自己犠牲でカースト最底辺な俺、性悪アイドルに救われる。
さくっとお読みくださいませ。
平凡だった俺の高校生活はある日を境に地に落ちた。
きっかけは隣の席の女子生徒。
「おい、こいつ全く話さないんだけど? 口ついてる??」
「それな。せっかく話しかけてやってんのに、このインキャ無視しやがるんだけど」
「待て待て。こういうオンナこそ、夜はうるさいってもんだ。確かめようゼ?」
「ぷはっ。それアリだわ〜。検証しなくちゃな!」
隣の席の、栗田紗世は三人の男子にいじめられていた。
でも口をつぐんだままで、言い返す素振りもない。
それもそのはず。だって彼女は吃音症なのだから。
黒髪ボブの彼女は何か話そうとするも、男子グループの猛攻に終始たじろぐだけ。
周りのクラスメイトは無視していたが、俺はどうにも抑えきれなかった。
「なぁ、栗田さんはしゃべるのが得意じゃないんだ。そっとしてやらないか?」
けど、相手はクラスの一軍グループ。
クラスで三軍程度の俺の忠告を聞くはずもなく──
「は? 得意じゃねえからこそ鍛えてやろうとしてんの」
「それな。コミュ力ある俺らと話せば治るかもしんねえし」
聞く耳を持たないどころか、攻撃の対象は俺に変わる。
「てかさ、オマエ妙に庇いすぎじゃね? もしかして好きなのかよ」
「うわっ! ぜってえそうだわ。お~いみんな~! 湊のやつ、紗世のこと好きだってよ~!」
そして、千田湊は栗田紗世が好きという噂は瞬く間に広まった。
このままだと俺と栗田さんをカップル扱いする流れが生まれるだろう。
でもそれだと彼女に申し訳ない。
俺のせいで被害を増やしてしまうことになる。
そう思った俺は被害を収束させるべく、とっさに嘘をつく。
「待ってくれ。俺は確かに栗田さんのことが好きだったし、もう告白した。けど、フラれてる。終わったんだ」
俺がエサをまくと、待ってましたと言わんばかりに大量に食いついた。
「おもろ!! 湊のやつもうフラれたってよ!!!」
「そのくせして庇うとかガチで好きじゃん!」
「それな! もう終わった恋なのにばっかじゃねえの??」
そして、俺はその日を境に「未練たらたら男」と呼ばれ、バカにされるようになった。
一方、隣の席の栗田さんはずっと何か言おうとしていたが、会話することなく、気付けば席替えで離れ離れに。
まぁでもそれでよかったのかもな。
もともと友達が多いわけでもなく、大して充実していなかった日々。
大きな変化はない。ノーダメージ、ノーダメージ。
そんなことを考える休み時間、いやでもうるさい話し声が聞こえてくる。
「そういやさ、くりたまちゃんのライブチケット当たったんだけど、お前らいかね!?」
「まじ!?」
「いくいく!!」
くりたま、か。
彼女は四人組アイドルユニット『夢色タルト!』のエースであり、その愛らしくあざとい性格で人気を集めている。
以前、俺は心を癒そうとチケットを取ろうとしたが見事に落選した。
テレビに出るようになった今ではチケット入手はより困難だろう。
「はぁ……」
小さくため息を吐くと同時に、目の前の机に封筒が置かれる。
置いた主は栗田紗世。
「……?」
なんだろうか。
俺は誰にも悟られることなく、封筒の中身をのぞく。
するとそこには、俺の心を見透かしたかのように、『夢色タルト!』のライブチケットがあった。
教室を出た栗田さんを追いかけて真意を知りたい。
だが、俺が彼女と関わるのはタブーだ。
もし話しているのがバレれば、彼女の平穏をぶち壊れてしまうことになる。
……答えは|ライブ( そこ)に行かないとわからないということなのか?
