閑話.食い問答
リビング。
俺たち4人がルームシェアリング生活を送っている中で、風呂やトイレを抜かせば唯一と言ってもいい程の共同居住空間。真のルームシェアの場所だ。
そこにはソファがあり、真ん前にはテレビが備えてある。俺はその3人掛けのソファに、右の肘掛けに傾くように座り、テレビを見ていた。
休みの日の、平和かつ優雅なひとときだ。
ソファとテレビの間のテーブル。
智里はガラス製のそれに、俺から見れば横向きに身体を入れ、みかんの皮を剥いていた。首を少し回し、バラエティー番組を見て笑っていた。
俺も、同じ場面で同じように笑う。
平和だ。
「なあ、智里」
「なに?」
「そのみかん、くれないかな?」
智里は、先程まで剥いていたみかんの皮を俺の方に差しだしてきた。
「柑橘系の果物は皮が苦いことを知ってわざと俺にそんな仕打ちをしているな」
「身だけ渡す人がどこの世界にいるのよ?」
「この世界ではそれが普通だろ! さてはお前、入院患者のお見舞いにフルーツを持って行ったことがないな!?」
「入院中にフルーツを持ってこられたこともないわよ。同情するなら金をくれ」
「入院の代金をせがむなよ」
「仕方ない。そんなに言うのならあげてやらないこともないわ」
智里はそういうと、割とあっさりと、俺に剥いた果実の方をくれた。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、いただきます」
「召し上がれ」
俺は彼女が剥いたみかんの、くっついている何個かの内1個を剥がし、口に運んだ。
甘くも酸っぱい風味が口の中に広がる。
「ん。おいしい」
「そう」
彼女は何事もなげに、手元に残ったものを食べている。
と。
口の中に堅い質感を覚えた。
「ん?」
俺はそれを手に吐き出す。
「種か」
「種くらいは入っていて当然でしょ」
「まあ、そうだけどさ」
種を捨てて、手元の房の中からもう1つを口に運ぶ。
智里がちらちらと視線を投げてくる気配があるが、よっぽど独り占めでもしたかったのだろうか。ざまあみろ。
おいしい。
けど。
種があった。
「…………」
「種くらいは入っていて当然でしょ」
「まあ、そうなんだけど、さ……」
種を捨てて、手元の房の中からもう1つを口に運ぶ。
甘酸っぱくておいしい。
しかしまた。
種があった。
「お前、もしかしてわざと種が入ってるのばっかり渡してないか?」
「それくらいは造作もないことでしょ。選別できるわよ」
「お前はエスパーなのか!?」
「どう、見た? 私の超能力を」
意地悪な超能力者だった。
悪戯する事しか能がない。
能力は人間を超えていても、人間は超えていない。
人間すらできていない。
「どう? 欲しい? これには種が入ってないわよ?」
なんてにやけながら言ってくる智里を無視し、イライラを募らせながらも俺は手元に残った最後の果実を口に入れた。
その中にはご丁寧にも、種が2個入っていた。
なんだこれ。
そんな感じですNOTEです。
こんな平和な日常が現実にあればいいなあ、なんて思う今日この頃です。
未だ露原湊の話が終わっていない中での閑話は、あまり出したくないものだったのですが、本編の方が予想以上に長くかかってしまっているので、もういいやって感じで入れちゃいました。
空気が壊れちゃったという方がいたらすいません。