表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
61/361

第17幕 怨敵

我輩と月奈は商店街へと向かうと店のシャッターがガラガラと開き始める。時刻は午前9時。近くの八百屋から順に情報を集めて行くとしよう


「やっさん、おはようございます」


八百屋の山さんだからやっさん。誰が言い出したかは分からないが子供の頃からこの呼び方が定着していた。捻りはないが呼びやすくて我輩はこの愛称が好きだ


「おぉ!風咲の旦那!いらっしゃい!と言いたいところだけど虎織嬢じゃなくて月奈嬢を連れてるって事は仕事かい?」

「虎織とでも仕事の時も有りますよ・・・」

「デートと散歩がてらの見回りだもんな!」


やっさんはガハハと豪快に笑い、しばらくすると真面目な顔に戻り


「で、何が聞きたい。ただ事じゃあねぇんだよな?俺もここの市民だ、御役所さんには全力で協力するぜ」

「それは有難い。実は最近失踪事件が多発してまして」

「神隠しの件か。リストはあがってるだろうから俺が提供出来る情報ってのは消えた人達がここらで買い物したかどうかだな」


険しい顔になるやっさん。何か違和感がある。いつものやっさんじゃないみたいだ。それに肌に刺さるようなこのピリピリとした感じ・・・殺気か?


「そんで今そのリストはあんのかい?俺は誰が消えたかなんてのは風の噂でしか聞いた事しかないからな」

「守秘義務等有りますのでリストは提示できません。知っている分だけで大丈夫です」


月奈は槍を構え臨戦態勢に入る。確信は出来なかったが月奈のこの行動で確信した。この人はやっさんじゃない


「おいおい、市民に槍を向けるなんてどうしちまったんだよ。いつもの月奈嬢なら一切そんなことしないじゃないか」

「山さんはどこ?今なら悪ふざけってことで許してあげないでもないよ」

「なんの事だかさっぱりだな」

「山さんは笑って直ぐに真面目な顔にはならないしそんな殺気だってないよ」

「お前達には簡単過ぎる問題だったみたいだな」


やっさんの顔で違う人間の声がするというのは恐ろしく不快だ。いや、違う。不快なのはそういうのじゃない。コイツの声だ。我輩は知っている、この人を嘲笑う様な声を


「将鷹、随分とデカくなったな」


不快、不愉快、嫌悪、憎悪、怒り、憎しみ。ありとあらゆる負の感情が我輩の中で渦巻く。全てを飲み込む濁流のように激しく、海の様に深く、深海の如くどす黒い感情に飲み込まれる


「お前が俺の名前を呼ぶな!てめぇは今すぐここから消えやがれ!でないと・・・」

「でないとなんだ?ぶっ殺すってか?お前に出来るのか?人を直接殺した事もない半端者が?」

「黙れ!黙れ、黙れ!」


怒りに任せ手当り次第魔術式を展開し、発動の準備をしていく


「将鷹!落ち着いて!商店街全部消し飛ばす気!?」


月奈の声で我に返り発動手前の魔術式を無理矢理抑え込み、その反動か一瞬視界がくらむ。


「良かったな、大事な大事な市民が吹っ飛ばなくて」


煽るように奴は言葉を紡ぐ。本当に、本当にコイツは今すぐにでも葬ってやりたい。顔はやっさんの顔から元あるべき視界に入れるのすら嫌な人間の顔になっていた


「そう睨むなよ。俺とお前の仲だろう?」


どの口が言うか・・・我輩はコイツのこういう所が大っ嫌いだ。我輩はコイツの存在自体を全否定する。昔出逢った時にそう決めた。

全世界がコイツを肯定しようが我輩はコイツの全てを、存在も理念も思想も人間性も全部、全部、全部、全部、全部!全否定してやる・・・

我輩は短刀を取り出し奴に切っ先を向ける


「そんなに物騒な物向けて威嚇するのはガキのやることだぜ?お前もいい歳した大人なんだからよ、もっと理性的に話をしようや。なっ?」

「お前と理性的に会話できるわけないだろ・・・!」


「将鷹、下がって。私が話をするよ。この人とどんな関係なのかは知らないけど今の将鷹はさっきの私と同じで冷静さがないよ。それじゃあこの人と戦っても勝てないよ」

「流石は吉音家の一人娘って所だなぁ?状況判断がきっちり出来ておじさん感動しちゃうよ。そこの獣のなり損ないとは大違いだ」


月奈の言葉に従い我輩は後へと下がる


「まずは聞かせて、貴方は将鷹と一体どんな関係なんですか?」


我輩は耳を塞ぐ。聞きたくない。精神的に不安定な今は特に


「俺はコイツの・・・」


暴風が奴の言葉を遮り我輩の真横に1人、誰かが舞い降りる。誰かなんて分かりきった事だ。


「虎織!」


我ながら大きい声が出たなと思う。そしてさっきまで視界にあった商店街は消え草木が目の前に広がっていた。

どうやら奴に化かされていたようだ


「もう大丈夫だよ。でもまさかアイツが華姫に居るなんて・・・」

「虎織、あの人って一体・・・?それにさっきまで商店街にいたはずじゃ・・・」


月奈が虎織に奴の正体を聞く。だが虎織が正体を答える前に奴が口を開く


「俺はそいつの、風咲将鷹の父親だ」

「えっ・・・えぇ!?じゃあここで始末しないと・・・」

「おいおい、頭おかしいのかお前。さっきの感動を返してくれよ」

「黙れ下郎。将鷹から話は聞いてるよ。不倫した挙句妻と産まれてすぐの息子を残して消え、更には華姫の極秘資料を他の市に漏洩、挙句3人廃人にして華姫からも蒸発。貴方の様な人間は生きる価値が無いよ」

「はっ、やろうってんならやってやるよ。どうせ3人がかりでも俺は倒せないだろうがな」


月奈が槍を構え直し我輩と虎織も刀を引き抜く。奴は余裕というように構えもせずその場に立っているだけだ。

地面を勢いよく蹴り我輩は一直線に怨敵へと向かう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