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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第7幕 夢と地獄と現の狭間

どれくらい歩いたのだろうか?


見渡す限り焼け焦げた死体ばかりだ。

中身がこぼれているモノ、腕や脚が吹き飛び、そこら辺に転がるモノ、水に浮いているモノ、そも、五体満足原型を留めているモノなどここにはなかった。


正しく地獄と言うに相応しい場所である。時折死んだはずのモノ達の声が聴こえてきて気分が悪い。


岩陰に何かが居る。

この風すらも死んだ場所で何かが走りだした。咄嗟に我輩も後を追う。


灰色の髪、虎織にしてはやけに短くゴワゴワとしている。服装は和装に片袖の羽織に袴、まるで会議等で出掛ける我輩のような服装だ。背丈や体格からして男と思われる。


灰色の髪のモノは立ち止まる。だが走っているはずなのに一向に距離が縮まらない。


「お前はここに居るべきじゃない。さっさと帰るぞ。お前の大好きな人間が心配している」


灰色の髪のモノは聞き覚えのある声でそう言った。どこでこの声を聞いたのか思い出せない。


「ほら、ついてこい。(うつつ)までの案内はしてやる」


そういうと彼はまた走りだした。信用していいのだろうか?

一瞬考えたがここは信用する他ない。

結局ここをさまよっても得るものは気持ちの悪い視覚情報と時折聞こえる死の間際の声だけだ。

彼の背を追って走り出す。


走っている最中、足元に転がっている手に捕まれかけたが気にしている余裕などはない。


いくらか走ると海のような場所が眼前に広がる。


「さて、ここがこの地獄と夢の境界線、とは言い難いがここの最果てだ。地図では本来ならこの土地自体が海の底だがな。」


海に足をつけゆっくりと水へと浸かっていく。

しばらくすると(まぶた)が重くなり目を(つむ)ってしまう。


「おかえり。あとは一度、目を開けてもう一度目を閉じれば現だ」


目を開けると暗闇が広がっていた。

深く、黒く、どこまでも吸い込まれそうな黒。下を見ると水の上に立っている。水面には我輩では無い黒いフードの男が写っていた。


「俺は今、お前からはきっちり認識できない。だが、近いうちにきっとお前と俺はここで話をすることになるだろう。」


彼の言葉を聞いて目を閉じる



「あっ、目が覚めた?」


灰色の長い髪、その灰色を際立たせる蒼い髪留め、琥珀色の綺麗な瞳、安心するこの声。虎織だ。


「あれ・・・山にいた気がするんだけど・・・」


天井がある。しかも見知らぬ天井では無い、たまに見る天井だ。少し瞼が重い・・・もう一度目を閉じてしまう。


「あの後倒れちゃったから神社まで運んで来たんだよ。全く、炎の魔術は先生から使うなって言われてるでしょ?」

「あれしかないと思ったんだよ」

「バカ。無茶するのは良くない癖だよ、ほんとに・・・心配したんだから・・・」


冷たい水が我輩の頬を伝う。目を開けると虎織が涙を流していた。


「ごめんな」

「倒れてすぐに(うな)され始めてたけど大丈夫なの・・・?」

「心配かけたな。もう大丈夫だから。」


少し頭が冴えてきたのか地べたに寝かされているにしては頭が高い。というか枕でも敷いているのかのように柔らかく暖かい。そして虎織の顔がすぐ近くに見える。


これは膝枕なのでは?えっ?マジで?好きな人に膝枕されてるとか最高じゃない?


ふと、そう思った自分を恥じる。心配かけておいてこれはないわ。頭が寝惚けているのなら図々しくもう一度眠っていただろうが・・・

頭を上げようとすると暖かい手が頭に触れる。


「もう少しこのまま」

「虎織がそう言うなら・・・」


ウトウトと微睡み始めた頃にピシャリと障子(しょうじ)が開く


「将鷹さん大丈夫ですか!」


黒髪メガネの巫女さんが勢いよく駆け寄ってくる。


「大丈夫ですよ」

「良かった・・・無理しちゃダメですからね!」


肩を持たれ起こされ前後に揺らされる


「善 処 し ま す」


多分途切れ途切れで言葉を繋いでしまったが問題ないだろう


久那(くな)さん。そのぐわんぐわん揺らすのはやめてあげてください・・・一応さっき起きたばっかりなので」

「あっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」


この黒髪の巫女さんは砂彦(すなびこ)久那(くな)さん。我輩達が子供の頃からよく行く神社で巫女さんをやっている人だ。記憶にある頃から姿が全く変わっていないのが不思議で仕方ない。


