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28話.騙し討ち


 裏をかくとはどういうことなのだろう。

 騙す。

 欺く。

 謀る。

 嵌める。

 隙をつく。

 意表をつく。

 抜け駆けする。

 囮を使うのもいい。

 相手がそうだと思った方向とは違う方向に向かうことが、裏をかくということなのだろう。

 簡単だ。

 それはすなわち常套じょうとう手段でないということ。

 それはすなわち邪道手段であるということ。

 自分が常道だと思わない手段を講じればいいということだ。

 しかし、それでは裏道を通っただけだ。

 舗装された、小奇麗な路地裏を通るだけだ。

 簡単過ぎる。

 考えた上での行動なのだろうが、相手も思考できる以上、相手が自分の裏を読んで上回る可能性は十分にある。

 裏をかくためには、裏口を抜けるだけでは、裏道を通るだけでは駄目だ。

 相手を騙すつもりなら、それは近道かつ地下道でなくてはならない。

 いかに意外な場所を、速く抜けきることができるか、ということである。

 相手の思考を読み、自分の謀略を読んだ相手の思考まで読むことなど、時間をかければ誰でも可能だ。問題は、それをいかに早く考えつくか。

「『天才は、1%のひらめきと99%の努力である』ってな」

 それは、本当のことなのだろうと思う。

 しかし、裏をかく裏稼業では、そんな悠長に構えていられるものではない。時間の1%を無駄に浪費することで、生命を落としてしまう危険性がある。

 一から十まで、直感とひらめきが左右する世界だ。

「俺は、そこで大事なことを学んだ」

 けんに、そう言った憶えがある。

「相手の考えを読むことは、相手のことを考えるってことで、つまり相手のことを思いやることなんだと思うんだ。いつまでも自分のことばかり考えていると足元をすくわれる。だから、他人を想って自分を救うことが大切なんだよ」

「君は、間違っているよ。君こそ騙されているんだ」

 賢は一言でそう言った。感情も欠落したような無表情で。

「第一、相手を騙そうとすることがどうして相手を思いやることに繋がるのかがわからないよ。君の言っていることはおかしい。愚かしいよ、陽」

 無表情――いや、当時の俺にはそうとしか映らなかったのかもしれない。けど、今は違う。

 あれは、怒りだ。

 はっきりとした憤慨の表情が、賢を埋め尽くしていたんだ。

 俺は、それに気がつかなかった。自分のことしか、考えられなかった。

 何も、学んじゃいなかった――。

 俺は、バカだ。


「おい、よう

 はっと我に返った。

 そこは、利家としやさんの車の中だった。

「どうしたよ、ボーっとしちまって。何かあったのか?」

「いえ……」

 帰ったら、賢になんて言おう。

 また、あの頃のようなことをやっている俺を、許してくれるのだろうか。

「何でもないですよ、利家さん」

 俺はごまかすように手を振ってみせる。

「それより、用事があるんじゃないんですか? あいつらに」

 そう言って、廃ビルの方を指さす。そこでは数人の男たちがたむろしていた。

 シートベルトを外したきり、利家さんは考えるようにして顎に手を当てているだけだ。この人が思い悩むところなんて滅多に見られるものではない。

「どうしました?」

「いや、このまま正面から堂々と行こうとも思ったんだけどなあ……。依頼主クライアントは自分の方でも動く予定があるって言ってたしな。あまり目立った行動を起こすのも問題かと……」

「はあ……それで?」

「よって、我々はこれから変装をしようと思います」

「いい加減意味わかんねえよ」

 キレてみた。そりゃもう現代の若者風にいきなり。

 しかし態度一変な俺に構う気配も見せない利家さんは、後部座席に置いてあった紙袋を持ち出す。

「なんですか? これ……」

 俺・竜崎りゅざき陽は、この後、今世紀最大のピンチを迎えることになります。


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