12話.神とか戦乙女とか
引き続く。
昨年の夏の話だ。
屋上で昼食をとった俺と智里は午後の授業をこなし、放課となった。
「あんたは気持ちよさそうに寝てたじゃない」
愉快な冗談を言う智里だった。
俺たちは今、体育館への道を歩んでいる。俺、智里、そして智里がえらく強引に同行させた賢だ。
「なんで僕まで……」
「まぁまぁ。智里のわがままに付き合ってやってくれ」
「二人で行けばいいじゃないか。僕はまだ委員の仕事があったのに……。強引に断っちゃったせいで白い目で見られたんだからね」
「白目で見られたのか? ブロリーみたいな集団だな」
「冗談じゃないよ……」
「本気で落ち込むなよ」
ってか委員会に入ってたのか、こいつ。同じクラスなのに知らなかった。
「生活委員だよ」
「生活……? ああ、風紀委員会か」
この学校はちっとばかし変わってる。風紀委員会というものの代わりに、生活委員会があるのだ。つっても、あまり変わらないのだけど。しかし、あそこだけは苦手だな、俺……。
厳格過ぎるもん、あそこ。
「いいだろ? これから学園スターの露原のところに行くんだから」
「露原? ッて、あの、露原神話の露原湊さん?」
そんなものがあるのか?
ファンクラブならいざ知らず、神格化されたとあっちゃあ、なんだか宗教的で恐いな。
「ファンクラブもあるよ。それも、あちこちにね。彼女のファンは男子だけでなく、女子の大多数までもが魅力にとりつかれているんだ」
「へえ。男女の境もなくスター……いや、ゴッドか」
同じ雲の上の存在でも、こうなるとニュアンスが全然違うな。
「しかもファンクラブから集めた資金でプロのカメラマンを雇って隠し撮り、そのブロマイドは万単位で取引されるらしいよ」
とりつかれてるとか、隠し撮りとか、取引とか――なんだか学園の暗黒面の中心点みたいな話だな。
「ファンクラブ同士が競い合うせいで、今やどこが公式か大々的に決めようともしてるらしいし。しかもその渦中の張本人は、そんな自覚がないらしくて」
「なるほど。周りが勝手にギャーギャー騒いでるってことか。エ○カ様みたいだな」
そこはさすがに直に言うとまずそうなので、あえて丸印を入れてみました。
しかしまあ、それだけのやつに今から会いに行こうってこの行為自体、ファンクラブにとってみれば、結構な先走りだと思われるんじゃあ……。
なんだか、背中に悪寒が走った。
しかし――なるほどわかった。
昼に屋上で、智里が言っていた事の理由。
『今注目の、というか、注視されている一年生なのよ。いい意味でも、悪い意味でもね』
智里はそう話していた。
悪い意味ってのは、要は『目立ち過ぎ』らしい。
悪目立ちじゃなければいいわけではないのか。なかなか学習になる議題だな。
「でさ、もの知り賢ちゃん」
「何、そのなぜだか気分の悪くなる呼称は……」
「バスケットはさあ、確かチームプレイのスポーツだよな?」
「? そうだよ。どうしたの今更?」
「でもさ、あいつは一人でも勝てるようなやつなのか? 話を聞いてると、別にそんなこと容易い感じに思えるけど」
わからないが、俺はなぜだか引っ掛かった。
智里の言うテクニックがあれば、そりゃずば抜けた身体能力なのは認めるが――。
「周りがついていかない、って言うんでしょ? 陽」
智里が口を開いた。道中、今まで口を開かなかった智里。別に、そんなものどうでもいいのだろうけど。
「そうだな、智里の言う通りだ。人ってのは、優れても能力に乏しくても、人はついてこないんだ」
過ぎたるは及ばざるが如し、だったか。
まさにその通り。昔の日本人は偉大だな。
「それは孔子だよ。中国人」
賢はそう言った。
そうでした。
「と、とにかく――だ。ザコいやつにはついていくなんて無理だし、だからってライオンクラスに子猫クラスがついていこうったって無理な話だ。チーム内で、どうしてそんなに人望が得られるのかなって」
これは素朴な疑問。
別に俺が、人望が欲しいわけではないが、ちょっとだけ気になった。
「彼女はね、この短期間で――中学から高校に上がるその過程で、強くなったんだよ。精神的にね」
賢は、急に口調を低くして話し始めた。
「彼女はね、弱小中学のバスケットボール部に入ったんだ。この高校に入ってきた当時と同じような境遇に、ね。彼女は、入った当時から全国制覇の夢を謳ってたんだ。しかし、彼女はともかく、周りは全国などいける実力者ではない。そこで彼女は――選定したんだ」
「選定?」
「簡単に言えば、スカウトだよ」
「なるほど。他の部活から、掛け持ちでもいいからって勧誘したのか」
俺が理解したように言ってみせると、賢は「いや」と否定した。
「彼女が選んだのは全員、運動部に入っていない人たちだったんだ」
「は?」
バスケどころか、運動にでさえ素人同然のやつを投入したってのか?
