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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第33幕 影の中で

我輩が落ちたのは水底の様に暗い場所だった


「何とか生きてるみたいだな・・・虎織?」


虎織の姿を探すが周りには居ないようだ。居るのは顔がぼやけてしまっている人間だけだった


「人間モドキじゃない・・・?普通の人間だよな?」


彼らの目の前で手を振るがうんともすんともしない。脈はある。どうやら意識は無いだけで生きてはいるらしい


「将鷹ー!将鷹ー!何処にいるの!?」


虎織の声が響く


「ここに居るぞー!」


大声で我輩は応える。そしてわかりやすい様に手を挙げる


「良かった・・・」


虎織は勢いよく我輩に飛びつき抱きしめる。この暗闇の中、心細かったのだろう。困った・・・何故こんな時に意識が朦朧とするんだ・・・


「あれ・・・?安心したからかな眠く・・・」


虎織も同じ状態の様だ。しかしここは敵の影の中。下手にねむるわけに



意識が溶ける。影朧に呼び出される時の感覚だ・・・

あいつ思ったより回復が早かったな。我輩は水面に立つ。ここも最近見慣れてきてしまった・・・本来来てはいけない場所なのだが


「さぁ、俺の手を取れ。そうすればここから出してやる」


腕だけが水面から出てくる。一瞬手をとりかけたが何かがおかしい事に気づく。水面に映るのは影朧でも我輩でもない虎織に似た誰かの姿だった。端的に言えば男っぽい虎織という感じか?


「どうした?手をとればいいだけだ。簡単だろう?」

「お前は誰だ・・・!」

「さて、誰だろうね」


男は戯ける様に首を傾げていた


「もしその手をとったら我輩はどうなる?」

「概ね消えるんじゃないか?あの炎の守護者と共にな。まぁ試した事もないからどうなるかは分からん」

「それは我輩になんのメリットがある。影朧と我輩が消えるんじゃここから出ても意味が無いだろ」

「そうだな。お前にメリットはない。だが俺を抱えたまま生きるのはそれこそデメリットなんじゃないか?他人の人格を内に宿し一定条件でその人格に近づいて最後には人格が飲み込まれる。お前はその恐怖と一生向き合えるのか?」


今の言葉でわかった。こいつは我輩の中で出来上がった人格なんかじゃない・・・誰かが魔術式か何かで埋め込んだ人格だ。もしかしてとは思うけど久那さんや菊姫命が言っていた炎を使うなって言ってた原因・・・?

我輩が我輩で無くなると久那さんが言った。なるほど、納得できた。ならコイツが雪城家に関係がある者なのか


「そんなので我輩は怖がらないぞ雪城」


我輩は呟く


「へぇ。久那か誰かに教えてもらったのか?それとも幸三郎か?」

「さてな。その感じだと爺様とは友達かなにかか?」

「あぁ、幸三郎は俺のダチだ。こうやってお前の身体に俺が居るのも幸三郎のおかげってとこだな」

「なるほど・・・爺様がね・・・」


爺様がそんなことするはずないとは思ったが、こいつが嘘を言っている様には見えない。

心当たりはない訳でもない。というかこれは我輩が招いた事態というか自業自得というかそういうものなのだ


「その顔、俺がここに居る原因がわかったみたいだな」

「まさかとは思うけど爺様の書庫にあった本を開いて怒られた事がある。それが魂の写本だったと考えるのが普通か・・・」


魂の写本。風咲幸三郎の魔術道具の中で最も魔術師達が欲しがる代物らしい。その効果は1度目に開いた者の魂を書き写し、2度目に開いた者にその魂の一部を書き写すというものだ。書き写した魂は書き写された魂の持ち主が決めた一定条件を満たすことでどんどん1度目に開いた者になっていくという狂気の本だ


「正解。俺が幸三郎の代わりに死ぬって条件突きつけてそれを代価に魂の写本を作って貰った訳だ。まぁそれをお前が開けてデメリットだらけの俺を抱えちまった訳だが。せいぜい俺に喰われないように精進しろよ、幸三郎の孫よ」


男がそう言った途端蒼い炎の狼が水面から勢いよく飛び出し我輩を咥え暗闇へと走り出す。炎の牙で噛まれているが熱さも痛さも一切ない。

狼といってもアリサの夢に出てきてたやつとは別物らしい。何故ならこいつは影朧なのだから。それに体躯が違いすぎる。こいつはあの大型に比べると随分と小さい


「虎織も頼む」

「わかってらぁ」


影朧は短く言う。その声を聞くとまた我輩の意識は深い水底へと沈んで行った




「またここか・・・」


紅蓮の炎が渦巻く屍の山が築かれた地獄へとまたも足を踏み入れてしまった。前は炎の魔術式を使った時にここへ来たが今回は何もしていない・・・

だが今回は亡者が居ない?何も声が聞こえない。風の音さえも何もない。


「夢、か。昔よく見た夢だったか。どこかの戦争跡、焼け野原というか最早更地なんだよな・・・どんな化け物みたいな爆弾使えばこんなことになるのやら・・・」


我輩は知っているが知らないフリをしてこの風景を眺める。知っているというのは語弊があるか・・・

断片を見てしまったというのが正しい。本当に目を背けたくなるような夢であり、ここでしか維持出来ない記憶だ


「将鷹、帰ろうか」

「虎織・・・?」


虎織の声が聞こえた。ありえない。ここは我輩の夢の中のはず・・・


「夢の中でも護るって言ったでしょ?」

「有言実行しちゃったか・・・」


これは流石に苦笑いになってしまう。冗談だと思っていたら本当に夢の中、地獄の底へと来てしまったのだから


「帰るっていってもどう帰る気だ?」

「とりあえず走るよ!影朧から対処法は聞いてるから!」

「ははっ!本当にアイツは世話焼きだな!」


我輩と虎織は走り出し海を目指す。影朧と初めて逢ったあの日の様に・・・




「んー・・・あれ?影から抜け出してる・・・」


目を覚ますとそこに血塗れの月奈と自称不死の男が立っていた

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