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20話.退行


「痛ってぇ……」

 うずくまる少年A。

 どうやら反射的に手が出てしまったらしい。

「だ、大丈夫か?」

 殴った方も思わず心配の声を出してしまうような鈍い音がした。

 そりゃ痛えよ。

 グーだもん。

 うずくまっていた少年は、打たれた頬をさすりながら起きあがる。眼のふちが濡れているのも気のせいではないだろう。

 合う目線に、自然と流れる気まずい空気。

 そりゃそうだよな。

 初対面で、しかもいきなり現れた相手を殴りつけるなんて沙汰、誰であろうと経験があるわけではないだろうから……。

 ん?

 ああ。

 ここで皆様、もしかすると誤解しているかもしれないので補足しておこうか。

 誰あろう、殴られたのは俺だ。

 頬を腫らしているのも俺であり、今しがた立ち上がって「痛ってぇ」なんて情けなくうめいているのも俺だ。

 よって、少年Aこと俺――竜崎りゅうざきようは、涙目で中学生男子と対峙している。

 マジ泣きだった。

 いや。

 こういうのって反射で出るんだよ、本当に。

 ともあれ。

「だ、誰だよお前!」

 と再開してくれた相手方に対し、

「俺か? 俺はな、露原つゆはらみなとの大親友! 竜崎陽だ!」

 なんていきがって強がって言ってみた。殴られてから言ったおかげで、なんの勢いもない台詞に落ちぶれてしまったけど……。

 ひらりと着地した地点で振り返り、露原に対し「大丈夫か?」と尋ねる。

「いや、陽の方こそ大丈夫か……?」

「…………」

 逆に心配されてしまった。

「ケンカに介入してやられました、じゃあカッコつかないぞ」

「うぅ……」

 確かに。

『ごくせん』でいう小池徹平ポジションじゃん。結局最後はヤンクミに助けられるやつ。ドラマだからカッコいいけどさあ。リアルでやると負け犬っていうか、ヤンクミの噛ませ犬じゃん、あれ。

