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9話.お前まで!?


 姫宮彩ひめみやさや=ザコラスボスを撃破(いぢわる口撃)し……ともすれば駆逐し、今朝方まで住んでいたボロアパートを後にして、智里ちさとの家の車に揺られること10分足らず――俺たちが辿り着いた先には、大層なマンションが建っていた。

 高層とまで言えるのかどうかはわからないが、とにかく新しいものだろうとは思う。

 確実に建築基準法に引っ掛かっているであろう(特に耐震強度とかが)ボロアパートとは、比べるべくもない建物だった。

 車から降りるなり、彩は俺たちの前に立ちはだかるように、両手を広げた。

「ここが、今日から陽ちゃんたちの住むおウチだよぉ!」

「…………」

 なに、この展開……。

 俺の突っ込みスキルが足りないのか?

 それとも単なる無茶振りなのか?

 そもそも冗談の枠内に収まるのか?

『もう少し【賢さ】をアップさせてから声をかけてみよう!』なんてメッセージは見当たらないしなぁ。

「…………」

 赤くなるなよ、彩。

 こっち見ろよ、彩。

 自主的にやっといてなんだよ、その『やっちゃった感』満載な表情。

 こんな空気にした責任を取ってください。

 その場にいた全員が、意味不明過ぎて無言になる中、智里の両親だけがウキウキしているように「さぁ、入って入って」と俺たちを中へといざなった。

 特にセキュリティ管理もしていない玄関だったが、丁寧に磨かれているからか、高級感が溢れている。

 自動ドアを抜け、目の前にあるエレベーターへと乗り込む6人。智里の父親が4階のボタンを押したかと思うと、変な浮遊感を体感する暇もないままに4階へと着いた(すげぇ)。

「えっと確か……409だった気が――」

 智里の父親の先導のもと、俺たちは従うがままに足を運んでいた。

 ここまで来ても、未だになにがなんだかさっぱりわからない展開で、呆然と行動しているに過ぎないのが現状である。

「お、あったあった。じゃあ、陽君、開けてごらん」

「は、はぁ……」

 よくはわからないが、俺は409と表示された扉の前まで接近する。

 扉を開けると、そこは、異次元だった――

 なんてオチじゃないだろうな?

 そこまでふざけられると、俺はついに怒るぞ。

 早く日常的な日々へ連れて行けって感じだ。

 まぁ、異次元に繋がるなってことはないだろうから、俺は安心して目の前にある扉を開いた。

 ガチャリ、と小気味よい音を立て、音もせずに開いていく扉からは、新たな光が射しん込んでくるような気さえした。

 瞬間、パァン――と、かすかに聞き覚えのある破裂音が聞こえた。

 そして、俺へと舞い散る花吹雪。

「ご入学、ご進級、ご新居、おめでと――ッ!」

 俺の視界に飛び込んできたのは、真新しい間取りと調度品に囲まれた、見慣れた4人の姿だった。

 そこにいたのは誰あろう、失踪中(?)だった俺と彩の両親だったのだ。

「と、父さんに、母さん……?」

「驚いたでしょう、陽? こんなに素敵な家が待ち構えているだなんて――」

「そうだぞ陽。それに賢もだ。これから新たな門出を迎える君たちには、相応しいプレゼントとなっただろう」

 嬉しそうに語る俺(たち)の両親。

 真っ白な脳内で固まる俺、整理のつかない引き出しまみれになっている脳内の俺の隣を駆けていく少女が、その場にはいた。

「わぁー。ここが新居かぁ!」

 などと言いながら、幼児体型の高校一年生――姫宮彩が、リビングの中心で回っていた。

 両手を広げ、踊るように部屋を見渡したのだ。

「やっぱりかわいいなぁ、我が娘は!!」

「そうね、お父さん」

 そんな、お花畑の中心にいるお姫様みたいな娘を見て、傍目から見て泣いているのは、彩の両親だった。

 彩は、彩桜学園の制服に包まれていて、それはそれは確かにかわいらしいのだけれど、それを見ている彩の両親を見ると、親バカ以外のなにものにも見えなかった。

 いや、バカ親かもしれない。

「――って、ちょっと待てよ。俺は今の状況がなんなのか、未ださっぱりなんだけど!」

 俺は自分の両親にめいっぱい叫んだ。

 俺の隣では、けんも、智里も、こくこくとうなずいていた。

「なんだ、事情を聞いてなかったのか? まあ、こちらから話すのもいいか」

 などと言い、とにかく俺たちを室内へと招き入れた。




 簡単に言うとこういうことらしい。

 彩桜学園というのは、俺の家から歩いても通える学校なのだ。

 しかし、そこには踏み切りだったり信号だったり、朝に込み合うコンビニだったり駅だったりがあったりと、混雑する可能性極大な道路状況というわけ。

 まあ、日本一交通整備が整っている名古屋なんかでは、そんな心配をする必要もないのだろうが。

 だがここは、些細なことで日夜ご祝儀袋が飛び交う街ではない。

 朝のラッシュアワーにでも安心して学校に行けるように、そんな理由で、俺の両親はアパート暮らしをさせてくれたというわけだった。

「うん。まぁ、事情を俺なりにまとめて読者の皆様にお送りしてみたわけなんだけどさぁ……」

 今の状況がわからん。

 なんで引っ越したの?

 何このマンションは?

