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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第35幕 影朧再び

走り出した瞬間、真上から刃が振り下ろされる。

刀で弾くのは多分ここでは愚策になるだろう。脚に力を入れ斜め前へと転ける様に踏み出しそのまま低姿勢で跳ぶ様に走り、攻撃を避ける


虎織にぶつかりそうにはなったがなんとか避けてくれた。もしぶつかっていたらそのままお陀仏まで有り得る。そんな事を考えながらも敵の懐へと潜り込み、腕に一太刀浴びせ切り落とし走り抜ける。


「1つ!」


刀はスルりとまるでバターでも切ったかの様に肉を断ち腕がぼとりと地面へと落ち赤い液体が地面を染める


「2つ!」


少しタイミングをずらして虎織がもう一本腕を切り落とす


「最後!」


そして月奈が心臓部分へと槍を刺す。不死の男からは血が吹き出ているものの動きは鈍る事無く、槍が刺さったままその槍を持つ月奈を振り落とさんとするように身体を大きく回転させる。


「きゃっ!」

「月奈、大丈夫か?」


振り落とされた月奈を片手で受け止め次の一手を考える。

神殺しは刺さったまま、アイツは痛覚が付与されているとはいえどうやらそれも薄れてきた様だ。禁厭の炎が使えれば灰も残さず燃やせるというのに・・・


「降ろしてもらってもいいかな・・・?その、将鷹の着物汚れるから・・・」

「あぁ、気遣いありがとう。ってこれ血じゃないな・・・」


返り血だと思っていたものは血というには粘度が高く虎織がアクセサリーを作る時に使っていたレジン液というもののような感じがする


「あっ、本当だ・・・。最初は血みたいにサラッとしてたのに。アイツ血の代わりに他の何かが流れてるのかな・・・?そういえば人間モドキを燃やした時もプラスチックみたいな臭いがしてた!」

「もしかしてとは思うけどコイツはただの人形で本体はどこかに居るとかそういう面倒なやつか?」

「それなら本体探さないと倒せないって事だよね・・・」

「そうなるな。まぁ本体が居るとしたら影の中かな」


ズドン!と大きな音が響く。音の正体は虎織に思いっきり蹴られた男が倒れる音だ


「2人とも今は目の前の敵に集中しよっか」

「あー悪い!打開策は戦いながら考えるとしますか・・・」


倒れた男は自ら影へと潜り、身を潜める。影潜りは厄介だ。多分もう違う影の中へ入っているし何時でも攻撃出来る状態だろう。

下や後ろからの攻撃に咄嗟に反応できるか、それが1番の問題だ。かすり傷程度ならいいが致命傷となると2人に迷惑がかかる


「後ろだ」


影朧に似た声が聴こえた。振り向きながら刀を構え自らの影へと突き立てる。ちょうどそこに男の顔が有り額を貫く形となった。やはりこいつに骨という概念がないのか腐肉を抉った様な感覚しか手に伝わってこない。


「先読みとは不愉快!しかしこれはどうですかね!」


男は言うと口を大きく開き大量の赤い粉を吐き出す。これは薬・・・?影に呑まれる前に言っていた凶暴化する薬か?それとも・・・


「あっ、あぁぁぁぁぁ!」


刹那、男の叫び声が響く。それと同時に我輩の影から蒼い炎が揺らめき始め赤い粉をパチパチと音をたてながら、煙を出さずに焼き払う。

影は笑う。我輩は何もしていないというのに影だけが勝手に動く


「影朧・・・なのか?」

「おう。少しだけ力を取り戻せたんでな。ちょっとした遊び心でここに出てきてみた。影の中なら魔力もほぼないから表に出ても問題無さそうだ。平面でしか動けないのがちと惜しいがな」


我輩の影は手を握ったり開いたりとしながら蒼い炎を灯し続ける。


「将鷹の影で朧げな存在だから影朧って名乗りが例えじゃなくて本当になっちゃった・・・」


虎織が我輩の影を見ながら言う


「姫それ覚えてんのかよ」


影はやれやれと首を横に振りながら笑う。そして虎織の事を姫と呼ぶ影朧に違和感を覚え影朧に聞き返す。


「姫?」

「あぁ、姫だろ?着物着て大切にされてんだからな」

「姫はわざわざ前線には来ないって・・・」

「いやしかしだな・・・」

「頑固か。てかお前とダラダラと話してる時間はないんだ。あの不死身の本体にたどり着かないとなんだよ」

「まぁそれは頑張れ。俺は答えを知っているが今教えるとお前の為にならないから黙っておくとする」


影朧はそう言うと影は我輩と同じ動きをする様になった。影の中に居た男はと言うと蒼い炎に焼かれ灰となっている。まぁまだどこかで存在しているんだろうが・・・


周りを見渡そうとした瞬間地面が揺れる。地震かと思ったがどうやら違う様だ。地面が隆起し首の無い人型の大きな何かが6体現れる。奏さんに貸してもらった文献に載っていたゴーレムクラフトという魔術の一種だろうか?