戸惑ったものの、ライブに行かないという選択肢は思いつかなかった。
◇
初めてのアイドルコンサート当日。
劇場入り口で胸を躍らせていた俺だが、ひとつ懸念点があった。
そしてそれは残酷にも現実と化す。
「きたああ!! くりたまと会えるうううう!!」
「いや~俺わりとせつなちゃん推しだわ~」
「お前絶対グッズ買い込む気じゃん!」
俺をいじめている男子三人組だった。
最悪だな。
俺は彼らと距離を取りつつ、スタッフにチケットを見せる。
だが、どうにも様子がおかしい。
「……お客様、名前を確認してもよろしいでしょうか」
「えっと、千田湊です」
「ついてきてもらってよろしいでしょうか」
「え、?」
周りがざわつき始める。
それもそのはず。
普通はそのまま劇場に通されるのだが、俺だけスタッフオンリーの扉に通されたのだから。
進むこと一分。
俺はなぜかカラフルな衣装をまとった美女に囲まれていた。
え、この人たちって…………!?
「へぇ、キミがあの湊くん? はじめまして、夢色タルト!のピンクエース担当、くりたまだよ~っ!」
ピンクのポニーテールをゆらゆらと揺らしながら、彼女はからから笑った。
「は? え? ど、どうも。でもなんで……」
事態についていけない。
でも、ここから怒涛の自己紹介が押し寄せる。
「ちょっと! まだあたしたちの自己紹介の途中なんだけど! はい、グリーンリーダー担当、ひすいよ」
少し背の高い、緑のハーフアップ女子が怒りながら言った。
「はい次いくよ~。イエローエンジェル担当、みかえるちゃんです。よろしゅう~」
それに、レモン色の外ハネミディアム女子がはんなりと続き──
「……パープルミステルアス担当、せつな。以上」
無口な紫ツインテール少女が自己紹介を締めた。
ってやっぱこれ、ホンモノ!?
なんで『夢色タルト!』のメンバーが目の前にいるんだ?
夢じゃないよな?
現実か確かめようと頬をつねろうとする前に、くりたまがツンツンと俺の頬をつつく。
「湊くん、そんな間抜けな顔してていいの~? せっかくわたしたちがお出迎えしたのに~」
いやちっか。一瞬、彼女なんじゃないかと思ったわ。なんだ、この蠱惑的であざとい表情。くっそ可愛い。でもこれはきっと沼だ。
第六感が危機を伝える。
湊、このオンナはヤバいぞ、と。
本能に従うまま、俺はじりじりと後退りした。
「んぇーひどーいっ! ひすいぢゃぁぁん! 嫌われたよぅぅ」
嘘泣きしながら、くりたまはひすいの大きな胸に吸い込まれた。いいなー。
うぇんうぇんと泣き叫ぶなか、緑の美女、ひすいが感慨深く話し始める。
「あなた、あたしと同じ側ね」
「え?」
「くりたまの底を感じ取ったという点でね」
はて、何を言ってるのだろうか。
「みかえるちゃんが解説したげるね。えーと、つまり〜くりたまちゃんは表は愛想が良い天使でも、裏は粘着質な性格悪魔なんです〜」
そこまでは感じ取ってなかったけど、なんだか知ってはならない事実を聞いてしまった気がする。
「……くりは性格うんち」
「せつなちゃぁぁん、性格うんちはいいすぎだよぉぉぉっ!! せめておしっこに!」
いやそういう問題じゃないだろ。
ぷんぷんと怒るくりたまだが、その目は笑っていた。
「ま、でも、わたしは性格うんちだからこそ、湊くんをここに呼んだの。超VIP扱いまでしてね!」
「よくわからないんだが、つまり、俺を貶めよう的な?」
「むしろその逆だよっ!」
逆? てことは俺を喜ばせると?
でもそれだと性格はむしろいい方なんじゃ……?
