第32.8幕 日照
将鷹の姿が視界から消えた。虎織が付いてるはずなのになんで・・・?
私は最後に姿を確認した高台の方へと走る。
ありえないありえないありえないありえない・・・
何が起こってるの?
走ること数分将鷹の姿が消えた高台が見えてきた。
そこには逢坂に居た男がこちらを笑いながら眺めな座っていた
「将鷹を何処にやった!?」
「開口一番それですか・・・安心してください、彼も彼女も存命です。今頃ワタシの影の中で何かしているでしょう。ですがそうですね後7分程で戻って来れなければもう戻っては来れないでしょうね」
「2人を返せ!」
神殺しに魔力を込め当たれば必殺となる刃で男を切りつける。手応えはあった。なんならしっかりと頸動脈を切り裂いたはずだなのに・・・
「やはり神殺しと言っても完璧な不死殺しではないようですね」
男は何食わぬ顔でそこに立っていた。ありえない・・・この槍なら不死も殺せるって土地神さまが言っていたなのに何故・・・?
「何故、そういう顔をしていますね。ワタシは不死は不死でもその辺のとは位が違うんですよ。普通の不死ならその槍で殺せるでしょうがワタシはその範囲の外ということでしょうね。さぁ、どうします?諦めてこちら側に着くというのなら命までは奪いません。まぁ精神的には苦痛かもしれませんがそのうち感覚も麻痺して思考放棄するでしょうね」
どうやったらこの不死を屠れる・・・?仲間になるなんてまっぴらごめんだし、あの言い方はろくな扱いはされないやつだ。将鷹と虎織を引き合いに出されたら折れたかもしれない。でもそれをしないって事は私は自分の命が一番大事な人間と見られているんじゃないか?
それは心外だし私の命なんて2人を救えるなら差し出してもいい。
あぁ、そうだ、死なないなら死ぬまで殺せばいいんだ・・・
「おーい、神薙の巫女。随分とえげつい顔をしとるでー?アンタそんなのじゃ友達に嫌われるで」
声のする方を向くと最初からそこに居たかのように闇夜に溶け込む様な真っ黒なゴスロリに身を包み、太陽が出ているわけではないのに黒の日傘を差した女子高生ぐらいの子が真後ろに座っていた
「貴方は・・・?」
「あーそうかそうか。よー考えたらアンタとは初対面やったわ。わてが一方的にアンタを知ってただけやったね。わては日照。天照様の遣い神というか式神やね」
「これ面白い!まさか天照大御神の遣いが乱入してくるとは!」
歓喜とでも言うのだろうか不死の男は異様に高いテンションで興奮気味に言葉を紡いでいく
「嗚呼、素晴らしい!まさか最高神の一柱がワタシに関わりに来るとは!」
「あんさんキモイな。わてはあんさんに用ある訳ちゃうねん。わてが用があんのは・・・」
日照様はそう言うと共に地面に腕を突っ込み何かを引っ張り出す
「違う違う。こいつやない・・・天ちゃんはすぐ分かる言うてはったけどわからんなぁ・・・神薙の巫女、いや、月奈ちゃん。そこのキモイ変人の相手しといてか。こりゃ骨折れそうやわぁ」
引っ張り出されたのは人だった・・・日照様はその人を放り投げるとまた地面に腕を突っ込む
「これも違う。なんで斧なんか入っとんのよ。手ぇ怪我するやん。あっぶな・・・てか地面から斧出てくるとかアレやん!ちょっとテンション上がるわぁ!」
「まさか貴方・・・ワタシの影から彼を・・・!?」
「えぇーなんの事ぉ?わてはただ地面に手ぇ入れて遊んどるだけよー」
不死の男は白々しく答える日照様に襲いかかろうとする。私は槍を思いっきり突き刺し男の動きを止める
「おお、怖っ。月奈ちゃん、あんまり怖い事せんといてよー。あくまでも相手しといてとしかゆーとらんよ」
「あっ、すみません・・・」
「えぇんよ気にせんといてー。わても言葉足らずやったけぇ」
話していると黒い影が私達の足元に伸び、口を開ける。日照様はこれを待っていたと言わんばかりに口元をにぃっと上げる
「待っとったでぇ!この黒い影がわてらの影に重なる時を!月奈ちゃん!この影すぐ切って!」
「は、はい!」
言われるがまま地面を切る様に影を槍で切る。すると開いた口は消え、光に照らされた私達の影だけが残った
「ほんま手間かけさせて・・・おいで影狼」
日照様が言うと影から蒼い炎の狼が現れ日照様に頭を撫でられた瞬間炎は広がり消える。そして狼の居た場所には将鷹と虎織が寝転がっていた
「あーあー随分と変わってしもうたなぁ。お前は主だけ守っとればええもんを。いや、よー考えたらその子がその主の原動力やから助けるのが普通か。まぁわての仕事は終わったさかい帰るわな。じゃあ月奈ちゃんまた今度なー。あっ、それと風咲の子に貸し2つや言うといてかー。ほなまた」
日照様は闇夜に溶け込む様に姿を消してしまった・・・将鷹も虎織もまだ起きる気配がない。起きるまでは私が2人を守り抜く!
一番気をつけないといけないのは地面から出てくるあの黒い影だ。あれに呑まれたらせっかく日照様が助けてくれたのにそれが水の泡となってしまう
「どいつもこいつも・・・!ワタシの邪魔ばかり・・・!せっかくあの方への手土産にと思っていたというのに・・・!」
男は本気になったのか自らの影から背丈の倍はある鎌を取出し飛びかかってくる。私は鎌が振り下ろされる瞬間に合わせて魔術式を展開して自らの強化を行う。
雷式神威。脳に微弱な電流を流して脳にかかっているリミッターを無理やり外す術式だ。私は2人を抱えて攻撃を避ける。そして2人を降ろしてから最速で最大威力の一撃を当てにいく。槍は雷を帯び、私が踏み込んだ地面に足型とヒビが入り土煙が舞う。
「かはっ・・・!」
周りには血が流れ、一瞬で温まった自らの体温が下がっていくのを感じる
 




