第22幕 不信感
「やはり人の形をして歩くの面白いな。いつもの景色とは全く違うと全てが輝いて見える」
白狐はジーンズのポケットに手を入れ猫背気味に歩きながらキョロキョロと楽しそうに周りを見渡す
「何時もはまともに地面も歩かないからこう地に足つけて歩くってのも新鮮だ」
「なんだ?いつも3ミリくらい浮いてるのか?」
「どこの青狸だよ。オレは踏まれるのが嫌だから常にビルとか建物の上を渡り歩いてんだよ」
「あーそうか、神様って皆が認識できる訳じゃないんだったな」
「ここの土地は全員見えるようだが普通じゃ有り得んからな。いっそここに永住すれば可愛がられるだろうが流石に同じ土地に何年も居る訳にはいかんのでな」
「社が無い限りその土地に永く居座るべからずか」
経津にぃがそんなルール教えてくれたな。理由は確か土地の過度な繁栄又は土地を荒らす悪神にも成り得るからだったか。社が無い成りたての神は加減が出来なくなるらしい。それを防ぐ為のルールだそうだ
「童は神の世界のルールも知ってるのか。いっその事こっち側にでも来たらどうだ?お前なら知ってる神も多いし、何より天照大御神が味方に着いてんだ上手くやっていけるだろ」
「お断りだ。我輩は神の域に踏み入れると祟られるらしいからな」
「宇迦からの忠告だろ?問題無い問題無い。天照がそんな祟り祓うだろうさ」
「今まで関わった神様全員からそう言われてるんだよ」
そう、今まで関わった白狐以外には漏れなく神の域には踏み入れるなと強く言われている
「普通ではそこまで言われる事は無いはずだが。全員から言われるという事は何か理由があるんだろうな。まぁお前は人から外れるべきでは無いという思いもあるのだろうが」
「将鷹って異様に神様に好かれるから向こうで取り合いになるからじゃない?誰の下に着くかとかそういうので揉めるだろうしさ」
月奈が笑いながら言う。冗談で言っているのかそれとも本気で言っているのか分からないな。
虎織は黙って我輩の袖を掴みどこかへ行くなというような雰囲気を出している。可愛いんだが・・・?
「さて、第1村人発見だな。聞き込みを始めるぞ」
意気揚々と白狐が声を掛けに行く。
やっとまともな仕事開始だ
「じゃあここで月奈と白狐、虎織と我輩でチーム分けて聞き込みするとしよう」
「それじゃあ、お昼に青空で合流にしようか」
「OK。いい情報が手に入るといいな。お互い気をつけて行こう」
「うん。って白狐、なんでほっぺた赤くしてるの?」
「姉ちゃんいいケツだなって声掛けたら引っぱたかれた・・・」
うん、コイツ聞き込みに向いてないな。なんでセクハラするかなぁ・・・
「白狐?そういうのはダメだよ。今からそういうの無しで仕事する事。いい?」
「わかった。セクハラはしない。気をつける」
会話だけ聞けば穏便に済ませているように聞こえるが月奈は神殺しを突きつけながら優しい声で言っていた。こういう所は怖いな
「我輩達も聞き込みしていくか」
「そうだね。まずは失踪した人達の近隣からなにか異変がなかったかとか聞いていこうか」
聞き込みの時の虎織は常にクールだ。よくドラマとかに出てくる凄腕の女刑事って感じがしてくる。そして何故か眼鏡をかけて聞き込みをする。すごく似合うんだよなぁこれが
「そういえば虎織って聞き込みとかの時に眼鏡かけてるけどなんか意味があるのか?」
「気持ちの切り替えかな。いつも見てる景色でもこのガラス1枚通して見るだけで変わってくるから気づけない物にも気付けたりするんだよ」
「なるほどな」
話をしていると聞き込み1軒目の家についた。インターホンを鳴らし応答を待つ
「はーい」
インターホンから女性の声が聞こえる
「こんにちは、忙しい中申し訳ありません。華姫市役人所、黒影対策課風咲と申します、少々お時間よろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってくださいねー」
ガチャリと鍵が開く音がした。そして30代ぐらいの女性が玄関から出てきた
「役人所の方がどうかされましたか?あっ、もしかして最近の失踪事件の調査ですか?」
「ご明察です。何か情報等有れば教えていただければと思い聞き込みをしております」
「そうねぇ多分もう役人さんなら掴んでいるとは思うんですけど独り身の方が狙われているとかなんとか・・・」
「他には」
「他は特には・・・」
「そうですか。ご協力感謝致します」
「早めに解決お願いします。うちの家族も怯えて居ますので・・・」
「えぇ、任せてください」
「将鷹、あの人怪しいよ」
聞き込みをした家から少し離れ十字路に差し掛かった所で虎織が丸眼鏡をクイッと人差し指で直してそう言った
「そうだな。独り身が狙われていると知っていたのはここら辺の噂で知ったんだろう。でも」
「一家丸ごと失踪って言うのはまだ公表されていないし指輪してたから結婚してるだろうね。なら何故狙われると思ったのか、不思議だよね。それにどこか対岸の火事を見てる感じがしたし」
「焦りが一切無かったどころか淡々としてたよな」
「うん。それとここの人表札が地図の登録と違うんだよ。離婚したりとかも記録に無いし」
「怪しいがどうもピースが足りない気がする。もし何も無かった時の事を考えると下手な手を打てない」
「お昼に月奈達と会議だね」
「そうだな。何か掴めればいいんだがな」
そして我輩達は待ち合わせの時間まで聞き込みを続けたが特にこれという決めてとなる情報は得られなかった・・・




