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17話.暴走

 星はたくさんの人間たちに見られている。その人間たちは星のことがいつでも見えているから、どうしても頭の中からは離れないし、記憶の中からは消えないものだ。

 いつも自分のどこかで、あるいは望んでいなくとも輝いてしまっている、期待の星であり眩し過ぎる星なのだ。

 だがしかし、星はそんな人間たちのことが見えているのだろうか。

 例えてみる。

 星と言うのは、夜空には数多あまたも輝くものたちだ。世界中を数えてみると、スターと呼ばれるようなきらめく人物など、それこそ星の数ほどいるのだろう。夜空に瞬くあれのように。

 しかし、それが、太陽系の中心的存在であり地上を明るく満たす恒星であるところの太陽や、地球の周囲を、ごく身近を回って人々を優しく照らす衛星であるところの月。

 それらのような、特別な存在がこの世にいるとしたら。

 自分の影響力が強すぎるため、何万キロも何万光年も離れたところにまで影響を及ぼすような、そんな星のような存在が、実際にいるとしたら……。


「なあ、みなと……」

「ん、なんだ? よう

「…………」

 やっぱり、呼びづれえ……。

 あまり知らない女子の名前を呼べないだとか、そんな初恋中の小学生みたいなことを言うつもりもないし、そもそもがそんな繊細な神経の持ち主というわけでもないのだけれど。

 そこはそれ、やっぱり親交があまり深まっていないところが難点というか。そこに難色を示しているのだ。

 だがおいおいそんな……今更になって「やっぱり名前で呼び合うのはやめよう」なんて、もやしっ子みたいな……草食系男子どころか、食われる野菜の方になっちゃうじゃん。

 いや、断じて「名前で呼ぶのが恥ずかしい」とか、女子が苦手なギャルゲーの主人公格のような性格では、俺はないと確信している。確証はないけど。

 しかしこんな、1年の付き合いがありながらほとんど会っていないこの女と、名前で呼び合う程の仲にまで進行してしまったら、ファンクラブの人間たちのどんなに痛い視線と冷戦にさいなまされることか。

「? どうした? 呼んでおいて沈黙とは、風に聴く竜崎りゅうざき陽ともあろう人間が、その名声を失くしかねないよ」

「お前がさやに何を吹きこまれたのかはとうとうわからずじまいだが、しかしお前、俺に名声なんかこれっぽっちもないからな」

 高校1年時は随分と平和に暮らさせてもらった。本当に、毎日が穏やかで長閑のどかな時間だった。

 貴重だとも思えるその期間は、俺に本当の楽しい学園生活を――青春を、教えてくれたんだ。

 色恋沙汰がなかったのは非常に残念の極みだが、それは俺の努力不足ということで。

「そうか? 彩ちゃんが話してくれた陽の素性や素行からすれば、ボクは全幅の信頼も全身全霊の期待も抱けるけれどな」

 楽しそうに笑顔を作って、まるでというよりも、まんまで女の子の露原と対峙するこの行為そのものが恋愛フラグ設置中なのだとしても、俺からすれば縁遠いことなのだ。

 相手がスターだとしても。

 相手が女の子だとしても。

 それはそれだけであって、

 それでしかないのだから。

「で、なんでここにいるんだ? 放課後はバスケ部、行かなくていいのか?」

「ああ。今日は部活動の説明会があったからね。別に活動に含まれるわけではないけれど、体育館の後片付けがあるらしいし、このままじゃ開始時間も遅れるってことで、今日のところは暇をもらったよ」

「へえ、そうか。あのスクリーン、想像以上にでかいもんなあ」

 だから新入生であるところの彩も、今日は部活動の見学とかには行かなかったってわけね。納得。

 ……ん? 彩、か……。

「そう言えばお前、俺の情報は全部彩からもらってたんだよな?」

「ん、そうだぞ。先に彩ちゃんの名前を出しておいて、これはまたおかしなこと言うな」

「いや、まあそうなんだけど。それでお前、去年の夏に言っていたあのこと、日曜にはいろんな中学を回ってるって言ってたことだけど、あの後もずっと同じあの中学校に行ってるのか?」

「いや、そんなことはないよ。日曜にだって練習がある中学校は多いし、あそこもその忙しい中学校の1つだったからね。練習や、それに男子中学生や高校生チームにまで試合を挑まれてね。こちらとしてもそれどころじゃなかったんだ。それに日曜日ということもあってか、彩ちゃんだって、そうそう毎週来てくれているわけじゃなかったし。」

「ん? そうか。そうだよな、日曜日だもんな。なんであいつ、休日に学校なんて行ってたんだ?」

 そこまでの勉強好きというわけでもないし。

 そこまで頭がいいというわけでもないのだから、受験生らしく勉強でもしていたのかもしれないけど。

 ちなみに俺は、去年中の日曜は忙しかった。ほぼ毎週のように補習があったのだ。しかも俺の成績の悪さに難癖つける教師連中ばかりが集う、まさに地獄の補習だった。

「この課題が出来れば帰ってよし」なんて言って、テスト用紙ばりの大きさの紙を何枚も配ってよこすし。両面刷り(ターンオーバー)というところがまたウザ……コホン、愛情が深い。

