第36幕 不死性
夢をみた。誰かと幸せそうに暮らす、なんて事ない誰でもみるようなありふれた夢だ。古い縁側でお茶を飲みながらゆっくりと時間を過ごすそんなほのぼのしたものだ
「そろそろ戻らないとですね。皆待ってますよ」
誰かはそう言った
「あぁ、そうだな。それじゃあ行ってくる」
身体を起こし目を開けると目の前に岩が迫っていた。ちょっと待ってくれ、流石に急展開過ぎるだろ!というか目を開けてから起き上がればいいものをなんで我輩は起き上がってから目を開けるかな!
「あっぶない!」
音速と呼べる程の速さで月奈が岩を素手で打ち砕く。その眼は金色に輝き、腕に雷を帯び、いつも以上に人間離れした雰囲気を醸し出していた
「ありがとう月奈。助かった」
「どういたしまして!起き上がって早々悪いんだけど手伝って!」
月奈はそう言うと稲妻の如く走り去った。走っていった方向を見ると超ド級と呼ぶに相応しい岩の巨人が聳え立って居た
「なんだアレ・・・」
最後に見た時より大きくなってるし・・・
というかどれだけ眠ってしまっていたのだろうか?いきなり力が入らなくなって蓮の声が聞こえた所までは朧気に記憶がある
「気にしても仕方ないか。とりあえずアイツを倒しに行くか・・・」
腰に差した虎徹に手をかけようとしたが我輩の手は虚空を掴んだだけだった
「あれ・・・?地面にも刺さってないよな。仕方ない風切を・・・」
袖の魔術式の中をまさぐるが風切がない。今日使ったのは虎徹と袖の中にあるRSH-12、背中に背負っているVSR-10だけのはずだ・・・風切はまだ引き抜いてすらいない。記憶を辿る。
どこに置いたか否、誰に渡したのか思い出した。アリサに守刀として持たせてるんだった
仕方ない。後ろから援護に回るとしますか。背中に背負ったVSRを構えスコープを覗く。ここからでは少々遠いか。倍率を上げ的を観察する。
遠目からではただの岩の塊に見えていたが腕や首や至る所に液状化した人間モドキの様なものが蠢いている。スコープの倍率を落として一呼吸置いてから弾丸を撃ち込む。
乾いた発破音と共に硝煙の香りが漂う。
コッキングレバーを後ろに引きカチャリと子気味良い音を耳にレバーを元の位置に戻し引き金に指をかけ、撃つ。
効いているのかはよく分からない。これは近くで戦った方がいい気がしてきた。
VSRを背負い直し回転式拳銃、RSHを片手に走り出す。
一瞬立ちくらみの様な感覚に襲われたがどうせ寝起きだからだ。気にする事はない
皆が戦っている最中に魔術式で空を駆け、敵の真上まで駆け頭であろう部分に乗り銃口を突きつける
「砕き、貫け」
言葉と共に引き金を引く。ゼロ距離で放たれた弾丸は岩を砕き突き進む
「将鷹!」
声のした方向へ目を向けようとした瞬間、足に何かが絡みつき元いた場所から引きずり下ろされる様に我輩は空中に放り出された。不意のことにバランスを崩し空中で身動きが取れない状態となってしまった。
だがこういう時に冷静さは失ってはいけない。まずは何が我輩を引っ張ったのか、足の方に目を向けると足に絡みついた物は包帯だった。という事は我輩を引っ張ったのは蓮だ。なにか危なかったのだろうか?しかしそんな感じはしなかった・・・考えていると凄まじい発破音と共に何かが近寄ってくる
「ちょっとうるさいかもだけど我慢してね!」
虎織の声。
音の正体は風を蹴り空を駆ける虎織の足音だった。我輩は虎織の声がした方向へと手を伸ばすと小さく暖かい手ががっちりと我輩の手を掴む
「助かった!ありがとう!」
「どういたしまして!すぐに離れるよ!」
そう言うと共に視界がくるりと回り足の包帯は解けた。
そして程なくしてズドンと大きな音が響く。今はあまり身動きが取れないから確認は出来ないが視界の端に映った百合コンビでだいたい察しがついた。
そりゃ蓮が包帯で我輩の体勢を崩してまで引っ張る訳だ。奄守が今重力を操る魔術式であの岩の塊を地面へとめり込ませ時間稼ぎをしている。
今から来る田都の大技の為に
「焔よ集え、魂を灰に、現を虚構に、我は全てを喰らうモノなり。」
田都が魔術式の発動に必要な詠唱を始める。
蓮は以下略と言って省略して発動するが本家本元の田都のコレはフルで詠唱してこそ真価を発揮するらしい。威力も蓮の放つモノとは別格、いや、そもそも別物となる
「瞳に映る全てを滅ぼし、この地に立つモノを我独りとせよ!爆炎の吐息にて全てを燃やし尽くせ!」
詠唱が終わった。それと共に凄まじい熱と轟音が襲ってくる。
虎織が風の壁を作って防いでくれているものの防ぎ切れるモノではない
「虎織、我輩の手を離さないでくれよ!」
我輩は魔術式を足場にして体勢を立て直し虎織の前へ出て虎織の腕を引っ張り抱き抱える
「えっ・・・」
「虎織のそれ魔力めちゃくちゃ食うだろ?我輩が走った方が良さそうだ!乗り心地悪いかもだけど我慢してな!」
弾む様に我輩は魔術式の上を跳ねていく。
そして蓮の場所を確認してからその方向へと全力で駆け抜ける
「蓮!引っ張ってくれ!」
我輩は叫ぶ。そして数秒後に包帯が我輩に巻き付き引き寄せられる様に蓮の方へと勢いよく身体が動く
「わっ、わっ、わぁぁぁ!」
思った以上に速度が出て思わず声が出る。かっこ悪い限りだ・・・
地面に靴底が擦れ始め足に力を入れブレーキをかけ、何とか無事に着地出来た。
振り返って敵の状態を確認すると木っ端微塵。いや、灰すら残っていない状態だ
「一件落着、って訳には行かないよなぁ」
灰すら残っていない、しかし魂は消失していないようだ。地面が抉れ始めがどんどん元いた場所へと集まり形を成していく
「どんだけしぶといんだよアイツ!これで3回目だぞ!」
蓮が苦虫を噛み潰したような顔で言う。どうやら我輩が眠っている間に2回アレを潰した様だ。凄いなマジで・・・
「どうにか突破口を見つけないとダメだな・・・」
再構成された巨人はさっきより一回り大きかった。
土地が軋む音と共に巨人の影から人間モドキがワラワラと湧いてくる。これは厄介とかそういうのを超えてもう嫌ってレベルだ。
でもやらなきゃ面倒だし・・・魔術と拳銃、短刀だけで戦わなきゃいけないのは辛いが仕方ないどうにかするとしましょうか・・・
 




