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2話.学園&幼馴染

 春休み――なんていい響きなんだろう……。

 新たな生命が誕生し、太陽は優しく微笑み、花々は可憐に咲き誇り、人々はレム睡眠からノンレム睡眠へと誘われる。

 そんな、高貴で優美なお嬢様のような――。

 まるで、都会から離れた所の無邪気な少女のようにまぶしい――。

 そう、もう最高の季節ではないかぁっ!

 この朝から燦々ときらめく陽光を浴びただけで、俺の気持ちは、まるで雪解け水のようにさらさらと宙を漂って――

「おい。おい竜崎りゅうざき! 竜崎(よう)! 人の話を聞いているのかお前は!?」

「……んあ?」

「『んあ?』じゃあないだろ! 私の授業がそんなにつまらないか? 寝てる方がマシってか!?」

 見てみると、教壇の上で俺の方へとどなり散らす担任がいた。あまりに恐ろしい剣幕なので、俺は誰が怒られているのか気になって周囲を見回す。

「いや、周囲を見るな。お前だ、お前に言ってるんだよ私は!」

「は……? 俺ですか?」

「他に誰が寝ているというんだ!?」

 担任は相変わらず憤怒の炎を背中に背負っている。

 まるで不動明王みたいだな……。


 そんなこんなで、今日は春休み……のはずなのだが、俺の学年ばかりはそうはいかなかった。

 いつもなら学校行事が目白押しのウチの高校――市立彩桜(さいおう)学園は、校風も成績もゆるゆるなお遊び高校だ。

 しかし、いや、『だから』なのかもしれないが、ここ(特に俺たちの学年)では春休みにも補習がある。別に成績がまずいのではなく、それどころか中の中――なかなかとれない最難関ラインを突っ走っている理想的な高校だ。

 だが、先程も言ったとおり、そこは行事もりだくさんのお遊び高校。

 普段の授業日数が間に合わなくて、このままでは単位が危ない。

 下手を打てば留年の危機!

 そんな感じ。

 と、いうわけで、昨日までの和やかな春期休業はグッバイ。

 今日から三日間程度、俺は午前中のみを再び授業という大海の荒波、異国の戦火に身を投じる日々を送る羽目に陥っている。

「キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…………」

 1時限目終了。

 朝から大目玉をくらいながらも、俺はなんとか担任の目をかいくぐって惰眠だみんむさぼることに成功したのであった。

「あまり自慢できることじゃないね、それは……」

 俺の情けなさMAXなモノローグを察したのか、俺と同居中で双子の兄のけんが溜息をつく。

 俺ってそんなにわかりやすいのかな?

 賢は肩をすくめながら続ける。

「昨日だって昼からずっと寝てたじゃないか。なんでそんなにも眠いものなのさ?」

「俺はな、1日に12時間以上は寝ないと身体に異常をきたすんだよ」

「人生の半分を損している計算だね……」

「それに、昨日の夜は賢のせいで眠れなかったんだろ? 焼きそばこぼすわ、夕飯ねだるわ、格闘ゲームの挑戦してくるわ、深夜番組見まくるわで、結局、日にちまたいじまったじゃねえかよ」

「うぅ……」

「それに、賢だって昼から寝ちまってたから、昨日はあんなに遅くまで目が覚めたんだろ? 俺にとやかく言えた義理じゃないじゃんか」

「う、うぅぅ~……」

 …………。

 ……あれ?

 なんか、賢の様子がおかしい。

 肩をプルプルと震わせて、両手を胸の前に持ってきてぎゅっと握っている。 心なしか、目にもなんだか表面張力が見えるような……。

「や、やっぱり、僕は誰かに迷惑をかける運命なんだぁ……」

 あ~あ~……涙声になってる。

 なんだか目から輝くひとしずくが流れ出た気がしたし……。

「うううぅぅ~……」

 なんか、マジになってきたな……。やばいこれ。マジだこれ。これ以上泣かれた方が迷惑だよこれ!!

