10話.待たせたな(明夫ボイス)
私立彩桜学園の中庭。
既に時刻は12時を軽く20分ほど越えている。
中庭の芝生の上で、俺と双子の兄である賢、賢同様に俺の同級生である智里、一つ下で妹分の彩は、俺が朝に作ってきた弁当を広げていた。
と、今回も始まりました『私立彩桜学園の日常的な日々』ですが、記念すべきこの第10話をもって終わります。
そうです。
終わりです。
こんな読んだところでなんの得も利益もないものを、今までわざわざ読んでくださった物好き…………もとい、心優しい皆々様、
ご愛読ありがとうございました。
「ダメだよ、陽。調子に乗ってそんなデマ流しちゃ」
だからなんでお前は俺のモノローグを聞いてるんだよ、賢。俺は一切声に出してなんかないぞ。
「第一、なんでそんなに不機嫌そうにしてるのよ」
智里は、賢の言動になんの疑問も挟まず俺に話しかける。もしかすると、こいつまで俺のモノローグを始終聞いてるのか? や、やだッ! バカッ、恥ずかしい。
……………………んなわけねえか。
「朝からずっとそんな顔だねえ。私の唐揚げ一つあげよっか?」
彩は彩で俺のことを気遣ってくれているようだ。
いや、しかしまあ……俺は唐揚げ一つで機嫌が全快する人間だとでも思われてるのかな。お前じゃないんだから、食いしん坊娘。
「いや、だってさあ〜……」
急発進で始まった俺たちのルームシェアリング生活は、早くも、俺にとっては急降下の一途を始めていたのだ。急停車もせずに。
「陽ちゃん、お風呂空いたよ」
ルームシェアリング生活1日目の夜。
おそらくは人生初であろう俺の一人部屋。そこに響いたノックの後には、今でも一緒に住んでいることが信じられない彩の声が投げられた。
「わかった」
マンガに目を落としたままで答える。俺は先程荷物から解放したベッドに寝ころんでいた。
すると、「わあ」と驚きの声と共に、彩はひょっこりとドアから顔を出しているのに気づく。
「陽ちゃんまだ荷物ほどいてないのォ?」
「まあな。面倒だし。今日はなんだかんだ言っていろいろあったしな。明日にはどうにかしようと思ってね」
「そっか。早めにやっといた方がいいよ? 長引くとどんどんめんどっちくなっちゃうから」
「へいへぇい」
「……もう」
なにやら小さく不満の声が聞こえたが、彩は部屋から退散したようだ。
あえて表記はしていないから、読者の皆様方は、俺の部屋の現状をあまり想像する事ができていないのだろう。
「新居かぁ。さぞかし綺麗な部屋で、よほど整頓されている事だろうなぁ」なんて思っているあなた、ふふふ、甘いな。甘甘だな。この黒糖め。
俺の部屋の現状。
真っ白い壁紙に囲まれた部屋で、真っ白い照明に照らされ、ライトブラウンの段ボール箱の間から鮮やかな木目模様のフローリングが顔を覗かせている。
ちらちらと。
ちらほらと。
ほんとのほんとに、実に疎らに……
それにしてもフローリングがよく見えない……。
そう。ゆうに部屋の8割を段ボール箱で覆われているのだ。
まるで資材集積場みたいだ。
いかに段ボール箱が好きな人間でもここまで大量に備蓄しないだろ。
俺はソリッド・スネークじゃねえっつの。
と、いうわけで、整理は延期。この一週間で使う物だけ出して、あとは土曜日にでも一斉開封出血大サービスといくさ。
さっき「明日」って言ったばかりだけどな。
「さて」
風呂でも入るとしますか。
俺は自分の部屋から出、浴室に隣接する脱衣所へと向かった。
脱衣所を開けると、そこには明かりがついており、洗濯機や洗面台などが並んでいる。変に小奇麗に見えるのは、やっぱり新しいところならではの高揚感からだろうか。今まで住んでたボロアパートとはわけが違うな。
3つの家の両親が出し合ったのだから、単純計算で5LDKの料金を3等分……まあ、それでもボロアパートの家賃よりは高いだろうけど。
「そんなこといいか」
とりあえず、俺は風呂に入ることに……ん?
