13話.繋がり
噂ってのは恐いよねー。
みんな勝手にあれこれ嘯いちゃってさ。
え? なんでって?
火のない所に煙は立たないって?
バーカ。温泉にだって白い煙はモクモクと立ってんじゃん。
あれは温泉だって? 湯気だって?
温泉のない所に湯気は立たないってか?
おいおい。
とにかく、煙なんてどこにだって立つだろうがよ。
たとえ火がなかろうが、温泉がなかろうが、寒いところで汗かいて茹ってるデブがいなかろうが、
どこにだってそんなもんは立つよ。
けどな、根源があるかどうかの話じゃねえんだ。
もともとそいつオリジンのストーリーに、根だの葉だのいろいろなもん生えさせてばら撒くやつっているじゃん。
例えば?
例えばって……。
まぁ、高校一年生女子のくせにダンクシュートや片手スリーポイントシュートを決めるバケモンとかさ。
部活動への勧誘だからって、授業の合間にパンダのきぐるみ着て学校を徘徊。挙句の果てにはその行為のお咎めで、校則に『平日の校内でのきぐるみ着用禁止』なんて載せる女子高生とかさ。
…………。
まさか。
そんなやつがいるわけねえじゃ――
「本当だぜィ!」
親指を立てながら、露原湊はそう言ってみせた。
俺と賢、智里の三人は、俺の提案で放課後に女子バスケットボールの練習風景を見にやって来ていた。いや、本来の目的は露原神話の教祖様、露原湊を一目見ること、なのだが。
体育館への入口へと至ると、一人の生徒が俺たちの方へと駆けてくるのが見えた。
「あ! 竜崎陽!」
そんなことを口走りながら。
放課後ということも、部活練習中ということもあって、その子はネイビーのジャージを着て俺たちと対談している。
「私立彩桜学園一年D組、女子バスケットボール部レギュラー。ボクが露原湊だぞ」
快活な口先に、凛とした瞳、シュッと通った顎、スポーティな黒のショートカットに決め込んだ少女が、そこにはいた。
そう、俺の目の前に。
しかしまあ、どうだろう。
女子を見下げることは何度となくあるものの……。
堅苦しい肩書を交えた自己紹介は、随分と下の方から聞こえてきた。
露原湊の身長は、153センチしかなかった。
…………。
はぁ!?
「き、ききき、君が、露原湊!?」
え!?
ウソ!?
まぢで!?
ちっせぇ!!
その時、俺の額に何か固いものが当たった。
なんだろ? これ。
床に落ちたそれを見ると、それは小さな小石だった。なんでこんなもん降ってくんだよ、この学校は。
しかし俺に起こった些細な変化を完全に無視し、露原は続ける。
「さぁさぁ座って。せっかく来てくれたんだ、ゆっくり話そうよ」
露原が手を伸ばした方向には、確かにパイプ椅子があった。
学園一のスターの申し出だ、俺たちも断るのは気が引けた。俺たちがパイプ椅子に腰を下ろしている最中も、他の女子バスケ部員たちはせっせと練習に励んでいる。
「ねぇねぇ、いいの? 湊をあのままにしといて」
「いいのいいの、いつものことなんだから。ちやほやされて、ファンクラブまでできちゃって、そのファンクラブの威圧のせいで、彼女を訪れる人なんて滅多にいなくなったんだから」
「そうそう。たまに人が来ると、練習でもなんでもそっちのけで歓迎しちゃうんだから」
何人かの部員は、そんなことを囁いているようだった。
栄光星は孤独星か……。
これだけもてはやされたら、確かにそうなのだろうな。
さておき。
いつの間にかセットしてあったパイプ椅子は四つあった。椅子に向かって右から、賢、智里、露原、俺、という順に座った。
うーん。
これはどんな組み合わせなのだろうか。
この席順、難儀な点もなければ無難な点もない。
ちなみに、露原は俺の隣に座りたかったようだ。
いや、別に自惚れでも独りよがりでもない。俺が端に座ってから、智里が隣に座ろうとすると、露原は猛ダッシュで、ワープでも使ったんじゃないかという速度で、既にパイプ椅子へと座っていた。
生物の動きじゃねえ。