他のメンバーに白い目を向けられながら、くりたまは快活に語る。
「わたし、妹を馬鹿にしたクズを許さないって決めてるんだ。だから、あの三人は今日来てるよね? そしてあたしの妹、紗世を救ってくれたヒーローの湊くんにも来てもらったの!」
「……驚いた。栗田紗世はくりたまの妹だったのか」
「うん、そだよ。紗世はあんまり話すのが上手くないよね。でも、それでも、わたしに必死に相談してくれた。だから応えようと思って」
応える、か。
どのように応えるのだろうか。
俺とあの三人をこの場に呼んでまで。
「えーとつまり、このライブで三人と俺に何かしようって魂胆なのか?」
「ご名答! さっすが湊くん。何するかは敢えて君に言わないけど、何か起きる覚悟はしててっ。大丈夫、あたしがぜ〜んぶリードするから」
うわ、なんというじゃじゃ馬。
俺としては平穏に過ごしたいんだけどなぁ。
「俺を巻き込まずにどうにかできないのか?」
「は〜いここでみかえるちゃんのアドバイス〜。くりたまちゃんは一度決めたことを覆さないのです〜」
「……みかの言う通り。こうなったくりは止められない」
「ほんっと世話が焼ける子よ。本当は公演で発散するようなことじゃないのに。私情を持ち込んで、もう!」
「いったい何が起きるんだ……?」
「ふっふっふ~! お楽しみ!」
むしろ不安なんですけど。
まもなくして、上演直前ということもあり、俺は最前列のVIP席に連れていかれる。
ちなみに去り際、ピンク色のペンライトだけ渡された。
これ、くりたまだけを応援しろってことか?
どうせなら四色全てくれればよかったのに。
そんなことを思っていると、薄暗かった会場は徐々に照らされ始め、可愛らしい曲が流れる。
そして、ステージ上に四人は現れた。
観客の熱狂が身を穿つ。
「すごいな……」
そう感嘆してしまうほど四人は輝いていた。
ダンスのキレが凄まじい、緑担当、ひすい。
優しい表情ながらも、力強く通った声を響かせる、黄色担当、みかえる。
無表情なのに、合間合間にすかさず手を振ったりとファンサービスを欠かさない、紫担当、せつな。
そして、圧倒的カリスマ性で皆を虜にするエース、くりたま。
歌、ダンスのクオリティはもちろん、それぞれの個性とバランスが全て嚙み合っている。
気づけば俺は魅了されていた。
一曲目が終わり、トークタイムに。
さきほど間近で聞いた自己紹介もほどほどに、アイドルとしてギリギリのトークが繰り広げられていた。
トークテーマは好きな異性のタイプ。
「みかえるちゃん的には天使みたいに優しい人がいいかな〜」
みかえるがパーフェクトな回答をするも、くりたまは眼光をきらりと輝かせて反論する。
「みかえる〜男の子の優しいは危ないんだよっ! わたし、知ってるもん! 男の子はやましいことのために己を偽れるんだって!」
「ちょ、くりたま、あたしたちアイドルなんだから夢見なきゃよ!」
リーダーのひすいがなんとかアイドルらしくあろうとするが──
「……でもくりの言うこと、一理ある。これは世の真理」
「ふぇ〜。みなさん手厳しいです〜っ! じゃ〜くりたまちゃんの好きなタイプはどうなんですかっ!」
涙ぐむみかえるに観客が笑う。
一方、聞かれたくりたまの方は真剣な面持ちで、コホンと咳をした。
「わたしは……やっぱりお金がある人が好きかな!!!」
くりたまは親指と人差し指で輪っかをつくり、悪い笑みを浮かべた。
「うわ〜最悪な答えじゃないですか〜!!!」
もちろん三人から猛ブーイングを受けるだけでなく、お客さんも冗談じみてブーイングを送る。
凄い一体感だ。
「も~みんな冗談だって!!!」
「……くり、本気の顔してた」
「そうよ。悪代官みたいなわる〜い笑み浮かべてたわ」
「むぅ。じゃーほんとのタイプ言ってやろうじゃあないか!」