「あっ、そういえば薬師寺の蓮さんとナンパ男と久野宮さんが居らしてますよ」

「ナンパ男って禍築ですか・・・」

「えぇ!」


たまにこの人は笑顔で毒を吐く。それにしても久野宮の爺さんが来ているとは珍しい



「おぉー起きたか小童。随分と派手にやって倒れたらしいな」


白髪のお爺さんというのは失礼か。初老と表現すればいいのだろうか、華姫において英雄視されている久野宮(くのみや)竜吉(たつきち)さんが四角いテーブルで黒い牌を構えて座っている


「まぁ・・・えっと・・・なんで神社で麻雀してるんですか?」

「お前が起きるまで暇だったから久那さんに蔵から出してもらったんだよ」


蓮が牌を捨てながら言う


「先輩一時間くらい寝てましたからね。しかも雪城先輩の膝枕で。羨ましい限りですよ。マジで。一瞬風咲先輩になりたいなって思ったレベルですよ」


少々迷いながら捨てる牌を吟味している禍築(まがつき)


「そんなこと言うやつはロンされてしまえ」


禍築が中の牌を捨てた瞬間


「ロン。国士無双。」


手元の牌を倒し指でなぞって整えながらニヤリと口元が上がる久野宮さん


「ロン。大三元。」


白、發、中と手牌を倒し最後に残りを倒し笑う蓮。


「なんでぇ!?」


哀れ禍築。まさか本当にロンされてしまうとは。


「今日の昼飯は禍築の奢りだな。寿司注文してるから皆で食うとしよう。」

「盛り上がってるね。」


虎織が麻雀をやっていた部屋へと足を踏み入れる


「まぁ凄い役決まったからな。そういえばアリサと桜花さんは・・・?」

「アリサちゃんは菊姫命(きくひめ)の所に居るよ。桜花さんは事務所に報告しに行ってる」

「そっか。ちょっと菊姫命の所行ってくる」

「うん。待ってるよ」


「菊姫命。菊姫命。」

「なんだよ。オレは今忙し・・・なんだ、お前かよ。お前のいとこならここに居るぜ。まぁなんだ。中入れ。クソ狭いけど」


菊柄の着物に身を包んだ荒々しい口調の黒髪の女性というか神様、菊姫命が社の引き戸をガタンっと開けながら中に入るように促してきた


「うわっ、アリサ、いきなり飛びつくな!」

「お兄ちゃん!良かった!目が覚めたんだ!うち心配で心配で!」

「もう大丈夫だからな」


1日に大丈夫とここまで言ったのは今日が初めてだろう。何回言ったんだろ・・・


「うちが怖がってた狼のせいでお兄ちゃんが辛い思いして・・・しかも怪我まで・・・?あれ?やけど治っちょる?」

「やけど?してないと思うけど・・・?」


不思議な事を言う。やけどしているならきっと水膨れなりなんなりがあるはずだが。それにどこも痛くはない。

それはそれで異常な気はするが・・・


「だから言っただろ?こいつ結構傷の治りとか早いから心配しなくていいって。あとお前はこれ以上炎は使うな。これはオレからのお願い、と言うやつだ」

「はい。」


短く返事をすると菊姫命は後ろを向き、ため息をこぼす。


「じゃあ、久野宮のやつが寿司屋呼んでるって言ってたから食いに行くか!職人呼んでるらしいから作りたてが食えるぞ!それにオレはお前らに助けて貰ってる側でアリサとは色々話した仲だ!奢ってやる!」

「回らないお寿司・・・?いいんですか?」


アリサの眼がいつにも増してキラキラと輝く。アリサお寿司好きだけどあんまり店に連れて行ったりしてないからなぁ・・・


「おう!腹いっぱい遠慮なく食え!」


菊姫命、それはやめておいた方がと言いたいがまぁ本人が奢る気満々なら仕方ない。

よく考えれば禍築と菊姫命の割り勘か・・・まぁ何とかなるだろう・・・

そう思いながら虎織達の待つ(やしろ)へと戻ることにした

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