宇宙戦艦ヤマトかお前は。
「それで、今日は何の用だ、竜崎陽。こうしてわざわざ練習中に訪ねてくるなんて、よっぽどの事情がありそうで、いささか恐ろしい気持ちもあるよ」
「ちょっと待って。陽、あなた露原さんと知り合いなの?」
露原の言葉に、智里は疑問を持ったようだった。
しかし、俺は露原湊のことを知らない。
100%完璧に全くもって認知していないのだ。少なくとも、昼休みに屋上で知った程度。視認したことなんて毛頭無い。
教頭の毛髪くらい無い。
…………。
「なに笑ってんのよ、陽」
とにかく、俺は露原の存在を知らなかった。
「――なあ露原、なんで俺のことを知ってんだよ?」
「ん? ああ、前からね、噂として聞いてたんだ」
「噂? スターの露原にまで届く寛大な噂は存在しないはずだぞ」
「いや、ね。ボクは時々、何ヶ月か毎にいろんな中学を回るんだ。ほら、ボクらの学校、日曜日は部活動が強制的に休みになるだろ? 『一週間に一度は休め』というご達しでさ」
確かに。
部活動のかけらもない俺が言っても、正否が怪しい話だと言われるかもしれないが、大体、露原の言う通りだ。いくら全国区になったとはいえ、日曜日に大会があるという場合でもなければ、その日くらいは勉学に励め、と、そういうことらしい。
「でも、ボクたちとしても、次の大会に備えて練習の一つもしたいところなんだよねえ。だから、どこかの中学校や体育館を貸してもらって、練習してるというわけ」
「へえ、殊勝なこったな。さすがは全国レヴェルの実績を持った人たちだ」
「そこで、先々月から今月まで、ある中学校に行って練習をしたわけだけど、廊下でよくすれ違う子と意気投合しちゃってね。よく話すようになったんだ。その子から聞いたのが、竜崎陽、君の事だったってわけ」
おやおや?
巷の中学生に噂されるほど、もしかして俺ってモテモテなのかしら?
まあ、歳の差ってものも社会性ってものもあるし、付き合うとかそんな話にはなれないが、お年頃の女子に人気があるとあったら、そりゃ悪い気はせんでしょ。
「その子はな、ボクに、竜崎陽という人間の外見、魅力、そして双子であることまで楽しそうに話してくれるんだ」
「なるほどな。外見まで教えられて、双子だという事実まで知っていれば、こうして会っても混乱することはないってわけか」
「まさか、本当に会えるとは思わなかったけどね」
「しかし露原、お前、なんで俺の方が竜崎陽だってわかったんだ? こう言っちゃ気持ち悪いが、俺と賢は一卵性双生児。結構似たり寄ったりな外見してるぜ?」
「ああ、それはね、キミからの方が、あの子と同じ匂いが多く香ってきたからさ」
「それは相当な嗅覚だな……。犬かお前は」
ん?
待てよ?
あの子と同じ匂い?
ってことは、一緒に住んでいるか、もしくはたくさんの時間一緒にいるか、ということになるよな。
今現在、俺が一緒に暮らしてるのは、賢一人なわけだし。
ってことは、一緒にいる時間が多い。あ、いや、そしてさらに他の人とはより身体的距離を近く保っている人、ということになるよな。
そんな中学生、俺は一人しか心当たりがないんですけど……。
「お、おいおい露原……。その、お前と意気投合しちゃったその子、その子の名前って……まさか……」
「ん? ああ、確かに聞いたよ。覚えてる。
確か……姫宮彩――
――だったかな」
衝撃の事実!?
が連続してましたね。
明けましておめでとうございます。NOTEです。
新年初更新、というわけで、だいぶお久しぶりな気が致します。前回の更新から13日、約2週間も留守にしてしまいましたからね。
さて、今回もよくわからん展開に突入しまして、年をまたいでもやることかどうか、私自身、非常に悩み放題ではありますけれども、今後とも、よろしくお願いいたします。
NOTEでした。
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