第46幕 神殺し
身体が異様に重い。何かに憑かれたみたいだ・・・
なんとかしないとまともに戦えやしない。
神殺しを持っているから月奈は大丈夫だろう。そう思っていた。だがそんな予想とは裏腹に1番影響を受けているのは月奈だった
「うっ・・・ごめん・・・将鷹。こっち向かないで・・・こんなの見せたくない・・・」
異様なまでに気分が悪そうで今にも中身を吐き出しそうな状態だ。我輩は言われた通り月奈から目を逸らし虎織を見る。まだ大丈夫そうだが少ししんどそうだ。1番我輩が影響を受けていない、そんな状態だ。何か打開策をと考えるまでもなかった。あるじゃないかちょうどいいものが
我輩は指輪に魔力を込めて何かを振り払う様に手を振るう。多少は肩が軽くなり頭痛も引いてきた。十の願い事の力でこの場の幽霊達はまともに動けはしないだろう。ただまだ月奈や虎織にくっついている奴らは動けるだろう
「無理矢理ここのモノ達を抑えつけましたか・・・随分と恐ろしい逸品ですね」
男は感嘆の表情を浮かべながら鎌を持ちこちらに向かってくる
「そうだな!」
刀を振り抜き乱雑に風の刃を飛ばす。さっきのような威力は出ないが牽制には十分だ。狙い通り男は足を止め風の刃を避けてくれる。
我輩はそのうちに神殺しで自らの身体を支えて、目が虚ろになっている月奈の元へ向かい魔力を込めて月奈の肩に触れる
「ひゃっ・・・!?」
「うぇ!?」
月奈が驚いたような声を出した為我輩も驚いて声が出た。みっともない限りだ
「身体、軽くなった・・・?将鷹が祓ってくれたの?」
「一応な」
「ありがとう・・・それと・・・やっぱり今はごめん。後で言わせて・・・」
「うん。後でな」
月奈が立ち上がるのを見てから我輩は虎織の方へと走る
「この状況でも人助けとは・・・呆れを通り越して拍手を贈りたくなりますね!」
後ろから何かが風を切って飛んでくる音がした。振り返った所で迎撃は不可、下手に避けると致命傷になりかねない。ならば取れる選択肢は1つ。その攻撃を受けることだ
「っ・・・!」
右腕に鋭い痛みが走る。何かが刺さった様だ。だが幸いにも傷はまだ浅い。これで今どうこうなる訳では無いし耐えられない程痛い訳じゃない。
刺さった物はただのナイフだった。それを引き抜き眼で確認をする。毒なども多分塗っていないし牽制用の投げナイフという感じだな。
この程度気にしていられるものか。血を流しながら走り手の様な何かが絡まってその場から動けなくなっている虎織の肩を叩く
「ありがとう。身体軽くなったよ。って怪我してる・・・大丈夫?」
「これくらいは平気だ。それよりも今はアイツを倒さないとだ」
男は何か思いついたと言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべ地面に手をつけている。ゴーレムクラフトか・・・!
「さぁ!器は用意してあげましょう。好きにお入りください!」
地面にひし形の魔術式が浮かぶ
「月奈!魔術式を潰せるか!?」
さっき引き抜いたナイフを魔術式目掛け投げながら月奈に問う
「この距離じゃ無理かな・・・」
弱々しく、悔しそうに月奈は答える
「そうか、なら!」
投げたナイフを目指し走る。ナイフに追いつく事は多分無理だ。刀の柄に手をかけながらナイフを追いかけ魔術式の起動を確認する。
地鳴りと共に地面から土の人形が飛び出し我輩の道を閉ざす
「邪魔!椿流、寅の番、虎月狂乱!」
手をかけていた虎徹を振り抜きながら邪魔な土人形を斬り伏せる。走りながらできる限りの斬撃を加えてから風切を抜刀してから虎徹を鞘に納める
「私がここを切り拓くよ!椿流、結の太刀!風迅烈刃!」
虎織が地面を強く踏み込み我輩の前へと出て鋭い暴風を纏った刃を横薙ぎに振るう。近くの木を薙ぎ倒しながら人形達を粉々にしていく
「ありがと!助かった!」
我輩は軽く礼を言って足を止めることなく男の立つ場所、トンネルの上を目指し大きく跳ぶ
