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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第13幕 否定

「戻ってきたか。どうだった愚かしい昔の自分の姿を見るのは。愚かし過ぎて恥ずかしくて仕方なかったじゃろ?」

「えぇ、確かに愚かしかったと言われればそうかもしれないですね。でも、あの日の我輩は自分の信念を貫き通そうとしていました。だから恥ずかしいとは思いません」

「ふん。童の癖にそういう大人びた言動は癪に障るな」

「大人になりきれないって面では子供ですけどもう十分に歳として大人ですよ」

「儂からすればまだまだ童じゃ」


土地神さまはどうやら我輩の反応が気に食わなかったらしい。言葉の端々に棘を感じる。まぁあまり気にしないでおこう


「そりゃ何百年も生きてる土地神さまから見れば我輩はまだまだ童でしょうよ」

「童ぁ・・・てめぇ煽ってんのかぁ?あぁん?」


煽ったつもりはない。土地神さまのこういう感情の起伏の激しさはどうにかならないものか。時々突拍子もなく機嫌が悪くなるのはマジで勘弁して欲しい。あと口調がチンピラっぽくて笑いを堪えるのが大変だからやめて・・・


「土地神さま、程々にしてください。歳の話で機嫌悪くする土地神さまの方がよっぽど子供ですよ。あと将鷹は歳の話をしない事。いい?」


冷ややかに月奈は言う。目付きは鋭く黒曜石のナイフのようだった


「了解した。土地神さま失礼致しました」

「むぅ・・・儂悪くないもん」

「そういう所が子供だって言ってるんですよ。将鷹を見習ってください。自分の非を認めて謝る事が出来る、これが大人ですよ」

「月奈、大人は逆に自分の非を認めたくないから謝らないぞ。黒影対策課は謝る人多いってだけで役所内は割と大人な人達が多いし」


大人になると思考が凝り固まる、だから自分が全て正しい、自らに非なんてないそう思う人が多いと爺様が言っていた。実際対策課の外じゃ責任の押し付け合いが行われている事などしょっちゅうだ。まぁこういう考え方をしている我輩も思考が凝り固まっているのかもしれない


「この話はここで終わりとする!多分お前達とこの話をしてると儂の心が折れる!」


土地神さまはそういうとぷいっとそっぽを向いてしまった。そういう所は子供っぽいよなぁ


「そういえば白狐は?」


辺りを見渡し白狐が居ない事に気づいた。アイツが土地神さまへ挨拶しないといけないって言ってここに来たのに何処へ行ったんだ?


「白狐は今結界の方を見に行ってるよ。土地神さまが結界の緩む原因が分かれば今回私達に協力するのを許可するってさ」

「それは中々難しそうな・・・」

「実際難しいよ。私も何回か結界を調べたけどてんでだめだったんだから」

「月奈が調べて分からなかったって相当だな・・・」


月奈の強みは神をも殺す槍だけでは無い。真に恐ろしいのは魔術師としての才能なのだ。その気になればきっとどんな魔術式でも作ってしまうのだろう。それほどに月奈の魔術師としての才能は凄い。


「そういえば我輩は月奈に言わなきゃいけない事があったな」

「何かな?まぁだいたいは予想できるけどね」

「その、なんだ。随分と重い物を背負わせてすまない・・・」

「へっ?」


月奈は面食らった様に呆気に取られていた。どうやら予想していた言葉とはかけ離れていた様だ。

でも気にせず我輩は言葉を紡ぐ


「あの日の我輩の代わりに今まで正義を貫き通して来たんだよな。ごめんな」

「謝らないで」


月奈の声に少し怒気を感じる


「それは今までの私のしてきた事を否定するのと同じなんだよ。私は私の意思であの日の将鷹の思いを守ってきた。それなのに自分が間違ってましたみたいに言うのはやめて。あの日の将鷹は間違ってないし今の将鷹も間違ってない。でも・・・でも!私の今までは否定しないで!将鷹にだけは否定されたくないの!」


否定したつもりはないのだが月奈にこんな思いをさせてしまうとは・・・我輩の言葉は軽率だった。今までやってきた事を褒めるべきだった。それにありがとうと伝えるべきだったのだ。しかし、自分のせいで月奈をこんなにも苛烈で過激な正義の番人にしてしまった事を我輩は謝りたかった


・・・それは自分の為か。つくづく自分勝手な奴だな我輩は。自分の重しを下ろす為他人を傷つけていいはずもない


「刀を抜いて。」


冷たく鋭い声で月奈は言う。手には神殺しの槍が握られていた。

我輩はそれに無言で応え風切を引き抜き構える。


「おいお前らいきなり何を始めるつもりじゃ・・・!?殺し合いなど笑えんぞ!?」


土地神さまの言葉を聞こえていない振りをして切っ先を月奈に向けながら真っ直ぐ月奈を見る。

俯き気味で前髪で眼が見えない。しかしはっきりと肌に刺さるような怒気と深い沼の様な悲しみが伝わってくる。


先に動けば死、有るのみ。我輩は月奈より先に刀を構えて走り出す

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