なんだなんだーと食いつく観客たち。
実のところ、俺も少し気になっていた。
「好きなタイプ、それは──人のために自己犠牲を厭わない人、かな……!」
一瞬、会場がシーンとなる。
わざと生み出したであろう空気のなか、くりたまはゆっくりと本気で語る。
「みかえるちゃんの言ってた天使みたいな優しさを持った人。わたしもそんな人に出会いたい。でも、嘘ついてるかもしれない。自分をよく見せようとしてね。だからこそ、行動でその優しさが滲み出る人が好き。その行動って何かなって考えてたら、自己犠牲を厭わない人かなって。他人のために自分を犠牲にできる人、そんな強くて優しい人にわたしは惹かれる」
くりたまが俺の方を少し見た気がした。
話し終わった三秒後、静謐だった空間はくりたまコールで埋まる。
「「「くーりたま! くーりたま!」」」
ふざける時もあれば、真剣な時もある。
そんな無邪気で天真爛漫な姿に人々は惹かれるんだろう。
さすが天性のアイドルと呼ばれる逸材だ。
猛烈なコールに包まれるまま、会場が暗転。
二曲目が始まるようだったが、くりたまが叫んだ曲名は聞いたことのないものだった。
「それではきいてください! 自己犠牲症候群……!」
会場がざわつく。
それもそのはず、新曲だったのだから。
四人は哀切漂う表情で歌う。
歌詞は、自己犠牲でいじめの少女を救う男子にちなんだもの。
勇気ある行動を賞賛する一方、自分を大切にすることを忘れないでというメッセージがちりばめられていた。
この歌が俺に向けられたものなのか、それとも俺をきっかけに生まれただけの歌なのか、はたまた偶然似通っただけの歌だったのか、その真理は知りえない。
でもどうしてだろう。
あれほど、己の現状に悲しんでいない、これでよかった、別につらくない、そう思っていたのに。
なぜか俺は涙を流していた。
なぜか、ううん、俺は知っていた。どこか無理をして我慢していたからなんだと。
栗田紗世は確かに平穏な生活を送れている。
でも、代わりに負のバトンは俺に託された。
その誰にも渡せないバトンを、俺は高校生活でずっと握りしめなければならない。
覚悟はできている。
でも、辛くないわけがないのだ。
それを知ったようにくりたまは曲の最後のフレーズでこう言った。
『もし君が無理してるなら、わたしは全てを壊してでも君を救うよ。ほら、自己犠牲のバトンを渡して』
哀愁ただようままに曲が終わり、明転とともにくりたまが話し始める。
「みなさん、新曲はどうでしたか! 神曲だと思う人~!」
静かだった観客は再び熱狂を取り戻す。
「おお! だよねだよねぇ! でも、この歌、実話なんだよね。身近な出来事をモチーフにわたしが作詞作曲したんだ~。わたしはこの勇敢で切ない少年が好き。みんなにも知ってもらおうと思って!」
そう言ってくりたまは俺のほうを見てウインクした。
おい、こっち見るな。不自然すぎる。
心中ツッコみつつも、俺は心臓がバクバクしていた。
まるで告白のようなセリフに冷静でいられるわけがない。
しかし、くりたまは俺をしっかりたしなめるように付け加える。
「あ、でも、好きって言っても恋愛的な意味じゃないからみんな安心してね~!」
「あんた勝手にその少年フッてるの残酷よね……」
「……くりはせつなの。誰にも渡さない」
「せつなちゃんが闘志燃やしてます~!」
こうして少し真面目だった雰囲気はいつもの笑劇へと変えられた。
くりたまが俺と三人を連れてきた理由、それはこの新曲が狙いだったのか?
新曲の歌詞で間接的に三人を非難し、俺に感謝を伝える。
こんなところか。
そう思っていた俺だが、くりたまはせつなが「性格うんち」と表すほどだ。
この程度ではすむはずがなかった。
「じゃ~新曲発表の恒例といきますか!!」
恒例……?