 まあ、賢が一緒にいてくれたことでなんとか早め早めに切り上げることが可能になったけれど。そう言えば、あの頃は智里もそれに参加してたな。平均並みだったのだが、俺とつるんでるからとか何とかわけのわからないことで巻き込まれていた。

 …………。

 なんか俺、すごぉく不良っぽいイメージがついているらしかった。

 幸いにも同じ中学校なのは賢と智里しかいなかったから、生徒の間に不穏な雰囲気はなくて済んだ。

「あ、ってことは露原――」

「湊だ」

 しくじった。

 どうにか名前を呼ばない方法でここまで来たのに。あわよくばこのまま振り切るつもりだったのに。

 俺のバカ。

「――湊、最近、彩とは会ってないんだよな。あいつ今ここに来るぞ。俺が待ち合わせてるのは、その彩なんだからな」

「本当か!? そうなのか? 彩ちゃんが、この高校に入学してきてくれていたのか? それは嬉しいな。もう会えないとばかり思っていたから」

 あからさまにテンションが上がる露原。玄関でぴょんぴょん跳ねるスターというのも、なかなかにシュールな光景だった。

「これでボクも、不満感を解消できる!」

「おいおいそりゃ挨拶だな。俺と話しているだけじゃあ、満足のいく会話ができなかったってことか?」

「ん? いいや、それは違うぞ。それは誤解だ。陽に対しての気持ちはちゃんと満足しているし充足したし、うん、十全だ。だがしかし、彩ちゃんに対しての気持ちには少しばかり寂寥感が募っていたからな。それだけの話だ」

「お前は交流する人間と同量の心を持ち合わせているのか?」

 それはあるいは一人一人に対しての対応が違うということになるんじゃないのか? 臨機応変の世界なんかじゃないぞ、それ。既に多重人格だ。

 特徴があり過ぎるぞお前。

 この主人公にも少しくれよ……。

 前文、自分の中で軽く提案したつもりが、あと後になってじわじわ効いてくる程の真実だったと気づいた頃には、俺の心は潰れかかっていた。なんだかもう胃が痛い。

「陽ちゃーんッ!」

 下足棚からの絶叫。

 この声とこの呼び方は間違いなく、そして噂をすれば影のことわざにもぴったり一致するタイミングで(来ることを噂していたのだから、これは当然の結果とも言いたいところだけれど)彩が登場した。

 猛ダッシュしていた割にはもう存在を忘れかけていた。露原と話していたことで時間は過ぎていたようだ。

 てけてけと駆けてくる彩に対して声を返したのは呼ばれた俺ではなく、

「彩ちゃんッ!」

 と言って彩に抱きついていった露原だった。

「え? あ? あ! 湊ちゃん!」

「そうそう、ボクだよ!」

 嬉々として抱き合い、その場で跳ねたり跳んだりはしゃいでいる女子高生たち。しかしこうして見ると、ちっちゃな同年代にしか見えないな。

 彩と並んで同じくらいともなると、露原もある意味では至高のスポーツマンだぞ。

 やがて再開の挨拶も済んだのか、2人は離れて会話。しかも学校を出るように歩き始めた。俺の存在は忘れ去られているようだ。

 彩と露原は仲良く話しながら歩いているのだが、その後ろを歩いていた俺は声で2人を分断する。

「おいおいお2人さん。誰か忘れてないか?」

「え? あ、う、ううん、陽ちゃん。全然だよ。全然さっぱりこれっぽっちも忘れていなかったでありますよ」

「戸惑い方がマジだから。っていうか彩、必死にフォロー入れてもな、『さっぱり』はやっぱり忘れ去っていたことを強調するための副詞だぞ」

「細かいなあ陽ちゃん。そんなことだと、全世界の女性たちの理想には追いつけないよ?」

「俺がいつ他人の耳に吹聴しただけで甚大な迫害を受けるような誇大妄想を豪語した!?」

「主人公体質だもん。それくらいは頑張ってくれなきゃ」

「主人公は誰でもかっこいいと思いこむなよ。むしろ今の時代じゃ、主人公最強説の方が衰退してるぜ。のび太やおばけのQ太郎なんかがいい例だ」

「でもでも、やっぱりかっこいい主人公の方がモテるよ。いつかはケンシロウやキテレツみたいに尊大になってくれなくちゃ」

「その2人を同列に並べるな。ジャンルも画風も違い過ぎるだろうが」

 被ってる所なんて1つもないじゃん。

 それともそれは、俺に文武両道を心掛けろという遠回しなメッセージか?