確か石や岩、地面に魔力を染み込ませそれを形作って操り、壊れても魔力の続く限り再生を繰り返し動き続けると記されていた。


・・・これってアイツの不死の原理じゃないのか?そうだとするのならゴーレムクラフトを使う魔術師を倒せば丸く収まるのでは?だがこの考えは推測の域を出ない。どうやってこの仮説を立証する?簡単な事だ。あの人型を壊せばいい。再生し続けるならゴーレムクラフト。もし違うならまた一から考え直しだが。もしもの時の為に月奈に本体を探して貰うのが吉か


「ここは我輩と虎織に任せて貰えないか?月奈は・・・」

「わかった。私はこいつの本体を探してくるね」


流石月奈、こちらの意図をすぐ察してくれる


「気を付けてね・・・」

「あぁ」


月奈はそう言うと共に風の様に走り出し直ぐに見えなくなった


「虎織、ちょっと見苦しい戦い方になるかもしれないから先に謝っとく」

「戦い方に見苦しいも何もないよ。将鷹のやりたい様に戦ってね。私はそれに合わせるから!」


虎織は楽しそうに笑う。我輩は短刀と回転式拳銃を構え人型へと1発撃ち込み走り出す。

弾丸は片腕を砕き飛ばしたが直ぐに再構築が始まる。


人型は隊列を組んで我輩目掛けて走ってくる。単縦陣で走ってくるとか集団ランニングかよ!と心中ツッコミながら回転式拳銃に魔力を込める。白鷺城での一件以降ただの火力兵装から魔術兵装へと改造して前よりは使いやすくなっているはずだ。


「撃ち貫き爆ぜろ!」


言葉と共に引き金を引く。弾丸は人型達の頭を貫きながら小規模な爆発を起こしていく。普通ならどこかで弾は止まるだろうが言霊と魔力を込めたことで狙った物全てを貫く弾丸へと変異する。そういう改造を銃にしておいたのだ。


やはり人型達は止まらない。修復を行いながらすぐ近くまで迫ってくる


「せぇぇぇえい!」


虎織が上から降ってくる。まるで滑り台を滑るかのように1番前の人型を蹴り倒す。そして蹴り倒した人型をもう一度蹴り次の人型に刀を突き刺し頭の部分を落とし我輩の近くにふわりと舞い降りる。虎織が地面に足を着けると同時に銃を仕舞い鎖を取り出し倒れている人型2体に括りつけ引っ張り上げ、そのまま残りの4体に思いっきりぶつける。


人型は粉々に砕け修復を始める。

だがそれは我輩の予想していた修復の仕方とは大きく異なっていた・・・


「合体しやがった・・・!」


人型は砕けた部位を結合し腕だけが肥大化した5mは有るだろう猿のような形となっていた。そこら辺の石ころとかも混じっているのかゴツゴツとした岩の中にポツリポツリと小さな石ころが埋まっている


「的が大きくなっていいんじゃないかな?」

「恐ろしく前向き!いやでもパワーとか上がってたら厄介じゃない?」

「当たらなきゃ大丈夫だよ!」

「ごもっとも!」


短刀を構えながら岩猿の動きを観察する。そして気づいた事がある。岩猿の胸付近にあの不死男が埋まっている。顔をこちらに向けてニタリと気色悪い笑みを浮かべ口を動かす。


ワタシは死なない、お前たちに勝ち目はない。口は確かにそう動いた


「グハッ・・・!」


強烈な突き刺すような痛みが全身を襲う。我輩の周りを見ると鋭い剣の形をした石が全身を切っていた・・・幸い致命傷にはなっていないが切られた所が妙に痛む。

完全に向こうに気を取られていた。普通ならこの程度避けるのは容易なのだが男の口元の動きに集中していた為こんな無様な姿を晒す事になった


「将鷹!?」


虎織の声が聞こえる。何が起きたのか分かっていない、多分パニック状態になりかけている。


「大丈夫・・・じゃないけど心配いらない・・・まだなんとかなる・・・」


自力で石の剣山を抜け出し地面へと倒れ込む。

あーこれ長い事放置すると破傷風になるな。どうしよう・・・身体に力が入らない・・・

そしてどうやら虎織が我輩の名前を叫びながら身体を揺すっているらしい


「おい将鷹!そんな所で傷だらけで寝てんじゃねぇぞ!」


友の声が響く


「あと雪城、怪我人を下手に動かすな!」


朦朧とする意識の中視界に飛び込んで来たのは蓮だった

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