「知らない人のためにあたしが説明するわね。ランダムで当てたお客さんに新曲の感想を教えてもらおうというものよ。覚悟するように」
覚悟、か。
「ひすいちゃん、こわいですよ~」
「……ひすい、言論弾圧はダメ」
「それじゃ~わたしがあてようかね~ !」
そう言って、あてられたのは──
「三列目の少しちゃらめの三人組の方、三人とも聞いちゃおうかな~!」
観客の視線が、いじめっこに向けられる。
三人は竦みあがり、気まずそうにしていた。
そりゃ、嫌だろう。
歌詞に出てくるいじめっこは正真正銘、彼らのことなのだから。
「…………えーと、いい歌だなーって思いましたね」
「…………自分もそんな感じです」
「…………俺もっす」
くりたまはニコニコしながら聞き返す。
「ありゃ、なんてシンプルな感想! じゃ~詳しく聞こうかな~!」
こいつ、ドSだな。
「歌詞のいじめっ子についてどう思う~???」
「……よくないなって思いますね、それは」
「えーと、あの歌でいじめが減ればなって感じです」
「……ああはなりたくないっすね」
「だよねだよね! もちろん、キミたちはいじめなんてしないよね……? 」
圧。
ゆっくりと紡がれた言葉ひとつひとつが彼らに刺さる。
本来くりたまと会話できる夢の機会のはずが、 公開処刑のように彼らを攻撃していた。
執拗なまでの圧に耐えきれなかったのか、ひとりが述懐し始める。
「……もしかしたら、俺たちもいじめしてたかもっす」
「ほ~う。それはいくないねぇ? さっきはいじめしてない側の意見だったのにおかしいなぁ」
「や、なんていうか、いい子ぶってたっていうか」
「おい! なんで言うんだよ」
「仕方ねえじゃん。もう楽になりてえって」
「つってもこんな大勢のまえでいうことじゃねーだろ」
「喧嘩すんなって」
仲間割れか。無様だな。
俺だけでなく、観客の冷たい目線が集中する。
ところどころで悪口も飛び交うようになり、ようやくひすいがストップをかける。
「はーいはい。お客さんのみなさんもこの子たちの悪口は言わないであげて」
「「「は~い!」」」
軍隊のように揃った返事で、場はようやく鎮まった。
せつなが次のお客さんと対話するなか、三人は窮屈そうにしている。
陰口におびえる姿はまるでいじめられっ子だ。
くりたまと目が合ったので、俺は小さくお辞儀した。
ありがとな。
くりたまはうまく成敗してくれた。
俺としても心底スカッとした。
だがきっと彼らは変わらない。
いじめは高校生活が終わるまで続くだろう。
でも、彼女なりの、性格が悪いやり方だったが、俺なんかのためにここまで画策してくれたことが嬉しかった。
感謝を噛みしめていると、くりたまが次の客を指す。
「えーと、そこの、一列目の全身黒のお兄さん! 感想を聞きたいと思いま~すっ!」
って、俺かよ。
「あ、はい」
「どうでしたか~自己犠牲症候群は!」
「控えめに言って最高でした」
「お~作曲作詞した身としては嬉しい限りですな~! 歌詞の主人公についてはどう?」
「孤独な彼にとっては、かけがえのない宝物だと思います。この歌があるだけで、報われるんじゃないでしょうか」
「本人がこの曲聞いてくれたらいいんだけどね~? でも、夢色タルト!アンチかもしれないし、だったら最悪だ!!!」
「きっと、いや、絶対ファンですよ。それでこの歌を聞いて彼は泣くんです」
「……そんなサイコーな展開になったらいいねぇ。感想ありがと!」
くりたまはサイコーな笑顔を振りまいていた。
心の底から喜んでいるような純真な笑み。
性格うんちだけど、やっぱいいやつだよな、あいつ。
その後、公演の三時間はあっという間だった。
気づけば、柄にもなくピンクのペンライトを振る自分がいた。
あーあ沼にはまってるな、俺。
公演後、壮絶な物販の列に心が折れ、帰路に就くことにした。
だが──
「千田湊さんですよね?」
「あ、はい」
さっきのスタッフが俺に何の用だ?
