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15話.語呂は覚えやすく


 現在、2年時の陽たちへと戻ります。




 クロニクル。そんな言葉を聞いたことがある。

 記録。編年体、または編年史。

 なんでもない。本当にただの言葉だ。その裏に何かの歴史があるわけでも、言葉の成り立ちやこれまで経てきた生い立ちに特徴的な部分があるわけでもない。

 全年代にわかりやすく伝えるのなら、年表、と言った方がいいだろう。

 社会科の教科書や、国語の文学作品なんかの出版年なんかを整理してあるあれだ。

 ○○年に××がありました。

 またその何年後の○○年にはまた違う××が……みたいな。

 時系列を、きちんと見分けられるもの。

 そんな世界史の年表と、俺は壮絶なにらめっこを繰り広げていた。

「え~と……『710(なんと)立派な平城京』とか、『794(なくよ)ウグイス平安京』だろ。あとは……」

「朝だっていうのに薄気味うすきみの悪い呪文なんか唱えないでよね」

 朝だっていうのに勉強している真面目まじめクンな俺に対して、心ない言葉が浴びせられた。

 こんな強気な親しげトークは一人しかいない。

 智里ちさとだ。

 彼女は俺の隣の席(本来から彼女の席だけど)に、横向きで――俺に身体の正面を向けてどっかりと腰を下ろした。

「あのねえ、よう。いくら日本史の小テストがあるからって言っても、そこまで手の込んだ詰め込みはいらないはずだけど? それに、小学生でも習う語呂を、いまさら本気で取り組まれてもねえ……」

「うるさいな。俺とお前とじゃ、頭の出来が違うんだよ」

「下から言ってて惨めになるようなセリフを吐かないでよ」

 ほっとけ!

 っつーか、俺と智里は同じような成績だったはずなんじゃないのか!? なんで春休み明けのテストで高得点なんか叩き出してんだよこいつは!!

 はっ!

 まさか、俺に内緒で、こっそりけんと、ひ・み・つのとっくんだぞッ、てへ。

 みたいな展開としゃれ込んでたんじゃあ……!

 許さん! そんなのお父さん許さないよ!

 昼間やら夜間やら問わず、若い男女が人目を盗んでイチャイチャと。

「バッカじゃないの!」

 妄想爆発スィートボンバーしていた俺の頭に、顔を真っ赤に染めた智里は、丸めたノートをフルスイングした。

 教室内に花火のような音が咲いた。

「そんなもんで叩くなよ! 火花が散ったぞ!」

「変なこと考えるからでしょ。自分と同じ顔が自分の幼馴染と、い……イチャイチャなんて、あんたには罪悪感ってものがないの?」

「人の頭を野球ボールみたいにしか扱えないお前にさとされたくねえよ」

 そんな頭で悟ることなんかできねえだろ。

「それに、仕方ねえだろ。やっぱり、けしからんじゃないか。老若男女(マイナス)老人が、独り身のことなんか気にせずに……」

「ただのひがみじゃないの」

 付き合ってることを否定しろよ。勘違いするだろうが。俺も読者も。

「しかも四字熟語と四則演算で、『自分は勉強できます』アピールしないでよ。若い男女、って素直に言った方が断然早いんだから」

「…………」

 そこまで計算する知能がなかったのか。

 言いやすいしね、後者そっちの方が。

「やってることはマイナスだし。それは数学じゃなくて算数の問題でしょうが。墓穴を掘り過ぎ」

 それ以上バカにするな!

 俺を可哀想だとは思わないのか!?

 次から次へと、矢継ぎ早に暴言ぶち込みやがって……。

 突撃銃アサルトライフルかお前は。

 まぁ、ともかく。

「ってか、本当に割れたかと思ったぞ。どうしてくれんだよ。今の時間に覚えた知識が飛び散っちまってたら」

「ああ、水しぶきも一緒に飛び散ったけどね」

「スプラッシュヒットが打てるのか!?」

 メジャーリーガーみたいな女だな。

 筋肉ビチビチ! みたいな。キモ……。

 智里は急に俺へと向き直ったかと思うと、

「鎌倉幕府は何年に起ち上がった?」

「は? あ、ああ……ええと、な。良い国だろ? よいくに……4192年!」

「相当な未来人なのね、源頼朝って……」

「…………」

 2千年後、もう一度鎌倉幕府が開かれるという俺の大予言が、ここに発表された瞬間だった。

 もう帰りたい、家に。

 つか還りたい、土に。


 朝のその後は、智里に出してもらった問題で強化復習を試み、日本史のテストに備えた。日本史というか、それは本当に、なんの問題もなくなんの障害もなく、簡単過ぎると思えるほどの内容だった。

 大概が中学生末期の知識でしかなかった。

 日本史ジャパニーズ・ヒストリーと呼ぶべきか、それとも中学生で習う社会ソーシャル・スタディと呼ぶべきか、それだけで悩めるほどの、それは内容だった。

 まあ、朝の段階で鎌倉幕府の年号(もちろん、正しくは1192年)を間違える時点で俺の進級撤回が注視されたが、智里の言った問題がほとんどそのまま出たのが功を奏したのか、パーフェクトに近い点数を叩き出すことができた。

 勉強もテストも終わり、放課まではあと1限というところに差しかかった。

 が。

 今日は、なにやらイベントがあるらしい。

 1日のラストにイベントなんて、学年集会やらなんやらとロクでもないものが始まるのかと思いきや、

「昨日言ってたでしょ、陽」

 俺たちは今、体育館へと入場したところだ。イベント会場は体育館らしいから。設置されていたパイプ椅子に座ったところで、俺の片割れ、双子の兄である賢はそう告げた。

「今日は、新入生用の部活動案内が開かれるんだよ」

「ん……ああ、そうか」

 ……。

 ん?