 やるせねえ。

「立つ瀬がない、だろ?」

「立つ瀬はある」

 噛ませ犬だ。

「おい」

 露原と話しこんでいるのが気に入らなかったか、先程よりも強い口調で、中学生の少年が割ってきた。

「結局あんた、なにしに来たんだ?」

 おいおいおいおい。そんな言い方はないだろ。

 俺は露原のピンチをいち早く察知し、文字通り飛んで来たというのに。

「まあ、暴力は反対だけどな……」

 弱々しく締める俺。

 なんか、本当にザコキャラに位置付けられそうな勢いだなこれ。

 俺が本気で落ち込んでいると、後方の少年2人のうち1人が口を開いた。

「お、おい。今その人……竜崎陽って言ったか……?」

 狼狽するように眼を泳がせながら言うその少年は、心なしか後ずさっている。

「じょ、冗談だろ……。なんで、こんなところに、ど……『ドラゴン』がいるんだよ!」

 ふざけんなっ、と言い残して、少年2人は学校の敷地から走りぬけていった。

「…………」

「…………」

 …………。

 なにがあったかわからずに固まるその場。

 とりあえず、動くこともできずに突っ立っている少年の横を抜けて、俺は智里ちさとへと駆け寄る。

 あーあ。口にテープまで貼られちゃって。

「かわいそうに」

 とひと声かけて剥がした。

「おっそい。今まで何やってたのよ」

 吠える智里を無視し、腕の縄を解きにかかる。腕を縛る縄は強く結ばれていないようで、簡単に解けた。

「なんで無視よ」

「いや、あの……ちょうどいいタイミングはどこかなあ、なんて思ってまして……」

「で?」

「ナイスなタイミングだっただろ!」

 殴られた。

 さっきとは反対側の頬をおもきしぶたれた。

「グーはねえだろグーは!」

「女の子1人を戦地に乗り込ませるなんて、サイテー!!」

 いやいや戦地て。

 血の気が多いなあ、お前も。

 途中まで黙って見ていた都合、反論などできるわけもなく。

 どう言ったものかと考えていると。

 ぱふっ――と。

 俺の胸に、あたたかいものが触れた。

 智里が飛び込んできたのだ。

 まるで地上1000メートルの高さにでもいるかのように、俺の背中に震える手を回してしがみついていた。

「恐いんだよ……。この気持ちがわかるか、バカッ!」

 わかる。

「わかってたまるか、バカ……」

 ごめん。

 謝ることしか、できなかった。

 俺には。

 お前の辛さを感じることも。

 お前の恐さをわかることも。

 お前の気持ちを汲み取ることも。

 あまつさえ――

 このままお前の背に手を回すことさえできない。

 ほんと、ごめん。

 智里の気持ちが収まるのを待って、露原のところまで智里を支えながら歩く。

 智里を守れなかった……。

 そんな暗い気分に陥っていた俺を、露原は、先程とは打って変わって晴れやかな笑顔を浮かべ迎えてくれた。

「よし! これで一件落着だな」

 ない胸を張る露原。よかった。こっちはこっちで元気になってくれたみたいだな。

「ああ。しかしまあ、拍子抜けではあったな。暴力沙汰覚悟で来たもんだから」

「暴力ならあったじゃないか。受けてばっかりだったけど」

 うぅ……。

 それこそ立つ瀬がない。

 負け犬だ。

 しかし、と続ける露原だったが、それはある人物によって阻まれた。

「お、おい――!」

 背後からの声。

 少年の声だった。

 露原を目指して智里を抱えていったから、少年を追い越していたことに気がつかなかった。

「あんた、『ドラゴン』って……」

 おののきつつも問いかけてくる少年。ふと横を見ると露原も「それが気になっていた」なんて顔をしている。

 うーん。参ったな。

 確かにそれ、俺の話ではあるんだけど……あまり自分から積極的にしたい話ではないものだしな。ただでさえ暗かった気分が最悪になっちまうし。それに――

「…………」

 ちら、と。

 智里の方を見る。

 動きを封じられるというのは、精神にくるものだ。俺たちがここに来る道中、ひょっとしたらあの少年たちが露原の文句、恨み辛みそねみをぶちまけてたかもしれない。

 人の陰口を近くで聴くことも、またこれ心的ダメージ絶大だしな。

 彼女の疲労は困憊こんぱいしているらしい。

 俺の二つ名の話は、智里の前では……もう、聴かせたくない。

「昔の話だよ……」

 言って、俺は校地から出る門へと向かった。智里の肩を持って。露原は混乱しながらも、俺たちの歩みについて来た。

 俺に半身を預けているはずの智里の重みは――信じられないほど軽かった。


「すまないな」

 露原との別れ際、彼女はそんなことを言った。

「今日は、本当にボクが一方的に理不尽なまでに巻き込んでしまった。すまない」

「まあいいよ。こうして無事でいられたんだし。別にお前がそもそもの原因だろうと、こいつも責めちゃいないだろうさ」

 ちなみにそんな頃になると、智里はもう眠ってしまっていた。だから俺の背中に乗っけての帰路というわけだ。しかし、なんといっても制服姿だからな。後ろでスカートが大変なことになっていないかが重大に心配だ。

「ボクは」

 露原は口を重くも開けて、やっとのことで言葉を紡ぎ出す。

「ボクは、もう――」

「なにも言うな」

 やっとのことで紡ぎ出している言葉の最中、俺はそれを断ち切る。

「もういいって。お前のせいだというわけじゃないだろ」

「いや、これは全面的にボクのせいだ……」

「だぁから」

 智里が落ちないように気配りをしながら、両手で露原の頬を引っ張った。「あひゃふえ? ふぁうぃふふ!」などと慌てる彼女。多分後半は、「何する」って言ったんだろうが、前半はさっぱりだ。

