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閑話.B級グルメ


 これは暇つぶし程度の話です。

 繋がっていて、繋がっておりませんので、基本的には短編集だとでも思ってください。




 俺は今家にいます。

 まぁ、家って言っても実家でなくアパートなんだけど。

 今って言ってもまさに今帰ってきたところなんだけど。

 春休みも始まったばかりの今日。

 俺は朝からとある用事で外に出ていた。

 昼時までに帰ってくるというのはやっぱり新鮮で、でも、これから昼食を作るいうのもなんだか面倒な話ではあった。

「ただいま」

 俺は玄関のドアを後ろ手に閉めた。キッチンの方を見ると、双子の兄・賢が熱心にカップ焼きそばへとお湯を注いでいた。

「おかえり」

 なんて気のないように言って、自分の手に持ったカップにはどこまでも愛情を注いでいる。その愛情、実の弟にはやれないものなのだろうか……。

「悪いな、賢。もう少し早く着いていれば昼食一緒に食えたのに」

「いいよ、陽。今日はなんだか、カップ焼きそばが食べたい気分だったから」

 嬉しそうに答える賢。

 ったく。

 いつもは俺が寝てるのを起こしてまで食事ねだるくせに、たまに気を遣って早く帰ってくるとこれだ。

 あてにされてんだかされてないんだか……。

 ま、手間が省けていいか。

 ちなみに、皿洗いはいつも賢の仕事だ。

 俺が昼食、賢が洗い物。それで結構な分担がなされている。その他の家事に関しては、二人とも得意とするところではない。そこら辺は当番制という区分だ。

 俺はキッチンを素通りし、薄いすりガラスを抜けた先にある部屋へと移動。そこでは二人のプライベートが共有されちまっているスペースとなっている。男同士だし、別段困ることもないだろう。

 まぁ、そこは生活してから思ったことで、同居する前にはいろいろ反発したもんだ。

 そこんとこはまた後日の話として……。

 暇を持て余した人類の必須アイテム、テレビの電源をONにする。

 と思いきや、既にテレビからは音が流れている。フローリングに絨毯を敷いただけの床へと座りながら、俺はそのテレビへと視線を集中させた。

 昼時ともいうことで、その番組内ではB級グルメだかなんだかの特集を組んでいた。

 しかし、所詮はB級。

 ちっちゃなワンコーナーでの何分かしか組まれてはいないようだし、情報番組の中継という悲しい立ち位置へと追い込まれている。

 いや、食についてだけでワンコーナーを作っているというところは、B級グルメとしては栄誉ともいえるところなのだろうか……。

 元々は地元の味だし。

 全国へと電波を飛ばされているだけましか。

 あれ? このグルメ……。

「なぁ賢……」

 俺はすりガラスの向こうにいる賢へと呼びかけた。

「なぁに~?」

「お前、この特集見て焼きそば作ってんのか?」

「ギクッ」

 は?

 今なんて言った? あいつ。

 戸越しに効果音なんか聞こえるわけないし。

 そもそもそんな擬声語が世にはびこるかっつの。

 初めてそんな音を口から出す人間を見ちまった瞬間だった(目の前にして見られなかったのが非常に残念だ)。

 目の前の「横手よこて焼きそば」なる美味そうなB級グルメがじゅうじゅうと音を立てている中、俺は実の兄へ呆れるばかりだった。

 まぁ、実際には美味いんだろうけどね……「横手よこて焼きそば」。

「お前も、つくづく触発されやすいやつだな」

「ち、違うよう。僕はただ、自分の満たされていない欲求を満たそうと、食欲にまみれて飢餓に苦しむ前に手を打ったまでだよ」

「おい。欲求を満たすだの食欲だのまみれるだのと、何をお前らしくもないワードを口走ってんだよ、賢」

 閑話だからって何を言ってもいいとは限らないんだぞ。

 ちょっとは自分の設定を見つめ直せ。

「と、ととととにかく。僕は別に……た、食べたいから食べようと思ったわけだし」

「じゃあさ、焼きそばのいい点を全て言ってみろ」

「い、いい点……? 全て……?」

 ガラスの向こうでおどおどし出す兄。

 我ながら見事な無茶ぶりだったな……。

 我が兄ながらテレビにいちいち左右されるのもどうかと思ったし。そこへの制裁としてはよくやった方だ。

「え、えっとぉ……。まず、焼きそばの麺にあの甘かったり辛かったり……まぁ、場所によってキーとなる味は変わるだろうけど、とにかくソースがからまっていい味を出しているところ」

「なんか饒舌じょうぜつだな」

「そこにしゃきしゃき野菜が豊富に入っていて~……味だけでなく食感も格別なんだよねえ」

 調子づいてきたのだろうか、賢の声がどんどん夢心地な声へと変貌していく。

「それに、なんといっても香りだよねえ……」

 賢がそう言っているキッチンからは、なんだか美味そうな匂いが漂ってきた。

「あの焼いた時に出る、表面の一部がちょっとだけ焦げるくらいの格別な香り……。香ばしい香りが食欲をどんどんとかきたてて……もう幸せになっちゃうよねえ。なんだか、あの香りに包まれて眠りたい!」

 どこまで焼きそばラブなんだ?

