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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第14幕 果たし合い

刀を構えず走る。ただひたすらに一直線に。

そろそろ槍の間合いだ。いつ攻撃が飛んできてもおかしくない。

後数歩で刀の間合い、しかし槍は一向に振るわれる事は無い。そして刀の間合いに辿り着いた。我輩はさらに距離を詰める。風切を握りはしたが元より使う気など毛頭ない。

あと少しで手が届く


「本当にそういう所ムカつく・・・」


眼前に現れたのは槍の穂先ではなく拳だった。

もう既に避ける事の出来ない距離だ。潔く当たりに行くべきか・・・いや、そういうのは良くないな。相手に失礼だ。まぁ刀を使わない時点でそれはそれで失礼なのだろうが・・・


自ら脚のバランスを崩しその場に転倒する。それと共に地面に手を着き、前転の容量で転がる寸前で地面に着いている手を思いっきり押し出し蹴りを繰り出す


「ねぇ・・・本気で戦ってよ。じゃないと殺しちゃうよ」


脚を捕まれ我輩は自重で地面へと叩きつけられる。そして警告かの様に神殺しの槍が首の真横を通り過ぎ石畳の地面へと突き刺さる


「月奈ぁ!お前それ石畳だぞ!?割ってどうする!修理費も馬鹿にならないんだぞ!?」

「土地神さま、静かにしてください。静かに出来ないなら、ここにある石畳全部砕きますよ」

「わ、わかった。じゃが、頼むからそこら辺の物を壊さないでくれ・・・」

「善処します。さぁ、これで邪魔は入らないよ」


月奈の眼が黒から金色へと変わる。本気で殺しに来るようだ。あぁなったら身体能力が馬鹿みたいに上がる。弱点って言えば月奈が細かい事を気にしない様になるって事ぐらいだ。

我輩はここで死ぬのは嫌だ。だから・・・


「力を貸せってのか?」


視界が暗転して影朧の声が響く。


「いいや、そこでじっとしててくれ。死にそうになってもだ」

「わかった。だがあの神殺しにだけは当たるなよ。お前があれで死んだら俺も確実に消えるんだからな。もしもそれ以外の死因で死んだってんならお前の身体は俺が貰い受ける。いいな?」

「あぁ、死ぬ気はないよ。だからこそ我輩、いや、俺はお前っていう死んでも大丈夫って逃げの選択肢を潰しておいた」


目を瞑り、自己暗示をかける。

俺は強い、俺は誰かを助ける為ならどんな汚い手でも使う。それが例え自分を助ける為の戦いであってもだ


「昔の自分に戻るか。自らの矜恃とこだわりを捨てたお前はただの狂人と変わらねぇぞ?」

「俺は俺の信じた道を行く。修羅だろうが怪物だろうがなってやるよ」

「そうか。じゃあ俺はその道行を見守るとしよう」


俺の視界が現実へと戻る。どうやらあの一瞬で俺は両腕を膝で押さえられ身動きが取れない状態にされていたようだ


「影朧との話は済んだ?始めてもいいよね?」

「待たせたな。こっからは俺とお前のタイマンだ!」

「へぇ・・・じゃあ遠慮なく殺すね!」


月奈は俺に向かって嬉しそうな表情で槍を突き立てようとする。俺は魔術式を地面に仕込みそれを手首を動かし叩く。すると発破音とともに俺の腕に痛みと衝撃が走り自らの意思とは関係なく凄まじい勢いで腕が上へと跳ね、その上に乗っている月奈は体勢を崩し横へと転がり拘束の解けた俺は立ち上がり短刀を構える


