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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第44幕 信念

「月奈、待たせたな」

「予想より随分と早いね。もっとかかるかと思ってたけど」


弾き飛ばされたのか月奈が地面に靴と手を擦りながら滑るように退って来る


「そっちは思いのほか苦戦してるみたいだな」

「誰かさんがアイツの迷いを一切合切振り切っちゃったからね」

「なるほどな。じゃあ責任持ってやらないとな」


月奈でも手こずる様な相手に自らの実力が通用するのだろうか。そんな後ろ向きな考えは捨て刀を強く握り締める


「2人とも力を貸してくれるか?」

「もちろん!」


虎織が即答する


「いいよ。でももうこれは使えないからね」


バサバサと静電気で毛羽立っていた月奈の髪の毛がふわりと元に戻りバチバチと音を立てていた雷は消え失せた


「おっと・・・」


月奈がふらりと倒れそうになるのを受け止め虎織に月奈の身体を預ける。神域へと踏み入れたが故の疲れ、それと魔力の消耗だろう。しばらくは動けないだろうな・・・


「虎織、頼んだ」


虎織はこくりと頷き後ろへと下がる


「もういいですか?そろそろ始めましょう」


男の声がした。どうやら律儀に待っていてくれたようだ。そんな事など気にしなくてもいいというのに


「あぁ、待たせて悪かった。不死だろうがなんだろうがぶっ倒してやるよ」

「ならばワタシは全力で貴方をねじ伏せ華姫を我が物としてみせましょう」

「我輩を倒した所で華姫は手に入らねぇよ!」


地面を強く蹴り弾丸の如く真っ直ぐ飛び出し左手に持った刀を右の袖で隠す。肩の動きで行動はバレるが狙いは刀身を隠すことでは無い


「真っ直ぐ突き進むその姿勢は良し!ですがそのようなものではワタシは倒せませんよ!」


今はアイツの持つ鎌がきっちりと見える。その刃が我輩目掛けて右側から鋭く振り下ろされる。普通ならそのまま斬られているかもしれない。鎖を腕に巻き付け鎌の一撃を腕で受け振り払う


「あの時とは違い鎖で弾きましたか」

「今回は護る対象が居ないんでね」


右の袖で刀身を隠していたのは奇襲の為じゃない。右側から来る刃物への対応をする為のものだ。魔術式を展開して鎖を1本取り出し引き摺りながら男へと斬り掛かる。一太刀で左腕を斬り落とし、男が再び鎌を振る為に腕を上げた瞬間に男の足に鎖を括り付けバランスを崩させて崩れた瞬間に右腕を斬り落とす


「やはりそう来ましたか!ですがその程度ならば貴方には死あるのみ」


斬り落とした右腕が我輩の首を掴む。喉が潰れる程の怪力に息が出来なくなり意識が遠のく・・・




「やっぱり俺の出番か」


影朧が足音もなく近寄ってくる。コイツに任せるのが手っ取り早い。・・・でもそれはあの男との勝負に水を差す様な行為だ


「だから黙って死ぬのを待つ気か?苦しいだろ?痛いだろ?俺が表に出ればそんなもん感じなくて済む」

「あの男は人が倒さないといけないんだ・・・」


そう、あの男は人から外れたが故に人に倒されたがっている。自分の信じた人の可能性を見たいのだ。人々を連れ去って殺さず地面で監禁していたのも人の可能性が見たかったから、殺して糧にすれば華姫を落とすなんて簡単なはずだ


「てめぇが相手の事考えて大切な奴らが死んだらどうする!?人だどうこう言うよりも周りを見やがれ!現状の打開策はあんのか!?」

「ない。でも・・・」

「でもなんだ!?ハッキリ言いやがれ!」

「我輩は敵であってもあの男の意志を、立派な志しを肯定したい!だから・・・影朧にはじっとしていて欲しい!」

「ならさっさと戻りやがれ。一刻の猶予もないぞ」


影朧は少し笑っている様に見えた。我輩の意識は現へと

戻り苦しさと痛みが襲ってくる


「気を失ったかと思いましたが目が覚めましたか。そのままなら楽に逝けたものを」


力の入らない腕を上げる。思ったよりも力が入っていない・・・今我輩の首を掴んでいる腕を精一杯の力で握り締める


「随分と弱々しい・・・まるで赤子の様で最初の意気揚々としていた姿は見る影もない・・・非常に可哀想ですね」


何を言われようが構うものか。手のひらに魔術式を展開して魔力を込める


破裂音と共に首や身体に鋭い痛みが走る。皮膚が切れて血が流れているのが分かる。だが首を締め付けていた痛みと息苦しさは消えている。どうやら賭けには勝てた


「風の魔術式でワタシの腕を風船のように破裂させるとは・・・死ぬよりはマシとはいえ無茶な手を・・・」


早めに手当てしないと失血死が有り得るな。でも現状手当なんて出来るわけないし。

・・・あれ?身体の方は治ってる・・・?なんで?


長襦袢をズラして身体を見ると包帯が巻いてあった。巻いた覚えのない魔術式の刻まれた若干血に濡れた包帯、蓮が倒れている間に巻いてくれていたのだろう。おかげでまだまだ戦えそうだ


「風切と短刀が手元にないのはキツイけど十分戦える。あとは決め手だけだ・・・」


我輩がそう呟くと後ろから何かが飛んで来て目の前で地面に刺さる。

それは木製の鞘に収まった風切と同じ長さの空の鞘だった

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