31話.不測の再会
利家さんは言った。
「あいつのこと、頼んだぞ」
あいつというのは、恐らくこの建物内に捕らえられているという女の子のことだろう。それ以外には考えられない。
彼は廊下に飛び出でて、俺をある一室に閉じ込めたきり帰ってこない。まだ戦っているのだろうか……戦いを忘れた俺をかばって。
それとも、単に『これからは別行動だ』とでも言いたいのだろうか。
わからない。
あの人が持ち込んできた厄介事を処理するのはこれが初めてではないのだけれど、前に参加したのは随分と昔のことだ。
俺が変わった(それが単なる『変化』なのか『進化』なのかはともかく)、境界を越えた遥か昔。境界を越えたことそれ自体は昔のことではないが、俺からしてみれば、それは生まれ変わりとも黄泉還りとも言えることだった。
だから、頭の奥底にしまってある記憶だ。
部屋を見渡す。
確かに、ここは最近、誰かに使われた形跡がある。
埃が積もっていないだけじゃない。何か……そう、人の気配――人がいた気配がする。残り香というか……なんというか。
いや、そんなことは関係ないか。使っていたからといってお目当ての女の子がいたとは限らない。
そう。女の子、だ。
まずは女の子を探さないとな。俺はその為にこんなところまで来たんだから。
そこで。
ふと気付いた。
「って、待てよ?」
逆に、ここまで気付かなかったのがおかしいくらいの疑問を、俺の頭は思いつくことになる。
「俺、助ける女の子の名前も顔もわかんねえじゃん……」
相手がわからなければ、助けようがない。
俺は一体誰を助けようというのか。
「利家さんという時は利家さんに任せとけばいいと思ったけど、これじゃマズイな。俺はあの子を確認する方法がない」
愕然とした。
じゃあ今の俺、完全に役に立たない存在じゃん。
俺は近くにある椅子に座った。こんなビルには不釣り合いなほどふかふかで高級感溢れるものだ。何これ、腰が沈む。すげー気持ちいい。
「しかしまあ、どうしようかな」
解雇を言い渡されたサラリーマンの気分だった。心の中が空っぽになった感じ。何も考えられない。
お先真っ暗、頭真っ白。
みたいな。
つまんねえ。そんな言葉で遊ぶしかないのか俺は。
「何しに来たんだ、ほんと」
自分に呆れてものも言えない。こんなことだったら、先に彼女の情報でも聞いとくんだった。どうやら、俺は要領が悪くなったらしいな。まるっきり丸くなっちまった。
本当、馬鹿みたいだ。
「あら?」
その時――俺が椅子に座って頭を抱えていたその時、ふと声がした。
「ま、まさか……。竜崎さん、ですか?」
「は?」
名前を呼ばれたことに驚き、顔を上げる。
二回目の驚きが、直後に来た。
おいおい。
嘘だろ。
声がした方向には、俺の学校の制服を着た女の子が立っていた。どうやら、俺が入ってきたところとは違う扉から入ってきたらしい。
いや、そんなことに驚いたんじゃない。
俺は、ゆっくり、彼女の名前を呼ぶ。
「九一……さん?」
すると彼女は、
「はい! こ、こ、こここの、この、九一です!」
元気に、しかし異常なほどの戸惑いようで答えたのは――
間違いなく、今朝会ったばかりの九一咲苗さんだった。
お久しぶりですNOTEです。
一週間ほどでしょうか、ご無沙汰していました。
はっきり言って忙しいとは言い難いのですが(問題発言)、なぜ更新できないんでしょうか。やる気がないんでしょうか。やらない気があるんでしょうか。
どうでもいいですよね。
結局は「書けや」って話ですから。
こんな夜分遅くに失礼します。
NOTEでした。
短い方がいいんでしょうか、これ……。