「こちらへどうぞ」
通されたのは控室。
もちろん、彼女たちはいた。
「ふ~ ! どうだった? 湊くん」
汗をタオルでふき取りながら、くりたまは笑った。
「どうって、サイコーな曲だったぞ」
「そりゃ~わたしがつくったんだからサイコーに決まってるじゃん!」
「あ、ですよね」
「じゃなくて、あいつらの無様な姿はどうだったって聞いてるの~」
うわ、恐ろしいやつだな。
「正直、すっきりした」
「よかった~! でもひすいちゃんが途中で止めるもんだからな~。もっと激しくいきたかったのに」
「あんた、あれ以上はダメに決まってるじゃない。今度はこっちが非難されてしまうわ」
「え~いいじゃんいいじゃん~! アンチもエネルギーにしてこうよ~!」
そう言って、くりたまはふくれっ面で着替えに行った。
「大変だな」
「そうね。けど 、あの子がいなかったらあたしたちはアイドルをやめてた。だから感謝しかないわよ」
「え?」
「は~い! 再びみかえるちゃんが説明します~! 実は、ひすいちゃんも、せつなちゃんも、みかえるちゃんも、み~んな売れないアイドルだったんです~ 。み~んな違うグループ所属で、共通して周りの向上心がなくって、くすぶってたんです~! そこを禁断の引き抜きまでして結成されたのが夢色タルト!なんです~!」
「そうだったのか。でも、引き抜かれた側はたまったもんじゃないな」
「……湊、それは違う。アイドルはいくらでも替えがきく。事務所は行きたいなら行けばってスタンス。人気ないと雑な扱い」
「そうよ、残念ながら、引き留められることはなかったわ。有名になった今ではさぞ悔しがってるでしょうけど」
「なるほどな。そうなるとくりたまは三人にとって救世主なのか」
「そうなるわね」
「そうです~!」
「……大正解」
「満場一致か。すごいな」
まさにすごいの一言だ。
だって俺まで救ってしまうのだから。
「じゃあ俺はここらで帰るよ」
「帰ってもいいけれど、ひとつだけ伝えておくわ。あなた含めた五人で夕飯食べるって企画してたピンクのおばかさんがいたものだから」
「そのおばかさんに言っといてくれ。今度、握手会で感謝を言いに行くから待っててなって」
「…………分かったわ。それでは」
「じゃあな。また見に来るよ」
「また会えることを楽しみにしてます~!」
「……湊、グッバイ」
ファンとしても夕飯なんて行けたら最高なプレゼントだ。
でも、もうプレゼントはたくさん受け取った。
だから俺はいちファンとして、距離を取って彼女たちと接する。
くりたまの好意に付け込んで近づきすぎるのは、ある種の越権行為だ。
「あ~もったいないことしたなぁ」
帰り道、少し後悔したのは秘密である。
◇
「それではホームルームはじめるぞ~」
翌日、俺にとっては少し静かな日常だった。
というのも、いつもは馬鹿にしてくる三人が鳴りを潜めていたのだ。
謝罪することはなかったが、でもどこか関わりたくないという空気が伝わってくる。
そりゃそうか。
三人は昨日のライブに俺がいたことも知っている。
つまりあの新曲は完全に俺と、こいつら三人をモチーフにしているわけで。
さぞ気味が悪いことだろう。
「では、転校生の紹介をする。はいってきたまえ」
先生の話そっちのけで思案していたせいで、俺は転校生がいることに遅れて気付いた。
さてどんな子が来るのだろうか。
教室に入ってきたのは、ピンクのポニーテールでニコニコと天使みたいなスマイルを湛える女子生徒。
「転校してきました! 栗田まひろです! くりたまって呼んでね~!!!」
「は?」
なんでこいつがうちのクラスに……!?
昨日の劇場以上の熱狂が教室に響き渡るなか、俺はみかえるのある一言を思い出す。
『くりたまは粘着質で性格悪魔』
なるほど。粘着質だからこそ三人と俺の様子を見に来たってことか。
これまたかなり前から計画してたんだろう。
あーあ、次は握手会だと思ってたのに、教室で再会するとはな。
昨日カッコつけた伝言がばかみたいだ。
喧騒が鳴りやまぬなか、くりたまは以前のライブみたいに俺を見てウインクした。
だから不自然だっての。めちゃくちゃ可愛いし、心臓バクバクしてるけども。
実は今後、栗田紗世が『夢色タルト!』の五人目として参戦したり、くりたまが俺の恋人と噂されたりするが、それはまた別の話。
日常は静かになるどころか、よりいっそう激しくなることを俺はまだ知らないのだった。
少しでもいいなと思っていただけたら、評価☆☆☆☆☆のほどよろしくお願いいたします~!