「け、賢。別に責めてるわけじゃないし、俺だってもともと夕飯食べようと思ってたし、ゲームだって最近やってなかったし、深夜番組だって笑えて楽しかったんだからさぁ……」

 俺が慌てて取り繕うと、賢は幾分か落ち着いてきた様子だ。

「ほ、ほんとぉ……?」

「ほ、ほんとだよ……」

 つか、男相手にこの展開はないだろ……。

 2話目からBL混じりってどんな話だこれ……早くも主人公の俺に暗雲差し掛かってる(語り手の俺の発言はなんでもありだったりして)。

「あ、あれ? なんか、いやそうな顔してない?」

 俺がことの顛末に呆れていたのが顔に出たのか、賢は訝しげな顔で尋ねてきた。

「や、やっぱり僕って……僕って、いるだけで迷惑な存在なんだぁ!」

 心情のレベルがはねすぎだろ!

 賢がいよいよ本格的に泣き始めようとしたその時、俺の背後から甲高い声で、

「あなたたち、またケンカしてんの?」

 振り返ると、そこには明るいブラウンの髪を冠した、ショートカットの同級生がいた。

 目はきりっとし、輪郭も細く、細い腰に手を当てて仁王立ちを決め込む幼馴染がそこにはいた。

「これのどこがケンカの構図に見えるんだよ、智里ちさと

 幼馴染の存在をその目に認めると、俺は彼女へとつっこんだ。

 彼女の名前は篠森しのもり智里。

 俺(たち)の幼馴染だ。

 小さい頃から近所に住んでいたのだが、俺と賢がこの私立校に入学すると宣言した時、急に進路をこの学園に変えた意味不明女である。

 その件に関して意味不問と言い張る彼女だが、俺にはなんとなく予想がついている。

「そうね、どちらかといえば陽が賢をいじめている風に見えるわ」

「それも事実からずれてるんだけどな。まぁ、そう見られても仕方がないか」

「賢は気の弱い方なんだから、気を払ってあげるくらいのことをしなさい」

「お前は本当に賢には甘いよな」

 単なるお節介女。

 なのである。

 いつも俺と賢の間に入ってきたり、俺たちの横にひっついたり、俺たちの後をついてきたり……。一番多いのは、いつの間にか俺たちの前を先導していたり……。

 だから、たぶんそうなのだ。

 彼女が急にこの彩桜学園に通おうと思ったのは、単に俺たちがいるから。

 自意識過剰でも自惚れでもない。

 ただの事実だ。

 智里が俺たちのことをよくわかってくれていることは、俺たちもよくわかる。

 智里が俺たちを友達としてよく思ってくれていることは、俺たちもよく思っている。

 だから、彼女は俺たちの後を追ってきてくれたんだと思う。

 中学の時――このまま離ればなれになっちゃうのかな――なんて言い出したのはこいつだ。正直なところ、俺はわからなかった。このまま離ればなれになったところで、俺たちの友情が崩れることはないだろう。

 でも、智里が心配しているのは、友情云々ではなく離ればなれになることそのものだったのだから……それはわからない。

 就きたい職業が違うなら、職場は離れるだろうし。

 行きたい場所が違うなら、住居も離れるだろうし。

 どのみち、物理的にも精神的にも離れたくないという彼女の気持ちは分かる。

 俺たちは生まれてこのかた兄妹のように育ってきたのだから。

 いや、遊びの主導権はどうしても智里にあったから、姉弟……だろうか。

 自分よりも精神年齢が低いと思っていた俺たちが、いわば自立したいと言ってしまったのだから……姉的立場としては見過ごせなかったのかもしれない。

 まぁ、結果的にいい迷惑ではあるけど。

「悪かったわね、いい迷惑で」

「は? お前、俺の心情を察知することができるのか?」

「私を誰だと思ってるの?」

「ありがた迷惑女」

「いえ、私が起こす迷惑すらありがたいと言ってくれるのは嬉しいんだけど」

「そんな言葉のとらえ方があるか!」

「それとも、人生の上では有りがたい迷惑が、私なら起こせるという尊敬?」

「俺が奇跡体験者として名乗り出たとでも言うのかお前!?」

 迷惑に希少価値なんて付けるな!

 本当に、うるさい女だ。

 かれこれ16年間、俺はこいつにこんな風に構われている。いや、本当は「俺たち」なのだが……いかんせん賢はこんな会話に参加したいタイプではないので、いつも横で笑っているのだ。第三者として。

「ぷっ、っくく……」

 ほら、こんな風に。

 ……………………。

 って、あれ?