「そっちの方がいいと思うぞ」

「え?」

 解放された頬をさすりながら尋ねる露原。

「笑ってる顔の方が、お前には似合ってるよ、露原」

 そういうと彼女は目を真ん丸くしたが、すぐに細めて、俺の希望通りにしてくれた。

 うん。

 その方が、100倍かわいい。

 俺も、彼女につられて笑ってしまった。

「っへへ」

「ふふふ」

 夕陽のせいか、それともさっき引っ張ったせいか、顔を赤く染めて、

「ボクは湊だ」

 とつっこまれた。


「恨むよ」

 帰ってる途中にそんな重い言葉を聞いた。

 俺や智里たちがルームシェアをしているマンションはまだ見えない。俺の歩行で揺らし過ぎたのか、智里を起こしてしまったようだった。

 つか、起きたんなら降りろよいい加減。

 と思いつつも降ろさない俺も俺。

「恨むって、露原のことか?」

「正直、ファンだったんだけどね」

「なるほど。お前があいつと会う時になって様子が変だったことに合点がいったよ」

 ファンとして緊張してたのか。

 そう言えば、数多くのファンを抱えている露原は神とまでされていたんだったな。その彼女に、あろうことか両頬を引っ張るなんて行動(悪行?)をした俺も凄いもんだなあ、と思う。

「でも、今回私は、完全に害を被った形で呑みこまれたんだから。これで恨まない方がおかしいでしょ」

「それを言うなら、あの少年少女たちにも恨みの矛先が向かうじゃないか」

「そんなの当たり前じゃない。けど、露原さんにも責任や原因の一端はあるわけでしょう?」

「そこはフォローするつもりねえけど……」

「でも実際、優し過ぎるよ、陽は……」

 トーンを落として言う智里。彼女の表情は見えないが、おそらくは暗いそれとなっているだろうことはわかった。

「陽だって、今回は巻き込まれたんだよ? 一発殴られてたし」

 背後から伸びる手が、俺の顔に触れた。冷たい感覚がすぐに伝わる。わずかばかり残っていた痛みが引いていく気がした。

「あ、あんなの、殴られた内に入んねえよ。蜂に刺されたくらいだ」

「結構な痛みじゃん」

「お、俺には、そんなことない、と、思う、けどな」

「なんで節々で区切るのよ」

 ははは、なんて力なく笑う智里の声。

「でも、恨むよ……。彼女が悪いんだから、彼女を恨む」

「そうか」

 無理もない。

 いくらファンだからと言って、その人間が原因で拉致緊縛でもされたら、心理的に悪いイメージを抱かないわけがない。

「まあ、彼女を恨んだところで、何がどう解決するわけでもないし。どの道、この件はもう解決していることだしね。あとは、私の心の問題」

「…………。ファンをやめるとか、そんなところか?」

「ううん。そんなんじゃ許さない。だから償いとして、罪のあがないとして、彼女には私の友達になってもらう」

「はぁ?」

「ファンから友達に降格。憧れの存在であるところのスターから、手の届く位置に降りてもらう。それで、チャラ」

「そんなんでいいのかよ? そりゃ神とも言われている存在からそれじゃ、二階級特退もいいところだけど……」

「いいの。私の夢が、これで一つ叶うんだから」

 あぁそう。

 なんだか、声も態度も軽くなったような気がする。

 俺からしたら、それ自体でもう満足なんだけどな。

 ルンルン気分でさようなら、のハッピーエンドに落ち着くならそれでいい。

 彼女には、そうであってほしい。

 俺が背負う彼女の全体重は――予想通り、軽かった。


 ややあってからトーンを下げた智里は、

「ねえ、陽」

「んあ?」


「ありがと」

 言って、背中からきゅっと抱きしめた。




 更新できずにいました、NOTEです。


 やっとこの一編を終えることができました。立った一日のできごとに何話費やしてしまったのか知れません。

 最終的にいろいろと謎やらなんやら残す形になってしまいましたが、それはまた次の機会に……。NOTEでした。


 この話の感想や評価、レビューや意見や誤字脱字のご指摘などがありましたらぜひにもくださいませ。


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