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24話.先行き不安


「ただいま……」

 俺が料理に取りかかってしばらく経った頃、智里ちさとけんは揃って帰ってきた。それも、二人共妙に気落ちしたような様子で、部屋にいたとしたら確実に気づかなかったろうという声だった。

「おう、お帰り」

「あ、よ、よう……起きてたんだ」

 反応したのは智里だった。

「なんだよその言い草は。もう昼だぞ。俺だって、休みだからいつまでも寝てるってわけじゃないんだよ」

「そ、そう……。そっか、もう昼だもんね」

「?」

 なんだか歯切れが悪いな。

「智里。お前……っていうかお前ら、何かあったのか?」

 気づけば、彼女の後ろにいる賢にもあまり元気な様子は見られなかった。とくれば、外で何かがあったことは明確なわけだったのだけれど……。

「あ、ううん。何でもないよ。何もなかった……」

「そ、そうか……」

 何かあったのは明確であっても、それを何でもないと隠されてしまうと、こちらからはどうにもできない。苦しいことだけれど。

 二人はそれぞれの部屋まで戻っていった。重い足取りというわけでもなかったのだが、だからと言って決して軽くはないだろう足取りでの帰還だった。

「どうしたんだろう……二人共」

 心配しているのは、さやも同じようだった。彼女は不安そうな面持ちで、今も二人がくぐっていったドアを見つめている。

「朝は、別に何ともなさそうだったんだけど……」

「さあ。ただまあ、コクって振られて気まずくなったとか、そんな感じなんじゃない? 案外。賢のやつからか、智里のやつからか、そいつはよくわかんねえけど。十代の恋は儚いからねえー。『私、今は仕事に専念したいの!』とか、そんな風な断り方はされないとはすれ……『ねえ、今の関係じゃ……だめ、なの?』みたいな丁寧な断り方でも、賢みたいな繊細なオトコノコは傷つくもんよぉ」

 あの二人を見たままでは、こちらの空気まで悪く気まずくなりそうだったので、あまり深まらない内にとわざと茶化したつもりだったのだが……。

「はあ……」

 彩は大きな溜息で対応してきたのだった。

「陽ちゃんはこういう時にさえも空気が読めないよねえ。そうじゃないって気まってるわけじゃないけど、そうならそうで、もっとこう、言い方ってあるんじゃない? 駄目だよ陽ちゃんは。駄目駄目だよ。駄目人間だよ」

 そこまで言われにゃならんのか。

 わざわざその場を明るくしようとしても駄目なのかよ。

 空気を読むのも大変だ。

 他人に同調するっていうのは、時に異論を申し立てるよりも難しいと思う。自分の意思意見を曲げることがどれ程にこれからの自分自身を変えるのか、推測が立たなくなるからだ。

 もちろん、そうしなくても自分の未来や将来なんて、どうなるのかわかったもんじゃないけれど。

 けど、それでも人間関係を築くにあたって、どんな人の意見をも取り入れられるような人物であって、自分はいいのだろうか。

 他人に同意する一方では、ただの他人任せになる。自分の中には意見さえない。それでは空っぽで虚しい……空虚な状態であるだけだ。

 他国の考えを例に挙げるならば、『意見を言わないこと、黙っていることは何も考えていないということ』なのだとか。

 相手だって、本気でそう考えているわけではないとはいえ――事実意見を言わないということは、その意見は取るに足らない、くだらないものだと認識することであって、恥ずかしくて言い出せないとかそういうものは、自分のそんな意見に自信がないことの表れなんじゃなかろうか。

 だから結局何が言いたいのかと言えば、空気の流れに身を任せることは重要であるのだけれど、空気に逆らって、時代に逆らって、相手に逆らって考えてみるのも重要なんじゃないかってことだ。

