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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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第6幕 異状事態

「狼か。ならなんとか・・・」


抱えられて着地したあと倒れてしまった身体を起こしながら袖から虎徹を引き抜き鞘へと仕舞う。


「お兄ちゃん・・・アレと戦っちゃだめ・・・お願い!逃げて!」


アリサがいつになく真剣に、必死に我輩の羽織の袖を掴みながら言う。


「そうもいかないんだよ。大丈夫。お兄ちゃんは大丈夫だから」


ここでこの黒影を放っておくのは絶対にまずい。なんとしてでも倒さないと直感がそう我輩に語りかける。


「でも・・・」


アリサの声を遮るように黒影が暴れ始め木々を薙ぎ倒し直進とは言い難いが単調な動きでこちらに向かってくる


椿流(つばきりゅう)酉の番(とりのばん)刃隠奇襲(じんいんきしゅう)


さっきまでカマキリの頭に刺さっていた刀、風切(かざきり)を袖に仕舞って向かってくる黒影にこちらも向かっていく。


「下手に突っ込まない!」


虎織(とらおり)の声がすると共になにか壁のような物に当たり頭を強打した。どうやら虎織が作る風の壁のようだ


桜花(おうか)さん。少しの間アレの相手、お願いします。」

「なかなか無茶を言ってくれる・・・しかし、ここは年長者としていい所を見せるとしよう」


桜花さんは苦笑いでその場から離れる。


将鷹(しょうよう)、そこに正座」


どうやら虎織は御立腹のようだ。黙ってその場で正座して虎織が口を開くのを待つ。

虎織もその場で正座して口を開く。


「アリサちゃんの話、聞こうか。戦うな、逃げてって言うからにはそれなりの理由があるはずだよ。それを聞かずに1人で斬り掛かるとかダメだよ?カマキリ倒せて嬉しいのは分かるけどね」


確かにカマキリを倒して舞い上がっていたのかもしれない。冷静になるとさっきの行動がすごく恥ずかしい限りである。


「申し訳ない」


アリサのあの表情を見て、話を聞かずに突っ走ったのは死んでも構わないととられてもおかしくは無い。

アリサは理由なくあんなことは言わないしあんな悲しそうな顔もしない。


「反省しているならよろしい。アリサちゃん、話聞かせて貰えるかな?」


虎織は微笑みアリサに声をかける


「えっと・・・あの狼、うちの夢の中で頻繁にお兄ちゃんを食い殺してる狼で・・・」


夢、か。だが頻繁にとなるとそれは予知夢とかそういう類であってもおかしくはない。

それに華姫には、同じような夢を何回か見ると正夢になるという都市伝説が存在している。

それを考慮するとアリサが必死になるのが分かる。


「なるほど。正夢になるかもしれないと。」


虎織の言葉にこくりと頷くアリサ。


「それじゃあ将鷹は今回はここで見学及びアリサちゃんの護衛で。予知夢だったら洒落にならないから、あとは任せて。」


「わかった。あとは任せる。」


虎織にハイタッチをしてアリサと共に後ろへと退る。


「お兄ちゃん、ごめんなさい。」


アリサが唐突に謝ってきたので少々面食らってしまった


「謝ることなんてないさ。むしろこっちが謝らないとだな。ごめんな、アリサがせっかく止めてくれたのに突っ走って」


数秒の沈黙の後アリサが口を開く


「お兄ちゃん!アイツがこっちに来てる!」

「大丈夫、ちゃんと見えてるから」


視界の端でこちらに向かってくる狼が見えた。

「無事か虎織!」


「大丈夫!それよりも気をつけて!」

「了解!あんまり使いたくはないけど仕方ないよなぁ・・・」


袖からオートマチックの9mm口径の拳銃とマガジンを取り出しマガジンの背面を見て残弾数を確認する。

17発、確認を終えてマガジンを銃にセットし、スライドを引く。


「アリサ、耳塞いでおいてくれ」


こくりと頷きながら両手で耳を塞ぐアリサを見て我輩は銃を構え、狙いを定める。

パン。と乾いた発破音。弾は眉間を撃ち抜くが狼はものともせずにこちらへと向かってくる


「ウソだろ!?あの弾、黒影用に特殊加工したやつだぞ!?」


1発では足りないのだろうか?