「空中は身動きが取りにくいですよね!これで終わりです!」
ひし形の独特な魔術式を展開しながら男は言う。展開された魔術式からは大量の岩粒が飛び出してこちらへ向かってくる。これはちょっとまずいな・・・
「将鷹!そのまま駆け上がれ!」
「ちょっと揺れるかもしれないけど走りなさい!」
響いたのは桜花さんとローズさんの声だった。その声と共に目の前から竹と木が地面から生えてくる。我輩はその木を足場に空まで駆け上がって行く。さっき飛んできていた岩粒は木や竹にぶつかり砕けたり地面に落ちたりする
木を駆け上がり空から男へと狙いを定め飛び降りる
あと数メートルで男に刃が届く。不死ゆえにこれは致命傷にはならない攻撃かもしれない。だが無意味ではない
「くっ・・・!何人来ようとワタシは負けはしません!来なさい!岩の巨人よ!この場の彷徨える魂よ!生を求めると言うならばこの魔術式に集まるが良い!」
身の毛がよだつ様な気持ちの悪い風が男の展開した魔術式へと吸い込まれるように吹き荒ぶ。寒気と共に強烈な吐き気が襲ってくる
「童!姿勢そのままで待ってろ!」
トンと肩に白狐が乗る。すると青い炎が我輩の周りを舞い始め風がピタリと止む。
不思議と身体が軽くなり吐き気も無くなった。この感じ・・・宇迦様と同じ・・・
「宇迦から力の端を借り受けている!安心してこのまま突き進め!」
「おう!」
巨大な岩の塊が目の前へと迫る。我輩は気にせずに降下を続ける。そして数秒しない間に轟音が鳴り響き土煙が視界を奪う。確かなことは目の前に迫っていた岩の塊が消え失せた事だ
「ここは任せろ」
ヴァンさんの声だった。視界が悪い中ヴァンさんと思われる影が拳を突き出していた
「任せました。ご武運を」
突き出された拳に拳を軽く当てる。土煙を抜け男が鎌を構えているのを確認する
「その手をかけている刀ではこの間合いは戦いにくいでしょう!」
「そうだな。この鞘に収まっているのがさっきまでの刀ならな・・・!」
着地と同時に刀を振り抜き一太刀浴びせる
「なにっ!?その上の鞘には大太刀が収まっていたはず!?」
「程よく観察してくれてて助かったよ。お前がもし何も見ていなかったらこの技は成立どころか意味さえ無かっただろうな」
「なるほど・・・!はっはっはっはっ!その為の鞘とあの時の一瞬の二刀流もどきと!これは恐れ入った・・・!」
男の言葉を気にせず逆袈裟、横薙ぎを繰り出し赤紫色の小さな球体が露出させた
「月奈!」
我輩の声に呼応するように月奈を抱えた雪が空からふわりと、名の如く舞い降りる
「さっすがアリサの直感、タイミングバッチリだね。ささ、月奈、あとは任せるよ」
「うん!任せて!我が槍は万物に平等に裁きを与える物!結び、繋ぎ、切り離せ!神葬、終の槍!」
月奈の神殺しの槍が赤紫色の球体へと突き刺さる
「あとひと押しなのに・・・」
力が抜けているのかそれ以上槍が突き刺さる事は無かった。これはまずいぞ・・・!
「非常に惜しい!ですがさらばです!」
男が身体を大きく振るう。その衝撃で月奈が吹き飛ばされたが神殺しは突き刺さったままだ
「僕が助けるから将鷹はアイツを!」
「わかった!白狐!力を貸してくれ!」
「おうよ!我が名は白狐!宇迦之御魂神の眷属にして神たる1柱!この者に神をも屠る力を」
青い炎が足を覆う。その足で神殺しの槍の石突を思いっきり蹴る
「蹴り穿つ!」
槍は深く突き刺さる
「あぁ、これで人でないワタシから解放される・・・最後に神の力を使ったとはいえこれが貴方達人間の底力・・・ははっ」
男は灰となり風に流され消えていった。負けたのに満足そうに笑いやがって・・・
足に灯る青い炎が揺らぐと共に目を開けられないほどの明るさが顔を出す。日の出か・・・随分と長い間戦ってたみたいだな
「綺麗だね」
「そうだな」
気づけばみんなトンネルの上に立っていた。にしてもまた肩が重くなって来たな・・・
指輪に魔力を込めてもう一度振り払い我輩達は帰路へとついたのだった