 けどまあ……こんな場面でこんな局面で考えることじゃあ、これはなかったな。

 俺が思ったことは一つだけ。

 本人たちが俺たちに何も言ってこないということは、それは本人たちの問題だということ。

「まあ、そっとしておこうぜ。あいつらが、俺らの意見が必要だってんなら、その時に相談に乗ればいいさ」

「そうかな……。うん、そうだよね」

「そうだよ」

 とりあえずは笑顔になった(とはいえ、だいぶん控えめな笑顔だけど)彩にひと安心し、俺は調理を続けることにした。

 なにぶん、コンロは二つなのに対して作るのは四つだ。石釜はそのまま器になるため、一気に作ることができない。

 四つではなく、二つずつ。

 効率が悪いのだ。

 急がなくては。


「ん~。いい匂い」

 そうは言っても、そこまで時間がかかることはなく、昼飯時には間に合った。

 呼びかけに応じた智里は、先程とは打って変わって明るく出てきた。

「ほんと、お腹がすくねー、この匂いは」

 賢も同じようだ。あいつ本来の、爽やかな笑顔でテーブルに着く。

 それぞれ、自分たちの部屋で決着でもつけたのだろうか。それが恋の悩みなのかどうかはともかく……そうだとしたら、万々歳なわけだ。

「彩も席に着け。食うぞ。早くしないと、ご飯がお焦げだらけになっても知らねえよ」

「うんっ」

 こうして、俺たちは無事に、いや、本当に何事もなかったかどうかは知らんが、昼食にありつくことができたというわけだった。


 以後、食事中の会話。

「んー、おいひぃ。やっぱり陽のご飯は一味違うわね。今度からはお弁当お願いしたいくらい」

「おいおいやめろよ智里。俺が朝早くに起きて、しかも四人分なんて重労働をこなせるわけがないだろ」

「でも、いつもコンビニのお弁当とか購買のパンじゃ健康に悪いよ。三食が陽ちゃんの作る料理なら、そんな心配もないわけだし」

「おいおい。百歩譲って、俺はここの調理師ってことにしといてもいいけどさ……栄養士ってわけじゃないんだし、それぞれの健康バランスなんて知らんよ」

「じゃあ、賢ちゃんにお願いしちゃえば? 中学校みたいに献立表とか作ってくれるかも」

「えー。僕そんなの無理だよぉ。いくらなんでも、料理のことはさっぱりだし、栄養バランスなんかもってのほかじゃない」

「資料とか読み漁れよ。家庭科の教科書とかさ。結構書いてあるもんだぞ、食品のカロリー表とかさ。頑張れ少年! お勉強お勉強」

「もー、陽まで。じゃあ、僕がちゃんと献立みたいなのを作ったら、お弁当作ってくれるの?」

「そりゃーまあ……約束してやってもいいけど。だってお前、やらないだろうし」

「む。それは聞き捨てならない台詞だね。でも……面倒だなあ」

「大体なあ、俺らばっかりにやらせてないで、智里や彩だって自分で作ればいい話なんだよ」

「えー。女の子にやらせるの? それはちょっと違うんじゃない? 陽」

「いや……料理のことなんだから女の子でも別段おかしくない話だろうよ」

「あ、きみきみぃ。それは偏見というやつではないのですかな? 女の子だから料理だとか、そういう古い思想に則っちゃー駄目でしょう」

「お前、なんかキャラが変わってねえか……? それはいいとして。お前の言いたいこともわかるけどよ。いくら女子だからといって? たいしてお料理ができるわけでもなく? だからといって何かの家事を引き受けようとかそんな姿勢もなく? のうのうと共同生活を決め込もうって腹なのは。だって何もしないんじゃなく、何もできないんだものねえ」

「なぁにぃをぉぉっ! 陽……あんたいい度胸してるじゃない。いいわよ。わかったわよ。見てなさい。この私が、料理だってその気になればできることくらい、いくらでも証明してあげるから!」

「ほーぅ。ようゆうたなぁ。ほな自分、何ができるゆうねん?」

「あ、あの……陽も、キャラが変わってるけど……」

「なんだってできるわよ! 私をなめないでちょうだい! 炒め物だろうが煮物だろうが揚げ物だろうが焼物やきものだろうが、なんだってやってやるわよ!」

「ち、智里ちゃん! 落ち着いて! 焼物は食べられないから! 正しくは焼き物だから!」

「一週間! そんだけ時間やるわ。その間に……お料理修業でも積んでもらいましょか。自分が何を作るつもりなんかよう知らんけど、それだけあれば十分やろ」

「上等よ! あんたのその鼻! 真っ赤なトナカイにしてあげるから!」

「楽しそー! 頑張ってね、智里ちゃん!」

「ちょ、ちょっと! って…………はぁ……どうなっちゃうのかな……」




 前回は後書きができませんでしたNOTEです。

 お久しぶりの投稿だというのにご挨拶もできないでいて申し訳ありません。


 さて、二人が帰ってきてからのことです。

 何やら、彩の楽しそうな雰囲気とは逆に、賢の内心に嫌な予感が溜まっている様子です。その理由は……次回で紹介できたらいいんですけれど(できるかなあ)。

 何せ計画性のない作者なもので、このような結末に至るはずではなかったのですが……会話の流れがそんな方向に向いていたものですから……つい。

 すいません。

 本当はあれでした。

 違う内容をお送りするはずでした。

 しかしまあ……この際、智里を差し置いての陽たち(賢や彩)の様子を追ってもいいのでは? なんて考えている次第ですので、もしかしたらこの一週間分、智里の出番が激減する可能性が示唆されていますが、そうなってもご了承ください。


 ……智里に需要はあるのだろうか?


 作者は感想、レビュー、評価、ご意見ご指摘を待っています。

 思い切って行動を。

 妥協なき決断を(国境なき医師団のもじり(パクリ))。



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