 賢はいつの間にか笑っていた。俺と智里のやり取りを聞いて、それが面白かったのだろうか。声を押し殺して、腹を押さえて笑っている。

「っくくく……」

 なんか、賢の中では爆笑しているらしい。

 これくらい笑われると、当事者としてはしけてしまうもので。

「…………」

 俺と智里は俯いていた。

 気のせいか、彼女の頬が紅潮しているように見える。俺もあんな感じになっているのだと思うと、それはそれでまた恥ずかしいものがあった。

 しばしの沈黙の後、

「そ、それよりもさ……」

 俺が声を発した。

「春休みの真っ最中に、なんでこんなことしなきゃいけないんだよ」

 と、話を切り替える。

 いや、正確には、俺の中では話を戻した形になるのだが。

 智里は答える。

「留年までは言いすぎだって話だけど、卒業が危ぶまれるくらいの噂は立ってるって話だから……まぁ仕方がないんじゃない?」

「それにしても、なんで俺たちの学年だけ?」

「私たちの学年だけ、やけにレクリエーションが多かったのよ、今年は」

 なんだよそれ。

「でも、またなんでそんな事になってんだ? 俺はもうこうして学校に来る事に、今更何の意味があるのか分からないけど」

「私たちの入学当時の成績が、そこらの公立よりもずば抜けて良かったせいか、先生たちも気を良くしちゃったんだって」

「で、気を抜いた結果がこれか……。なんて言うか、一番の被害者は俺たちだよな」

「そうだよね。陽なんてただでさえ出席日数が危ないのに」

「俺、ほとんど休んだ事ねえよ……」

「あれ? いたの?」

「単に影が薄いのか俺は!?」

「だって、いつも二人いるから。二人じゃないと一人じゃない気がして」

「俺たちは半人前かよ!」

「賢は一人前だよ」

「それ、俺はただ賢の付属品になり下がってるじゃん!」

 どちらかといえば影が薄いのは賢だろ!

「陽、その言い方は酷いよ……」

 お前まで人の心の中を覗くな、賢。

 賢に気を引かれているうちに、またもや智里は攻め込んでくる。

「それに陽は、卒業まで成績が持つのか不安だし……」

「せめて卒業できるかどうかを心配してくれ! 俺は卒業前に道を脱してしまうのか!?」

 結構リアルでこえーよ!

「いやしかし、それだけウチの学年がピンチだってのに、原因でもある教員はいつ来るんだよ? 補習のスケジュールとか知らんけど、この休み時間は長くないか?」

 気がついてみれば、さっきの授業、1時限目が終わって結構話し込んでしまった。その割には次の授業、って空気がない。それどころか、教室の人口が圧倒的に減っている気がする。

 そんな疑問を、智里が解決してくれた。

「今日はこれで終わりだよ」

「マジで今日ここに来た意味がわからないな……」

 そんな、どこにでもあるようで案外ない、もしかすれば理想的とまで言えるほどのユル校――彩桜学園の全日程だった……。



 1週間更新っぽくなってます、NOTEです。

 今回でわかるとおり、本当にゆるゆるな感じです。キャラも世界も学園も作者も。

 原因はただ一つ、自分に正直なんです。

 思いのままに書いてたらいつの間にかこんな感じになっちまいやした、って感じです。

 ちなみに、この話に一週間なんてたいそうな時間をかけていたわけではありません。

 頭の部分はちょっと前に書いてあったやつですが、後半というか大半は投稿前の1時間かそこらでズババーっと書き散らしたものです。(たぶん修正が必要かも)


 さて、作者のどうでもいい与太話はこれまで。

 やっとキャラが増えました。雑キャラ……失礼、サブキャラも合わせれば4人ですね。少し前の作品では1話目に主要キャラ全てを登場させた覚えがありますが、それはそれですしね。(これも与太話……)

 篠森智里です。

 彼女の紹介は、まぁそれなりにしたつもりですけど、十分だったのでしょうか。自分でもよくわかりません。まぁ、おいおい彼女も明らかになると思いますので。

 当然、キャラはこれだけではありません。

 厳密に言うと、1話にも登場してますし(メールだけ)。

 と、いうことで、これから展開を始めるこのお話ですが、作者の自己満足に同調してくれれば幸いです。

 そして感想や評価などをくれれば嬉しいことこの上ないです。ぜひぜひ激辛評価から何から遠慮なくどうぞ。


P.S.

 キャラのプロフィールなどもおいおい示します。

 自分としても、あまりキャラが定まっていないのでそうも言えませんけどね……。無責任ですいませんです。


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