 よくわからんのやけど……。

 それにあの能天気少女と来たら……

「わぁお! ベッドふかふかぁ!!」

 なんであいつは人んちのベッドでばっさばっさ跳んでんだ。

 今いるリビングからは、放射状に、4つのドアと玄関に通じる廊下があるが、1つのドアの向こうには部屋があり、中のベッドで彩が暴れているわけだ。

「あれ? 聞いてなかった? 私も今日から、ここに住むんだよぉ?」

「何を言い出す新入学生。お前が住む必要性がないだろ。お前の家からだって彩桜学園には通えるし、さほど時間のかかる道でもないんだから」

 俺が彩に意見すると、リビングの真ん中のソファで彩の母親が、

「あら、本当なのよ。今日からここで、彩ちゃんも一緒に住む予定になってるから」

「はぁ?」

 …………。

 ちらっと彩の方を見ると、おそらくは自分のになっているのであろうベッドの上で「にへへ~」とピースしている。

 いや、にへへじゃねえし……。

「って、ちょっと待ってよ!」

 立ち上がったのは智里だった。

「彩をこんな――むさい男どもと1つ屋根の下の中に放置しとくって言うの!?」

「むさいってなんだよ智里。それに、1つ屋根の下って言うのなら、隣に住んでいるキレイなお姉さんだって1つ屋根の下だぞ」

「お隣さんの情報得るの早ッ!?」

「俺の情報力を侮っちゃあいけないね。ありゃ俺たちと同じ高校の制服だった。しかも3年生! 優しそうな人だったなぁ~」

「黙ってて陽! とにかく、こんな犬を放し飼いにしている無法地帯に、彩を置いておくのは危険よ!」

「俺は犬じゃなくて竜だぞ」

「犬でも竜でもミミズでもいいでしょうが」

「ミミズは明らかにランキング最下層だろ!」

 ヒドッ!

「陽はミミズなんかじゃないよね~。だったこないだ、陽は猫になりたいとか言ってたもん」

 能天気その2が喋った。

 賢だ。

「えぇ? 猫ォ? 何でよそれ」

「だってテレビで、結城ゆうき萌花ほうかが言ってたもん。『猫が好きで、見ると抱きしめたくなっちゃうんです~』って」

 賢! てめぇ~!!

「結城萌花って、あのアイドルの? バッカじゃないの! そんなので猫になりたいなんて」

「と、とにかく! 今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。ほ、ほら、犬の話だよ!」

「違うでしょ! 彩がここに住むって話でしょうが!」

 そうでした。

「私はここにいたいよ。陽ちゃんたちと住みたい!」

「とにかく! 彩がここに住むって言うのなら……私もここに住むわ」

 智里は足を広げて立ったまま、俺に指をさして高々と言い放った。

 宣言するように、彼女は言ってのけた。

「はぁあ!? お前何を言っているのだよ!」

 口調がおかしくなりながらも、俺は吠えた。

「彩が一緒に住むだけでもどうかって話に、なんでお前まで加わる必要があるんだ?」

「だって、彩はこうして住みたいって言ってるし――でも、あんたたちの視野内に置いておくのは危険だし――」

 いい加減、俺たちが危険だとか言うのやめてくれよ……。

「いいよ」

 声の方を見ると、にっこりと笑っている賢がいた。

「4人で住めばいいじゃない、陽。その方が、陽も嬉しいでしょ?」

「バッ、そんなわけ……。さ、騒がしくなるだけだろ」

「賑やかでいいじゃない」

 要はプラス思考かマイナス思考かの精神論を持ってこられてもな。

 俺が何も言わずに黙っていると、

「大丈夫よ、陽」

 母さんが俺に近付きながら、話し始めた。

「智里ちゃんならきっとそう言うと思って――」

 と、そのまま俺を通り越した母さんはある一つのドアを開き、

「智里ちゃんの部屋も、ちゃあんと用意してあるからッ」

 ふと見ると、母さんが開けた部屋の中には、ふかふかそうなベッドや、おしゃれな家具がたくさんあった。

 どれもこれもが水色で、まるで、水族館にでも来たかのような気分になる部屋だった。

 それにあれ? あのベッドの横にある異様にでっかいクマ――

「なッ!?」

 それを見て目を丸くしたのは、智里の方だった。

 智里はマッハのスピードでドアを閉めると、彼女の両親の方を睨んだ。

「ちょっと! もしかして、私の部屋から勝手に持ってきたでしょ!?」

 にこやかにほほ笑む智里の両親。

 そんな表情を見た娘の方は、顔を原色くらいにまで赤くしながらも、大きな溜息を漏らした。

「じゃあ、もう決定事項みたいだし……仲良く暮らそうよ、4人で」

 賢が笑顔をひきつらせて苦笑している。

「やったぁ! 智里ちゃんとも暮らせるんだぁ!」

 彩が智里の手を握り、ぶんぶんと振った。

 智里は力も入らない状態で、ぐらぐらとそれに応じていた。


 こうして、俺たちのルームシェアリング生活が始まった。




 久しぶりの更新でございます。NOTEです。


 ってか、高校生活メインのはずのこの物語、大部分が家中心のお話になっております。

 早く軌道修正しないと、ここからずるずるになる予感……。

 ちゃんと彼らの高校生活をお伝えできるように努力いたしますので、ご覧になってくださる読者様方、これからもNOTEを、よろしくです。



 感想、評価、コメント、誤字脱字の指摘など、ぜひぜひお送りくださいませ。



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