第41幕 奥の手
不死は分裂した身体でジリジリとこちらに詰め寄って来る。あーだこーだ考えるよりも全部ぶっ飛ばした方が手っ取り早い。使いたくは無いが仕方ない
「月奈、アレかけてもらえるか?」
使いたくない最後の手段は月奈に魔術をかけてもらうという至ってシンプルなものだ
「主治医、無茶したいらしいけど良いかな?」
月奈は蓮に向かって言う。蓮の事だこの状況なら許可してくれるだろう
「分かった。ここは吉音を信じて俺の患者の身を預ける」
「ちょっと待って。将鷹がやろうとしてるのって雷のアレだよね・・・?」
虎織が蓮の許可に待ったをかける
「私は反対だよ!あんなの危ないし、何より将鷹が神域に近づいちゃうんだよ!?ダメだよ!前使った時なんて2日間帰って来れなかったのに・・・!なんで2人とも平気な顔してられるの!?」
必死に、我輩の袖を子供の様に掴んで虎織は離さない。前使った時は随分と心配をかけた訳だし・・・だが今回は我輩の安全第一でやってもらうつもりだから害は殆ど無いはずだ
「そうだな。雪城の言い分は最もだ。でもこれはこいつが言い出した打開策だ。なにか考えが有るんだろ?」
「まぁな。前は電圧強すぎてありとあらゆるリミッター外れてたから今回は加減してかけてもらうつもりだ」
「ん?加減できないよ?」
月奈は何言ってんだコイツはみたいな顔をしながら首を傾げそう言う
「ごめん。やっぱりどうにかして皆でこの窮地を乗り越えよう」
我輩は回転式拳銃のシリンダーの空薬莢を取り出し新しい物に詰め直してから短刀を強く握る
「ま、まぁ考えの前提が間違ってたなら仕方ない・・・な・・・ぶふっ・・・」
蓮は笑いが堪えきれておらず顔を逸らしていた
「いやもう笑うなら盛大に笑えよ!」
我輩も笑いながら蓮にツッコミを入れる。こんな危機的状態でも我輩達らしく居られるのはまだまだ余裕があるという事に違いない。会話の最中バシバシと地面を叩く液状の腕を避けながら会話を続ける
「無茶は絶対許さないからね・・・!」
虎織は我輩の袖を強く掴みながら背伸びをしてデコピンを1発額にくれた
「痛った!もう少し手心というか・・・でもありがとうな」
「約束したからね。殴ってでも止めるって」
「そうだな。それじゃあ頑張ってあいつ倒すか・・・!」
「うん!」
「月奈は朝のあの魔術式の準備を頼む!」
「了解!色々と改変するから時間稼ぎよろしくね!」
「了解した!蓮は月奈の警護を」
「分かった、切り替え早くてもう・・・笑えて仕方ないっての・・・」
相変わらず笑う蓮。だが片手に鉄扇を持って臨戦態勢にはなっている
「虎織、行くぞ!」
「うん、行こう!」
2人して真逆の方へと走る。2人で同じ個体を叩いても後ろから迫ってくる奴らに月奈が攻撃されてしまう。なら2手に別れて倒していく方が楽だろう。
迫り来る腕を避ける。懐に入ったところで
「いち!にっ!」
手に持った銃も短刀も気にせず右ストレート、左ストレートの順に不死に叩き込んで行く。殴った感じは片栗粉と水を混ぜた物をぶん殴っている様な感覚だった
「せぇぇぇい!」
最後に回し蹴りを1発。これもさっきと同じ感覚だ。
吹っ飛ばしはしたが根本的解決にはなっていないしまだまだあの不死の分身は攻撃しながら寄ってくる。
我輩は腰を落とすと同時に地面を強く踏み付け、拳を腰で構え全体重を乗せ踏み込み、拳を真正面に放つ。
何かが弾ける音と共に拳が不死の身体の1つを貫く。
拳がヒリヒリと痛み熱を持つ
「ほう・・・?女でも容赦無しとは・・・貴方、DV男なのでは?」
不死はそう言って地面に割れた水風船の中身の如く崩れ落ちた。何故か今日は朝からDV疑惑をかけられているがそんなことは無い。少々怒りを覚えるが気にしても仕方ない
「中身は男だろうが!」
ツッコミを入れながら短刀を逆手に持ち地面に片手をつけて態勢を獣の如く低くし不死の身体の1つ目掛けて勢いよく飛び出す。
不死もこれ以上身体を潰されたくないのか横薙に液状化した腕をムチのように振るう。
加速がつきすぎて迎撃は不可、なら避ける他ない。空へと跳び落下と共に不死を斬りつけ、着地の衝撃を緩和する為にしゃがんだついでに足払いをして体勢を崩す
足払いをした瞬間に銃の撃鉄を起こす
「壊せ!」
いつもより声を張り、言霊を乗せ、引き金に指をかける。立ち上がる時に倒れた不死を撃ち抜き虎織に声をかける
「虎織!虎徹!」
「分かった!」
虎織の居る方から虎徹が宙を舞いながらこちらに向かって来る。それを鎖で繋ぎ引き寄せながら鎖ごと虎徹を大きく振るう
「こんな使い方したら雪に怒られるな・・・」
遠心力と虎徹の打撃性能が相まって凄い音をたてながら不死を叩き潰して行く
「そうだね、僕は今ちょーっと不機嫌だよ」
遠くから雪の声がした。あの距離で我輩の声聞こえるってやばくないか・・・?
魔術式を刻んだ物を身につけているのだろうか?
「だからこれはちょっとした八つ当たり」
気付けば雪が我輩の近くに居て、刀を鞘に戻そうとしていた
「椿流、辰の番、狩龍天静・・・だっけ?」
「そうだな・・・っていや、なんでできるんだよそれ・・・」
「やってみたらできただけだよ」
雪が刀を完全に鞘に仕舞うと不死達は地面へと崩れ落ちる。ここまで再現されると苦労して覚えた我輩達が霞んで見えるな・・・
「さ、ここからは僕とアリサもこの場で仕事するよ」
「てことは向こうは片付いたのか」
「ゴーレムは自壊、人質は救助完了。後はこいつの本体を倒すだけだよ」
「本体?」
これが本体ではないのか?いや、分裂しているから本体と呼ぶには相応しくはないんだけど
「まぁ月奈のアレが発動すれば分かるんじゃないかなー」
今気づいたが向こうでアリサが手を振っていた。・・・十二本刀の制服着てるじゃん。雪のか?大きさ的には似てるけど、雪の制服にされていたアレンジがない。
まぁ今はそれはどうでもいいか
「皆、時間稼ぎありがとう。準備できたよ」
月奈はそう言って槍の石突で地面を叩き魔術式を展開する。朝よりも範囲が広く効果が強いように感じる
「この式の中では私が絶対。まずは姿を表してもらおうか」
月奈の声で地面が盛り上がる。地面から出てきたのは醜く焼け爛れたような皮膚をした人間モドキだった




