた」

 そんなに賢と仲がいいのだろうか。

 仕事上の関係? それとも……。

 まあ、関係ないけど。

「ええ、重ね重ねごめんなさい。それで」

 彼女は、言葉を紡ぐ。

「あなたは、どうしてこんなところに?」

「俺は、ちょっと用事でね」

 こんなところでごまかすのもおかしいとは思ったのだが、どこか彼女に違和感を覚えずにはいられないためか、はぐらかした。

「こんな虎穴に用事だなんて、やんちゃさんなんですね」

 フフッと笑う。

 普通の女の子の仕草だ。どこにもおかしい箇所なんてない。

 こんなビルにいること以外は。

 でも――

「虎穴ね」

 確かに、虎子を得るためには虎穴に入るのが教科書通りか。

「そうだな。ここは、立派な虎穴だ」

「はいッ。ライオンズマンションです!」

「何がそんなに嬉しいのか知らないけど、虎穴とライオンズマンションは類義語じゃないし」

 ライオンズマンションに失礼だ。

 住民が運動を起こすぞ。

「ペット禁止、ただしライオン以外は――みたいな感じでしょうかねッ」

「おちおち寝てらんねえ!」

 っつかこのくだり引っ張るの!?

「そんなことより……君は? どうしてこんなところに」

「…………」

 俺の質問に、咲苗さんは答えない。

 彼女は近くの長テーブルに座り、脚を投げ出した。

「……大切な人に、会いに来たんです」

 脚をぶらぶらさせる彼女。

「この廃ビルの上階は、元々マンションだったんです。安いですけど。それが、少し前に、文字通り潰れてしまったみたいで」

「潰れた?」

 少し前に?

「でも、この荒廃具合は……」

 どう見ても、最近潰れましたって感じじゃない。

「おかしいと思いませんか? この部屋」

 そう問われて、思いかえる。

「ビルの外装に合わない照明器具、カーテン、調度品……。ここは、隠れた賭博場だったんです、違法の」

 賭博場? こんな場所に?

「一階部分はバーで、その奥につくっていたらしいんです。でも、それも見つかって、踏み込まれたのだとか」

「……踏み込まれた」

「その踏み込んだ人たちというのが誰かはわかりません。警察かもしれませんし、他の……暴力を行使する人たちだったのかもしれません。何せ、働いていたのは違法行為ですからね」

 最近。

 今までバーとして装っていた外見そとみから、中身なかみがばれてしまった。もしかしたら暴力団絡みの仕業なのかもしれない。違法な賭博場だ、そりゃトラブルだって起きるだろう。

 それで踏み込まれて――結局は潰れた。

 人為的に、潰された。

「その時に、マンションも……」

「ええ。終わっちゃいました。だから、警察の行動ではないのかもしれませんね」

「その、大切に会いに来たら、こんなことに?」

「知りませんでした。こんなことになっているだなんて……」

 うつむく彼女に、俺は、かける言葉がなかった。

 大切な人を失った――。

 死んだわけではないだろうが、消息不明だって似たようなものだ。会える可能性は激減する。ほとんど皆無だろう。

「…………」

 思い当たる節が、ないでもなかった。

 俺には両親がいる。賢だっているし。さやも、智里ちさとだって……。

 だから、俺は立ち直ることができた。

 更正することができた。

 今、こうして生きていられる。

「大切な人に会えない悲しみは、わかるつもりだ」

「え……?」

「俺も、昔……」

 そう、あれは。

 ――雨の強い日だった。


「誰だお前ら!」


 俺が過去を語ろうと、咲苗さんの前に立った時。

 やばい。

 見つかっちまったか!?




 久方ぶりですNOTEです。


 早めに更新することができました。

 さて、今回登場した九一咲苗さんなのですが、皆さん覚えているでしょうか。覚えてねーよだって随分と久しぶりだもの、とおっしゃる方々。気持ちはわかります。そんなときは読み返そう!

 面倒っすけど。

 こんなに期間を空けてしまいましたからね(一ヶ月……ありえねえ)、少しは違和感くらいあると思いますが割愛よろしくお願いします。


 それでは、ご挨拶もほどほどに失礼しますNOTEでした。



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