29話.龍と呼ばれたジャージ
「いやいや無理ですやめてください訴えますよもう嫌キャー!」
利家さんが紙袋の中から持ち出したのは、ナース服だった。それを、あろうことかこの俺に着せようと言うのだ。
「なんでそんなもんが必要なんですか!?」
「いやだってほら、お色気作戦っての? お前が惹きつけてメロメロにしてくれりゃ、こっちも楽になるし」
「純朴な少年に何を求めてるんですか!」
「まあまあ。新しい道が拓けるかもしれないぞ」
「俺に女装なんてさせないでください! 死んでも嫌です! ミミズを噛み潰すくらいに気持ち悪いですから!」
「その気持ち悪さは想像したくないな……」
本気で引かれた。いや、むしろ退かれた。
「わかったよ。そんなに言うなら、こっちで我慢してやる」 利家さんは言うと(しかも渋々な感じで)、紙袋の中から、また別の服を取り出してくる。
それはジャージだった。
真っ赤なジャージの上下。腕や脚に白いラインが引いてあり、背中には大きく『龍』と書いてある。
ところどころがボロボロのそれは――見覚えのあるジャージだった。
「……まだ持ってたんですか」
「まあな。お前に、いつか必要な時が来るのかもしれないと思って」
「いりませんよ。しまって下さい。俺はこのままでいいです」
「そういうわけにもいかんさ。そのままで行くなんてことはやめてくれ。一応、俺の相棒みたいな立ち位置でいてくれないとな、困るんだ」
「俺をまた、その世界に引き込むつもりですか。それだけは嫌です。あの暴力の世界にはもう、二度と戻りたくはないんです」
銃弾を――その軌道を見たことがあるだろうか。
俺は、無い。
いや、発砲の瞬間を見たことがある。
正確には、飛行する弾を見たことがないということ。
発射点から着弾点までの距離を高速で移動する弾丸を、見ることはできない。目で追うには不可能なスピードなのだ。
しかし、硝煙を上げる銃口と、地面に穿たれた弾痕は、今でも目に焼きついているのだ。
「俺からは――そんな世界に戻る度胸なんて失せました」
「わかってる。これを機に――なんてことは考えちゃいない。だから、これっきりだ。もうお前に無茶はさせないさ。だが、今日だけは、お願いできないだろうか」
「………………」
わかっていた。
利家さんが玄関の前に立っていたその時から。
このような事態になるんじゃないかってことは。十中八九、そうなるのだろうと考えていた。
じゃあ、なぜ俺はここまでついてきた?
利家さんが車から降ろしてくれなかったからか?
違うだろ。
俺が自分の意思で、彼の車に乗り込んだんだ。
「だから――本当にこれっきりですよ」
俺は彼の取り出したジャージに手をかけることもなく、車のドアを開けた。
はよ外出ろや、って感じですNOTEです。
いやー特に前回が意味分からなかったと思いますが、今回も今回で意味分かりませんよね。
裏をかく?
ジャージ?
龍?
は?
みたいに思う皆さんも多いことでしょう。そんな気がいたします。
その点については、今は特に言及も追求もいたしませんので、ご了承ください……。