浴室からはシャワーの音が聞こえてくる。快音がこちらまで響いていた。
あれ? 賢、もう入ってるのか?
2人暮らしでよくあること。シャワー室やトイレのブッキングである。
ボロアパートの時も何度かあったな。
しかも、そこはそれ一卵性双生児の末路……結構場数を踏んでいるのだ。2人とも思考が同じらしく、風呂なりトイレなりのタイミングが妙に一致してしまっていた。
ブッキングしないように気をつけて、時間をおいて入ろうと試みるも、むこうも同じことをしてブッキング、なんてこともあった。
今回もその類なんだろうな。
「賢、入ってたのか?」
言いながら、俺はガチャリと浴室の扉を開けた。
男の裸なんて見たくないけど、兄弟ともなれば、自然と平気になってきてしまっているのである(こんなに仲のいい兄弟も珍しいのだろうが)。と、いうわけで風呂から出たら教えてくれ、とのお願いに顔を出すと――
輪郭の細い、なめらかで肌理の細かい白肌。指先、髪先から脚線や爪先にわたるまでも細いが、随所には成長の証として起伏が見られる。
腰まわりはわりとたおやか差が、胸元のボリュームをさらに強調している。
胸元のボリュームが……。
胸元の……ボリュームが?
…………?
俺は気がつくと、瞳を力の限りに開いている彼女と目を合わせていることを知った。
白く透き通るような肌の主は――智里だった。
「あ」
「え」
2人で硬直。
シャワーを浴びていた模様なので、智里はその身をまるで見てくれと言わんばかりに開放していた。
「キャアアアアアァァ!!」
甲高い悲鳴と共に、洗面器やシャンプーの容器がまるで分身魔球のように飛来してきた。
「おわぁ!?」
俺はそれら諸々を、浴室の扉を閉めることで間一髪回避に成功した。
後ろ手に閉めた扉に背を預けると、浴室からは、
「よ、よよよ、陽! あ、あんたねえ!!」
予想通り、怒り心頭の智里ちゃんでした。
「わ、悪い! お前もここに住んでたこと、すっかり忘れちまってて……」
「はぁ!? 何それ? それで言い訳してるつもりィ!? ふざけないでよっ! 人の身体まじまじと見ておいて」
「し、仕方ないだろ! 勘違いしちゃったんだから」
「それじゃあ済まないでしょうがぁ! ああ! もうお嫁に行けないじゃないの!!」
「あれ? 行く予定だったのか?」
「……は?」
「いや、行けるつもりしてたのかなって……」
浴室からは、急に音が止んだ。
――で、終わるはずもなく……
「ぶっ殺す!!」
ついにキレちゃった!
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
と、まあ……その後、湯上りで俺の部屋に速攻を仕掛けてきた智里によって、俺は半分死にかけたわけでして……。
それにしても……
智里のやつ、ああ見えて着痩せするタイプだったのか。
どさくさまぎれにサイズを確認していた俺なのでした(下着を流し見しただけ)。
Dだったな……。
お久しぶりが止まらない、NOTEです。
今回、陽が遭ってもらった役得……災難は、まあ、よくあること(二次元では)なのですが、ありがちだとわかっていてもやはり待ち望む光景かと思います。
「そんなチャンスねーよ」なんて言う方、
そんなチャンスいらん。
そんなに見たけりゃここを見ろ! 動画やアニメなんてせず、文字から妄想するがいい!!
すいません。
妄想できるだけの文章力を身につけたいと思います。
それにしても、このクリスマスシーズンに春模様でごめんなさい。
近々、クリスマス用の作品を出す予定ですので、そちらも併せてどうぞよろしくです。
ご意見、ご感想、ご評価、ご誤字脱字のご指摘などなど、お待ちしております。ごしごし……もとい、どしどしくださいね!