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猫の下僕の生態

猫とペットボトル

作者: 昼行灯

 猫はペットボトルが嫌いという話を耳にしたことはないだろうか。


 正確には水の入ったペットボトルを嫌うと一部で言われているのだ。


 街を歩いている時に一軒家の軒や庭に水の入ったペットボトルが並べられているのを見たことある人もいるだろう。私は初めて見た時、魚類や爬虫類を飼育している住人が水槽の水の入れ替え用にカルキ抜きしていると思った。しかし、後に風の噂で猫避けで置いているのだと知って驚いたものだ。

 しかし、一部の界隈で有名な水入りペットボトルを果たして本当に猫は嫌うのだろうか?


 結論から言えば、否である。


 水入りのペットボトルを嫌う科学的根拠はない。たまたま猫が避けたのを嫌がっていると受け取めたのか、猫は水に濡れるのを嫌がる話から派生したのか。どちらにせよ民間信仰か井戸端会議の口コミに類するものだろう。信じるには根拠が乏しい話である。だがここはあえて歩み寄った思考をしてみたいと思う。


 猫が水入りのペットボトルを嫌がるとしたらどうして嫌がるのか?

 ここに焦点を当ててみたい。


 まず水入りペットボトルを考えてみよう。

 一軒家の軒や庭で見かけるペットボトルは二リットルのペットボトルが多い。ラベルはほぼ取られており、日当たりの良い場所に数本~数十本並べられている。蓋は閉められている。私の観測範囲内ではこれが一般的な傾向だ。

 もっと探せば二リットル以外のペットボトルを利用している家庭もあると思われるが、デフォルトはおそらく二リットルなのだろう。最近よく売られているラベルレスのミネラルウォーターを想像して頂ければ早いかもしれない。


 次に蓋だ。蓋が開いたままのペットボトルが並べられているのは見たことがない。なぜ蓋をするのか。一般的に考えて蓋を閉めるのは水が溢れないようにするためだ。水入りペットボトルに意義を持たせているのだから、同様の理由からと考えるのが妥当だろう。

 余談だが、我が家のペットボトルの蓋は猫パンチを浴びてよく行方不明になる。忘れた頃にうっかり踏んで足の裏にダメージを食らうので止めて頂きたい。


 話を戻して。

 ペットボトルの中身は当然水だと思われる。これは水以外では猫よけ論が成り立たないからだ。では、なぜ水なのか? 考えられるのは猫よけ論の鵜呑み、コスト面の手軽さだろうか。水道水ならば毎日取り替えたりしない限り安価で済む。小銭で猫と平和的にテリトリーを分けられるのならば、とりあえずやってみようという気持ちになりそうである。そう考えると水道を捻れば潤沢に水が手に入る日本ならではの現象なのかもしれない。

 余談だが、洗面所で顔を洗っていると気になるのか猫が洗面台の隅に乗ってくる。顔を上げたら ザ・猫っ! となり、心臓に悪いので止めて頂きたい。


 さて、このおそらく水道水を詰めた水入りペットボトルは日当たりの良い場所に置かれている。時間や天候に左右されるもののよく日が当たる場所に置かれている家庭が多い。日が当たると太陽光により水が乱反射してキラキラする。懐中電灯の上に水の入ったペットボトルを置くと部屋全体が明るくなるのと同じ理由だ。光らせることに意味があるのかもしれない。


 ここで猫の目についても考えてみよう。

 猫の目は光を集めるに適している。視力そのものは弱いもののわずかな光で物を捉えることができるのが猫の目だ。瞳孔をコントロールして光量を調節する能力で猫は下僕の五~七倍、暗闇でも物を捉えられる。詳細な構造は割愛するが一つだけ言わせて頂きたい。猫の目にはタペタムという反射板が備わっている。

 タペタム。声に出して読みたくなるこの可愛い響きはなんなのだろうか。

 ただでさえ愛らしい肉球や液体にもなれる体や表情豊かな尻尾と魅力が溢れているのに、目の中にまで可愛さを備えているだ。下僕が勝てる筈がないのも道理である。むしろ勝とうと思うことがおこがましいぐらいだ。


 理性を戻して。

 水入りのペットボトルと猫の愛くるしい目の構造を合わせて考えると、水入りのペットボトルが乱反射させた光を猫は嫌がる、という仮説が成り立つのではないだろうか。わずかな光で活動できる猫の目は逆に強い光には弱い。撮影する時にカメラのフラッシュやビデオカメラの稼働を示す赤いランプなどが厳禁と言われる所以だ。下僕でも突然フラッシュを焚かれたら拳が飛ぶ非礼を網膜障害を起こしかねない猫に行うなんて万死に値する行為だろう。同様に太陽光を乱反射させて猫を遠ざけるという観点で考えると、水入りのペットボトルを猫は嫌がる口コミが生じる可能性もゼロではない、と思えるかもしれない。


 さぁ、なんとかやり繰りして歩み寄って考えてみた。

 今ここで、水入りのペットボトルを猫が嫌がるか? と、聞かれたらどう答えるだろうか。答えは変わらない。否だ。

 なぜならば、水入りのペットボトルに凭れかかって寝ている猫が横にいるからである。


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