 それに、俺は香ばしい香りに包まれながら眠るのだけは反対だ。

 寝てるだけで胸焼けするわ。

 下手すれば酸欠に陥るぞ。

「そうか……」

「そう! あれがないと僕は焼きそばなんて認めないからね!」

 そこまで言うか……?

 言いながら、賢は俺の横へと座り込んで、テレビの方へと向いた。手元では必死にソースを麺に絡めている。ちょっぴり辛いマヨネーズも忘れちゃいないようだ。

 テレビでは、違うB級グルメへと話題を変えているところだった。

 今テレビに映っているのは、「あいがけ神代じんだいカレー」なる、これもこれで最上級に美味そうなものだった。

 ご飯を中央縦によそい、左には小麦粉を使った昔ながらのレトロカレーを、右にはデミグラスソースを使った欧風カレーをかけている。

 さすがは大会を開くだけのことはあるな。

 B級とはいえグルメを名乗るものとして、十分なほどの探究心を持ち合わせている。

 どちらも引けを取らない味である上、中央には半熟の卵まで乗せている。

 一皿で四度美味しいというのはまさに神がかっている!

 まさに神代カレーだ!

 く……食いたい……。

 今、兄の前でテレビに影響されるなと思ったはいいものの……これほど美味そうに見せられては食わずにはいられなくなるではないか!

 だめだ。

 もう、我慢できない。

 どうせまだ昼食済ませてないし……。

 …………。

「よし、食べよう」

「え?」

 テレビを見ながらほけーっとしている賢が、俺の言葉を機に、目覚めたようにこちらを向いた。

「カレーだよ。ちょうどスーパーで買って来たんだ」

 レトロカレーならぬレトルトカレーだけど。

「え! いいな。僕も食べたいよ」

「お前はそれがあるだろ……」

 俺は賢の持つカップ焼きそばを指さす。

 俺の指先を見るなり、賢はしゅんとうなだれて残念そうな顔をした。

 まぁ、気持ちは分からなくもないが……。

「わかった。我慢するよ……」

「そこまで食い意地はってたっけ? お前」

 なんだか今日はいろいろおかしな賢を放っておき、立ち上がろうとした時、不意に気づいてしまった。

 いや、それそのものは以前から抱いていた疑問だったのだが……。

「なぁ、賢……」

「な~に~……」

 すっかりしょんぼりモードに入っている賢に、これでとどめとばかりに言うことにした。

「あのさぁ、さっき、香ばしい香りのしないものは焼きそばじゃないって言ったじゃん?」

「う~ん~……」

「ちょっとだけ焦げるあの香りが、って……」

「だぁかぁらぁ~……?」

 気の抜けた、というか、魂が抜けてしまったように焼きそばをすする賢。

「あのさ、思ってたんだけど……。カップ焼きそばって、焼いてなくない?」

 厳密に言えばお湯で戻しただけ。

 ラーメンと同じで、茹でただけという意味でもあるのだ。

 なんなら、ふやけただけと言ってもいい。

「…………」

「…………」

「………………」

「………………」




 その日一日中、テレビを見る時もご飯を食べる時もどんな時も、賢が目を合わしてくれることはなかった……。

 気づいてなかったんだぁ……。




 まぁ、身近な疑問から生まれた一話です。

 賢は、結構賢いんですけどね……なにぶん抜けているもんで。


 作者が友人へとこの疑問をぶつけた途端……笑顔で蹴られたのを覚えています。机が浮きましたね、あれは。恐かったです。

 さて、今回のような閑話はよくあります。

 基本的には与太話というか無駄話というか……番外編が大好きな作者なもんで……。本編はどうでもいいとか、そんなこと思ってませんけど。


 というか、彩桜学園というよりも、単に陽の身の回りの話になってますね、これ……。

 学園関係ない……。

 と、そんなことは言わせませんよ。

 彩桜学園だっていろいろなイベントの場であり、生活の場であり、出会いの場なのですから!

 これから、陽に待ち受ける学園生活うんめいがどんなものか、乞うご期待!



 感想や評価など、どしどし受け付けております。

 キャラが全然出ていないのにすいません……。

 とにかくよろしくです!


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