「いくらなんでもそんな――」
「性格や向いている向いていないなんて関係なく、彼女は、生徒一人一人のボディバランスをチェックしたんだよ。運動、それも、バスケに向いている身体をね」
身体能力を見たのではなく、身体そのものを見た。
賢はそう言った。
「いくらトレーニングしても、バスケに精通していなくても、バスケ向きの身体でなければ、必ず壁にぶつかり山を迎える。そこで、天性の身体を探し出して、一からバスケを教え込んだんだ。彼女直々のスパルタで」
「そ、それで、うまくなるもんなのか……?」
「現に彼女たちは全国区へ。露原さんが三年生になった年には日本を制した。露原さんはプレーヤーとしてだけでなく、コーチングやマネージング能力も抜群だったんだ」
おいおい……。
本当の超人だぞ、そりゃ。
「それでね、陽――」
智里が、賢の後を継ぐように言う。
「彼女はそのことから、『ワルキューレ』って呼ばれるようになったの。
「わ、わる? キュリー?」
「ワルキューレっ。 英語でいえばヴァルキリー、空を駆ける戦乙女よ。死んだ優秀な勇者の魂を集め、第五の世界であるグラズヘイムに建った神々の戦場へ導くそうよ。この場合、死んだかどうかはともかく、優秀な勇者は身体能力の優れた人、ヴァルハラがバスケットコートってことよ」
「へえ、ワルキューレね……。なるほどそっくりだな」
智里は俺より少し成績がいいってくらいなのに、なんでそんなこと知ってんだろ? そんなに有名なのか?
俺のそんな疑問などいざ知らず、智里は続ける。
「ちなみにワルキューレが勇者たちの魂を育てている理由は、最終決戦ラグナロクで戦わせるためなのよ。そこからいくと、彼女の最終決戦に対する執着心がのぞけるってこと」
「へぇ。うまいこと言うやつがいるもんだな」
しかし、俺が感嘆の声をあげたのにもかかわらず、智里はあまり明るくない表情で溜息をついた。
こいつ、なんでこんなに感情の起伏が激しいんだ?
「でも、他の――初期からいた部員が反発したのよ」
智里は重々しく言う。
「今までずっと練習してきたのに、そんなに簡単に実力で越してレギュラーになられたら、それは頭に来るじゃない。だから、他の部員は皆気持ちのすっきりしないまま過ごしてたのよ。だから、高校に入ってから彼女は――」
その言葉は聞かずじまいで、俺たちは、いよいよ体育館へと着くのであった。
過去の回想が続いていますNOTEです。
過去の回想と言いますか、時間を戻した、と言う体で進めている次第です。
露原湊本人が出てこないのですが、次回に必ず出しますので、彼女の本来の姿がお披露目になるのは、もう少し後日、ということになりますね。
本当は今回の後半にでも、と思ったんですが……なにぶん私がずぼらなもんで。
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