「いやいや、意味わかんねえよ。俺たちは新入生じゃねえじゃん。あれは毎年、新入生が参加する中、上級生は教室でのんびりと授業に精を出すっていうものだったはずだろ?」

 事実、去年、つまり俺たちが新入生として参加した時は、開催場所である体育館の中には紹介を取り仕切る先輩たち以外に、上級生の姿は見えなかったぞ。

 最小限の(希望の)視線がある中でだから、安心して、それぞれの部活動の先輩たちの雄姿が光る巨大スクリーンに集中できたんだからな。

 よく知らない他者に周りを囲われるというのは、あまりいい気分ではない。

 肩身が狭いのだ。

 初めて外に出された際、檻の向こうからこっちを見ているお客さんに怯えてわめく小動物みたいに。

 まあ、舞台に上がって上級生と一緒に部活動の宣伝をしていた火の玉女も、去年はいたけどな。

「今回、上級生も見られるようにするっていうのも、露原つゆはらさんの意見みたいだよ」

 なるほど。

 露原(みなと)

 ご多分に漏れず、今回の異例事項にも、その火の玉女が関わっているらしい。

 ったく。

 興味を持ったもん全部に干渉しようとする幼児期か、あいつは。なんて青春まっただ中な人生を謳歌してるんだ。羨ましい。

「それにしても、そう次から次へと、学校側もよくあいつの意見を取り入れたがるよな」

「『最近は自分自身のことを知る人間が少なく、それがゆえに客観的な自己評価が出来ない。だから、まずは自分たちの学校のことからでも熱心に知っていただき、客観的な意見を持つことで進路に活かしてほしい』……っていうのが、露原さんの言い分だよ」

 ……おぉ。

 もっともらしい言い方をするじゃないか、あの女。

 2年生というなかだるみの時期になって、いよいよもってか、学も生気もつけたみたいだな。

 自分自身と学校をつなげるというのは、若干の無理が見受けられるが……。

 しかし、彼女ならそれを一気に、早口に言ってのけられるだろう。そこまで学園のスターに圧倒されたら、そらひるむわな。

 会場の準備が整ったのか、ガヤガヤとした体育館には、「お静かに願います」とアナウンスが入った。

「ただいまから、新入生への部活動紹介が始まります。皆様、各部の燃える思いに耳を傾け、ご静聴の程、よろしくお願いいたします」

 バカ丁寧な音声が消え、スピーカーからはドラムロールが流れ始めた。

 お、おいなんだ?

 アカデミー賞の発表だって、もっと慎ましやかに始めるご時世で、高校の集会でドラムロールって……。

 ドン!

 最後の打音が鳴り響いたのと同時、ステージの上には、一つの影が飛び出した。

 いや、飛び降りた。

 ステージの上に――飛び降りたのだ。

 どこからかと言われれば、天井からだとしか言いようがない。

 その影は真っ黒なマントを羽織り、シルクハットを被っていた。

 影の身体が小柄なせいか、マントは地面をずるずると這いずってるし、シルクハットも右へ左へグラグラと傾き放題だ。

 そして俺には、なんだか嫌な予感が胸の奥にうずき始めた。

「レディース! エン! ジェントルメーン! 今宵のささやかなパーテーにご参加いただき、感謝の念に堪えません」

 欧風なのか、古風なのか、それともどこかのオヤジなのか区別がつかない影。

 パーテーって……。

「短い時間ではございますが、皆様どうぞ! ごゆるりと御観覧くださいませ!」

 勢いをつけた声に合わせて、影はマントを剥いだ。脱ぎ払ったのだ。

 客席に投げられた2品が、必死な皆様に奪われ合う中、ステージ上の影には、黒とはほど遠い着色がなされていた。

 銀色の、肌に余裕のあるバスケットのユニフォーム。肩口で大きく開いた袖に、膝下で同等の大きさに広がるすそ

 ダボダボとした上着とハーフパンツを備えた少女――


 露原湊は、そこに立っていた。




 お久しぶりですね。NOTEです。

 いつも思うのですが、というか小学生くらいから思っていたのですが、「なんと立派な……」とか、「いい国造ろう……」とか、いろいろな語呂は、一体誰が作ったのだろうか、と。

 もしかしたら、どこかの歴史の先生かもしれないし、もしかしたら、どこかの学生かもしれない。

 明治の人が考えたのか、江戸時代の人なのか。

 どの時代に生まれても、言葉は少しずつ変わっていくものです。

 例えば平安と現在、平成の言葉遣いは違うし、今の時代に使われている語呂が、未来には違う言い回しになっているかもしれない。ギャル文字や顔文字なんかで構成されているのかもしれませんからね。

 それを考えた上で、自分なりにわかりやすい語呂を作るのならば、きっと歴史がわかりやすくなるのではないでしょうか。


 なんて言ってますが、私に作るだけの力があるのか……。


 落ち込むことなら誰よりも早く取り組めるNOTEでした。


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