「腕1本犠牲に命を守ったって所かな?あとどれだけ犠牲にできるかな?」


月奈がのそりと起き上がりながら言う。犠牲と言っているが腕は身体にきっちり付いているしなんなら少々痛む程度だ。この程度で命が助かるなら安いものだ


「これぐらいのハンデがあった方がいいだろ。こっからは何も犠牲にしないぞ」

「随分と舐められたもんだね!」


幾つか爆弾を袖から取り出しライターで火をつけ月奈の周りに振り撒く。


「もう少し投げる練習したらどうなのかな」


そう言いながら月奈は神殺しを振り払う様に横薙ぎに振るう。

全ての導火線が切られた。だがこれは読み通りでむしろこれが狙いだ。

一つだけ残しておいた火の着いた爆弾を投げる。

爆発音が響くと連なる様に導火線の切れた爆弾が誘爆を起こす


「最初からこれが狙いだってことくらい読めてるよ」


爆風で砂塵が舞う中月奈が目の前に現れる。

それも折り込み済みだ。バックステップで後退し自分のいた場所の足元に鎖を張る


引っかかるはずもなく難なくそれを飛び越え月奈は神殺しを此方に投げる


神殺しが一直線に飛んで来る。目の前の神殺しは囮だろう。でも敢えてその囮を短刀で叩き落とす、すると右後方から風を切る音がする。振り返る必要は無い、魔術式を展開し3つの土の壁を作る


「この程度で私を止められるとでも!」


月奈は土壁を壊し此方に進んでくるのが音で分かる。1つ、2つと。冷静さが無い状態ならこの罠に引っかかるだろうとは思っていたがまさかこうも上手くいくとはな。最後の1つが壊された。


「なにこれ・・・」


驚いた様な声が聞こえた所で俺は声のした方向を見る。

そこには至る所に鎖が巻かれた月奈の姿があった


「椿我流狡猾術が1つ。名前はなんだっけな?忘れちまった」


土壁に鎖を気づかない様に偽装し、仕込み、最後の1つを壊した瞬間に全てが巻き付く仕掛けになっている。そして鎖の繋ぎ目一つ一つに爆薬が付いている。

指をパチンと鳴らすと発破音が響く。それと同時に俺は短刀を握りしめ月奈の居る方向へ駆け出す


「これで終わりだ」


鎖が巻きついたままの月奈の首に短刀を突きつけて勝利宣言を行う

さっきの発破音はただの脅しの為の火薬だ。もし危害を加えようとした場合は・・・


「トドメは刺さないと終わらないよ。私はこのままじゃ終われない・・・」


ガチャガチャと鎖を外そうとする月奈。引っかかったら最後、全身の関節でも外さない限り抜け出せないほど複雑に絡まった鎖から逃げる事など不可能だ。

俺は魔術式を展開し自分と月奈に上から大量の水を浴びせる。


「ちっとは頭冷やせ」


これは自分に言い聞かせる為の言葉でもある。


「私は至って冷静だよ」

「冷静なやつが中学の頃の我輩が考えたアホな魔術式の連続誘導に引っかかるはずないだろ。それに冷静なら今の我輩は絶対に月奈には勝てないしな」


月奈は黙ってしまった。多少は頭が冷えただろうか


「月奈、ごめんな。月奈の気持ちも考えずにあんなこと言って。否定するつもりはなかったんだけどごめん。それとあの日の我輩の意志を引き継いでくれてありがとう」

「はぁ・・・これが風の噂で聞くDV男から逃げられない女性の気持ちってやつなのかな・・・もういいや。なんか殺る気失せたよ。果たし合いはこれで終わり。私の負けだよ」


ため息混じりに涙を流しながら月奈は笑う


「なにそれめちゃくちゃ人聞き悪いじゃん!我輩そういうのじゃないと思うんだけど!?」

「DV男って殴ったあと優しくするでしょ?で、今の将鷹は鎖でぐるぐる巻きにしてから短刀突きつけて水ぶっかけてから優しい言葉をかけたよね?同じじゃん」

「それは否定できないな!」


変な称号を手に入れた気分だ。変というより不名誉極まりない、か


「将鷹、誰にでも優しいのは美徳だけどそれは同時に悪であるって言うの忘れないでね」

「肝に銘じておくよ。でも我輩は誰にでも優しい訳じゃない。大切な友達だったり家族だから優しいんだよ」

「そういうのは虎織にだけ言いなよ」


月奈はクスっと笑い、我輩は月奈を縛っていた鎖を解いた

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