「アリサ!走るぞ!」


アリサの手を掴み、狼の向かってくる方向へと走る。


「お兄ちゃん!反対側ならともかくなんで真正面に走ってるの!?」

「こういう事だ!」


アリサを担ぎ、地面を蹴り、空を蹴る。魔術師では無い人がこれを見ると何故か宙に浮いているように見えるそうだ。実際には魔術式が一瞬の間、実体化する。その一瞬を足場に空へと駆け上がっただけなのだが・・・


「飛んでる!?」

「魔術師なら割りと皆できる芸当だ。それに飛んでるんじゃなくて歩いてるだけだ。」


そう、魔術式の性質さえ知っていれば魔術師なら誰でもできる。何も起きない魔術式なら魔力消費も少なく済む為魔力が少ない人でも割りと簡単にできるのだ。


「それと、しばらく耳塞いでてくれよ」


式の上を歩きながら下にいる狼に銃弾を浴びせる。効いていないのか全く動きが衰えない。

それどころか天へと走り我輩達を食い殺そうとする勢いすら感じられる。


「やっぱり効かないか・・・作るのに手間のかかる弾なのになぁ・・・」


弾を作るのに結構なコストと何人もの協力が必要な為、切り札として使っていたのだが効かないとなるとなかなか心にくる。

さっきのカマキリよりは随分とマシではあるが


「よっ、っと」


虎織がいる所で式の道を降りる。

狼は相変わらず我輩を狙っているようで虎織の作っている風の壁にぶつかりながらもこちらへと猪が如く走ってきている。


「風咲、お前何かあれに心当たりはないのか?」


桜花さんが苦笑いで問いを投げてきたが一切心当たりがない


「ないっすね」


短く答えると桜花さんはアリサへと問う


「そりゃそうか。金髪娘、アレは一体なんだ?」

「よく分からないです・・・昔から夢に出てきて・・・でもお兄ちゃんの家に住み始めてからは全く・・・」

「普通に考えればあの黒影は恐怖した者を食い殺しに来るはずなのだがな。そもそもアレは今、本当に黒影なのか?」

「黒影用の弾が一切効かない辺り別物じゃないですかねぇ・・・」

「お前、対人戦用の弾も持っていたりするか?」

「一応は・・・あっ・・・まさか・・・」


何故そんなことを聞くのか?そう思ったがなるほど・・・これは結構やばいミスだ。

うっかり対人戦用のマガジンを装填してしまっていたようだ。基本的に銃を使わない為、対人戦用のマガジンがあるのを忘れていた。


「せめて対人戦用のはロングマガジンにするなりして区別しておけ・・・」

「帰ったら手配しておきます・・・」


袖からもう1つのマガジンを取り出し弾を見る。そこには銀色の弾が入っていた。間違いない。マガジンを間違えていた。

そのマガジンにさし換えた瞬間、何かを察知したのか狼は遠吠えをし始め天を仰ぐ。

直感が語りかける、何か良くない事が起きる。この場から直ぐに離れろと。


「全員散開!アリサは桜花さんについて行ってくれ!」


狼が6回遠吠えした所で狼の周りに無数の鋭い鉄が草木のように生い茂りこちらへと勢いよく迫り来る


「黒影が魔術だと!?」


桜花さんの驚いた声が耳に入る。

文献にも一切書かれていない事だ。そりゃびっくりする。

というか我輩もめちゃくちゃびっくりしている。


「死ぬよりマシか・・・」


地面にそっと手を置きとある魔術式を起動する。


鉄がすぐ目の前で形を崩して溶けていく。

そして溶けた鉄をさらに溶かすかのように炎が荒々しく燃え盛り、その光景を目に映した瞬間、頭痛と吐き気が我輩を襲う。


頭痛のせいなのか居るはずのない人々の呻き声と苦しそうな声が聴こえてくる。


熱い、水、熱い、死にたくない、殺して、痛い、苦しい、辛い、熱い、熱い、熱い、熱い・・・


時々、自分を強く持てと言う声も聴こえてくるがこの声達と同様、幻聴なのだろう


炎の魔術は我輩と相性が悪いらしく使う度にこの症状に悩まされ、悪夢を見ることになる。


クラクラして視界がぼやけてきた。しかし、狼だけはきっちりと見える。


炎が遠吠えによってかき消され、狼が一直線にこちらへと向かってくる。


まとまらない思考の中、手にした銃を構え引き金を引く。何発か外してしまったが1発の銃弾が狼の眉間を捉え、貫く。


狼の身体はボロボロと泥のように崩れ落ち霧散していく。それを確認すると共に意識が朦朧(もうろう)として我輩はその場に崩れ落ちた

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