第20幕 歩み寄り
病院を出ると曇りはしているが雨は止んでいた。傘を持っていなかったからこれは有難い
そういえば虎織達は今何処に居るんだろうか?電話をかけてみるか・・・正直電話かけるのはなんか嫌なんだよなぁ・・・
そんな事を思っていると携帯が着信音を鳴らす。虎織からの電話だった。1秒ほど出るか迷った末、電話に出る
「もしもし」
短く応える
「良かった・・・電話出てくれた・・・あの・・・面と向かって話したいんだけど大丈夫?」
虎織の声は安堵と不安が入り交じっているように感じる
「うん。丁度我輩も話したいなと思ってた所だ。今何処に居る?」
「後ろに居るよ」
「うわっ!?」
電話越しの声では無く直接声が聞こえた。びっくりして心臓が止まるかと思ったがそんなにやわな身体ではなかったようだ。だが情けない声を出してしまったのはなんというかかっこ悪いな・・・
「驚かせちゃったかな」
「心臓が止まりかけたぞ」
「ごめん。気づいてるかなって思ってたんだけど・・・」
「何時から後ろに?」
「病院の待合辺りから・・・」
「全く気づかなかった・・・えぇ・・・なんか不甲斐ないな・・・」
好きな人が居たのに気がつかないとはなんたる不覚。というか後ろに居たのが虎織で良かった。こんな状態じゃ後ろから誰かに殺されそうになっても気づくのが刺されたりした後になるだろうからな
「えっと、だな・・・その、虎織に嫌な思いさせてごめん」
「私こそ将鷹の気持ちも考えずにあんな事言ってごめんなさい」
「虎織は悪くないさ。蓮にも狂ってるって言われちゃったからな。虎織は正しい事を言っただけだし心配ばかりさせちゃってるしな・・・改善はしていきたいんだけど如何せん長年の癖というかそういうのがすぐ抜けないかもしれない・・・だからその・・・わがままなお願いなんだけど我輩が無茶しないように傍に居てくれないか?」
ふと思ったのだが最後はもう告白みたいになってないか・・・?
「うん・・・!将鷹が無茶しようとしたらぶん殴ってでも止めるから・・・だから・・・これからも一緒に歩いて行こう!」
「あぁ!よろしく頼む!」
虎織が笑顔で我輩の手を握り歩き出す。我輩もそれに合わせ歩き出す。きっとこんな日常を守りたいから我輩は無茶をしようとしてしまうのだろう・・・
路地裏の道を進んでいるという事もあって人が居ない。喧騒もなくただただ虎織と我輩の足音が響くだけだった。
こういう路地裏は考え事をする時には丁度いい。暗く、静かで何となく冷静になれる。
どうすれば無茶をせずに済むか、そんなのは簡単だ。強くなればいい。だがどうすれば我輩は強くなれるのだろうか?
魔術師としても半端、頭が良いということもない、運動神経も並ぐらいだ。影朧が居なければとっくに死んでいたのだろうか
「なあ虎織、我輩が強くなるにはどうしたらいいかな」
「そうだねー、将鷹はまず自分に自信を持つことが第一歩じゃないかな」
「自分に自信を持つか・・・奏さんにも近い事言われたっけ・・・」
自信が無いのは確かだ。だが自信を持ってどうなるのだろうか?自信が有ると慢心する、臆病なくらいが戦いにおいて丁度いいと我輩は思っている
「今の将鷹って椿流とか刀とかモノに対しては自信が有るけど自分を信じてないって節がある気がするんだけどどうかな?」
「あー、うん。確かにそうだな。椿流とかには自信を持ってる。けど自分に自信を持つって慢心したりするんじゃないのか?」
「逆だよ。自分に自信があるからこそ全力で戦えるんだよ。モノに自信が有ると慢心しやすかったりするよ。例えばなんでも一撃で屠れる剣を持ってるとしたら慢心するよね?」
「そりゃな、でもそれって一撃で屠れる力が生身であったらそれも慢心するんじゃないか?」
「そうだね。でもちょっと視点をずらせば解ると思うけどそれって一撃で屠れる力ってモノに自信を持ってるだけなんだよ」
中々難しい話だ・・・難しいというかややこしいか・・・
「大事なのは自分をどれだけ信頼できるかだよ」
「自信というか信頼か・・・なんかちょっとわかった気がしなくもないかな」
「自覚すれば徐々に分かってくると思うよ。あっ、そうだ、服屋に寄らないと」
「服屋・・・あっ!それだ!白狐の服買わないと!」
何かを忘れている、それは白狐が服を待っている事だった。さっきの戦いの後だとぶっちゃけどうでもいいレベルの話ではあるがこれからの事を考えると大事な事だな
「その言い方忘れてた感じだね。月奈が多分忘れてると思うって言ってたけど・・・」
「そりゃあんな事あったら忘れるよ」
「それもそうだね」
虎織は笑う。我輩もつられて笑う。気づけば人が多い通りへと出ていた
「さて、それじゃあ服屋にレッツゴー!」
「おー!」
傍から見ればテンションの高い男女なのだろう。周りの人の視線が少々こちらに向いていた。まぁ気にしないんだけど
「そうだ。琴葉ちゃんから言伝。神代さんを見たら速攻で隠れる事。だってさ」
「あー・・・散歩ばっかりしてるから目をつけられたか・・・」
「それもあるんだろうけど、どうも私と将鷹が常に一緒に居るのが非効率的だって琴葉ちゃんに苦情があったらしいよ」
「なるほど、だから今日は別動って感じだったのか・・・ってあれ?琴葉ちゃんの護衛は?」
「無理言ってこっちにまわして貰ったんだー。今は経津さんが護衛してるよ」
「ちょっと待って、経津にぃ華姫に来てるのか?」
経津にぃ、もとい経津主神。我輩に椿流以外の剣術を教えてくれた神様だ
「散歩がてらに来たんだって。元々はいつも通り桜花さんが護衛する予定だったんだけどね」
「まぁ経津にぃならそういうのかってでるよなぁ」
あの神様は護衛とか護国とか好きだし何より強者と戦うのが好きだから敵襲とかちょっと期待してるんじゃないか・・・?
まぁ普通の人間なら数秒持てばいい方だろうけど・・・
そんな事を考えていると服屋が目の前にあった。若者向けの店なのか店頭には少々派手目な服が飾ってあったが店内は落ち着いた物が多い
「ここの服屋でいいかな?」
虎織が店の前でそういう。反対する理由もないし我輩は賛同する
「まぁいいんじゃないか、派手じゃなくてダサくないやつ選んでいくか」
こうして我輩と虎織は服を探し始めたのだった