 その手に乗ってたまるか。

「いや、それにしても、だ。彩、お前なんで遅かったんだ? 足が遅い方でもなかったろ? 露原がいなかったら――」

「湊だ」

「…………」

 そこまでして呼ばせたいものなのか? 下の名前。

 女の子はわからない。

 いやそれ以前に、学園のスターであるところの露原の意図なんかあずかり知らないところだ。

 俺と露原との間を流れる、毛色の違う空気も気にせず、というか気が回らないとでも言いたげに申し訳なさそうな顔をする彩。俯いて、彼女は言った。

「ああ、それはね……先生に、捕まってたの……」

「…………」

「…………」

 …………。

「廊下は走っちゃ、いけません……って」

 今世紀にしてこの世代、というかこの年齢で、もう高校生だというのにもかかわらず、最近は小学生だって言われないであろう教師側の名台詞(ともすれば死語)を、真正面から享受する女子がいた。

 ツインテールのちっこい……小学生並みに優れた頭脳を持っている女子高生が、姫宮ひめみや彩だった。

 溜息しか出ねえよ。

 つっこみキラーか。

 沈黙というよりもむしろ沈殿したかのような重い空気の中で、携帯電話が鳴った。

 言葉を失った集団に対しては見事にナイスなタイミングだった。

 助かる。

 しかし受信画面に表示された番号には、見覚えがない。

 しかしとにかく、俺は救われた思いで受話器をあてがった。

「もしもし」

「…………」

 相手側は――応対しない。

 なんだ? これ。

「もしもーし」

「…………」

 イタズラ電話?

 詐欺まで出没しているこのご時世に?

「もしもし。用がないなら切るぞ」

 とまで言うと、その言葉を待っていたかのように間を挟まず、

「用ならあるさ。竜崎さんちの陽くん……」

 挑発するような軽薄な声で、電話の主――向こうの男は告げた。まるで俺のことを以前から知っているかのような……そんな声で。

 不穏な空気を感じた俺は、彩と露原とは少し距離を置き、電話の相手にも伝わるような低い声で言うことに。

「誰だ?」

「こっちの名前なんかどうでもいい。用だけを伝えるから、記憶して行動しろ」

「悪いけど、初対面の相手に命令されて受容する程、俺は従順じゃなくてね。それに、素性も明かさない人間と長電話する程のお人好しでもないんだ」

 挑発して返すと「ちっ」と聞こえる程に舌を打つ相手。

 気は短いみたいだな。

 聞くからに未成年の声だ。しかも、声変わりもそこそこの――。

「とにかく、偉そうなことは言えねえ立場だってこと、わかってもらわねえとな」

「は?」

「…………。よ、陽!」

「!!」

 この声――甲高くて、聞き覚えのある声の主は、智里ちさとのようだった。

 でも、なんで?

 智里はさっき校内で俺と別れて、その後は会ってないはずなのに……。

「陽! 陽!」

「ち、智里! 智里か!?」

 危ない。

 声を潜めておかなければ2人に感づかれる。物騒なことに巻き込むわけにはいかないからな。

「陽……学園の、体育館裏に来て……」

「大丈夫なのか、智里」

「う、うん……大丈夫……」

 恐怖感からか、智里の声は震えている。手でも縛られているのだろう。だが、声の調子からして、乱暴を受けた気配はないな。拉致緊縛。最低の行為だ。

「わかったか? 必ず来いよ」

「あ、ああ……わかった」

 そう言って、俺はケータイを握る手に力を込めた。

 智里を…………。

 あいつら、絶対許さねえ……。

 俺が怒りに震えていると「ああ、それから」などと言って相手は、こっちが本題だとでも言いたげに声の調子を鋭くして、

「お決まりの台詞であるこれ、『1人で来い』とは言わねえ。むしろ……だ。そこに一緒にいる、露原湊を連れて、2人で来い。ああただし『それ以外誰にも話すなよ』っては、言っておくけどな」

 電話は、不通になる。

 ツーッ、ツーッ、なんて酷く寂しい警鐘だけが、俺の脳内に反芻はんすうしているだけ、だった。



 剣呑な空気になってきましたね、NOTEです。

 シリアスな雰囲気の作り方を心得ているわけではないので、智里と陽の電話のやりとりがオーソドックスになってしまってましたが、ご愛嬌ということで……。

 この作品では初めてでしょうか、危ない展開です。

 日常的な日々の中では、こんな、お話にはお約束な顛末がこの先々も続いていきます。

 体育館裏やら、電話での呼び出しやら、廊下を走ることやら。

 これからも、そして次回のお話も、楽しんで読んでいただけるように努力したいと思います。お願いします。NOTEでした。


 感想や評価、レビューや辛口な意見、誤字脱字の訂正なんかも下さると幸いです。このお話をより良くするのはあなたです。……なんて。



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