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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第12幕 影朧の起源

どうやら今から我輩から魔力と一部の記憶、主に神域の技たる禁厭に関するモノを奪う儀式が始まるらしい。大人達はせかせかと荷物を運んだり魔術式を紡いだりしている。

そんな中小さい頃の我輩は鎖に繋がれ身動きの取れない状態にされていた。さっきまであった外傷は全て土地神さまによって治されている。

我輩は離せとさっきまで暴れていたが疲れたのか今はすっかり大人しくなっている。諦めたのか。いや、あの感じは期を伺っているに違いない。我輩なら人を護る力を手放すのは嫌なはずだ。例えそれが命を落とす様なモノでも目の前の者さえ護れるのならそれでいい、昔からそういう考え方をする様な人間だったのだからこの状況は望んでいない。必ず何か抵抗をするだろう。そう思いながら繋がれた幼い自分を見つめ暇を持て余す。


「どうだ?繋がれている自分を見る気分は」


さっきまでここまでは来れないと言っていた影朧が我輩の隣に座る


「どうせなんかやらかすんだろ?じゃないとお前は責任とか言わないだろうからな。というかお前ここまで来れないんじゃないのか?」

「はっはっはっ。お前のそういう読みは本当に凄いな。いや、お前だから、自分だからこそわかる事か。ちなみにここに居る理由は結界が弱まっていたからだ。今日はここの結界の術式が緩くなる日でな。どうやらお前がここに入る時から俺も入れたらしい」

「なんだよそれ」


我輩は特に可笑しくもない話なのに笑いが出た。何故ならしっかりしていると思っていた影朧が我輩の様抜けている所を見せたのだから。

こいつもきっと我輩の一部なのだと何となくそう思うと笑いが出たのだ


「やっぱりお前は笑ってる方がお前らしい。最近はあの娘と一緒に居る時でさえ暗い顔してたからな」

「お前はやっぱ優しいんだな」

「勘違いするな。お前がクソみたいな景色を見てると俺の見れる景色もクソみたいな物になるから励ましてやっただけだ」

「はいはい、そういうことにしておきますよ」

「なんだよニヤニヤしやがって。っと、始まるぞ」


影朧が指を指すと大人達が我輩を取り囲み呪詛を唱え始めた。そして社では幼い月奈が神楽を踊りその奥で土地神さまが壺を構え何かを待つ。

我輩はというとまだ大人しかった。まぁそろそろ暴れるのだろうが


「総員退避!禁厭が発動するぞ!」


声を上げたのは月奈のお父さんだった。流石反応が早いな。お陰で被害を出さずに済むだろう。

蒼い炎が鎖を溶かし、跡形もなく焼き尽くす。


「はっ、やはりそう来たか!化け物地味た餓鬼だとは思っておったがこう見ると本当に化け物だな!救ってやろうとしておるのにそれを拒み逃げようとするか!」

「アンタに何を言われようが関係ない・・・俺は皆を護る力を手に入れたんだ!それを奪わせやしない!」

「それが己の身を滅ぼすモノだとしてもか?」

「あぁ!そうだよ!俺1人で誰か1人でも護れるなら俺の命なんてくれてやるよ!誰かを苦しめる悪人を焼いて俺も焼け死んでやるよ」


我輩は不敵に笑う。もうこれは我輩が悪人と言われても仕方ないレベルでヤバいやつの考え方だ。悪を裁く為なら殺しくらいは許容される、そう考えているのだ。危険思想と言っても過言ではない


「傲慢だな。月奈、見蕩れておらずもっとしっかり踊れ。この餓鬼を救うのだろう?」

「は、はい!その意思は私が引き継ぐから安心して君は普通の生活を送って。皆の記憶も辻褄が合うようにするから安心してね」


あぁ、なるほど。月奈の盲信的なまでの苛烈な正義は我輩のせいか。これは申し訳ない事をした・・・

どう謝って償えばいいのだろうか



「あれがあの正義の盲信者とお前の約束、というか悪魔の契約だな」


影朧の言葉に返事はせず我輩は自らを見つめる。

悪魔との契約か。確かにこれはそうだろう。この契約は十数年守られるのだから。



「女の子にこんなことやらせる訳にはいかない・・・」

「大丈夫、君の意思は絶っ対に継ぐから」

「さて、頃合か。禁厭は神のモノだ。人間如きが扱っていいモノではないと知れ」


土地神さまの言葉と共に蒼い炎は我輩の身体から流れる様に土地神さまの持っている壺へと吸い込まれていく。


「うっ・・・身体が熱い・・・!俺に何をした!?」


我輩の身体は内側から真っ赤な紅の焔に焼かれ始めた


「おっと、これは先に魔力を奪わねばならなかったか。いやーこれは失敗失敗。まさか禁厭で魔力を封じていたとはな」

「土地神さま!どうすれば・・・あの子を助けられますか・・・!」

「簡単な事だ。神楽を舞え。そして儀式を続けていけばあの童も助かる」


月奈はコクリと頷き鈴を鳴らし地面を強く踏みしめ神楽を舞う。焔に焼かれる我輩はもう意識がないのか静かになっている


「なぁ、我輩死んでない?」

「大丈夫だ。ここで死んでりゃお前はここにいない」

「それもそうか」



赤い焔を手に溜め込んでから土地神さまはそれを握り潰す。すると土地神さまの手には赤い宝石の様な何かが握られておりため息をつきながらそれを眺めて言った。


「はぁ・・・こんなものを童に背負わせるとはこやつの家族は大丈夫なのか?」


その宝石は我輩の知っている物だった。あれはあの日月奈から渡された魔力を分け与えてくれるという宝石だったのだ


「さて、これで一段落だ。月奈、ご苦労であった。後は儂がやっておくから休むがいい」

「はい。ではお言葉に甘えて」


月奈がその場を去ると土地神さまは倒れている我輩の頭を掴む。


「奪ってしまったモノの代用品ではないが己を護る力くらいはくれてやる」


禁厭の封じられた壺を片手に禁厭の蒼い炎を操って魔術式を紡ぎそれを我輩の身体に埋め込んだ。


「これで死にかけても問題はない。童への護りの魔術式となるだろう。後は記憶をちょっと弄ってと」


影朧はどうやら土地神さまから産み出された魔術式の形をした禁厭のようだ


「あぁいう風に俺はお前の中に根付いた訳か」

「そうみたいだな」


「さて、もう見るものは見たであろう?現へと戻って参れ」


土地神さまの声が響く。どうやら全部見ていたらしいな

我輩は目を瞑りその場に転がる。意識は遠くなり視界いっぱいの暗闇が広がる水面へと戻ってきた


「じゃあな。死にそうになるんじゃねぇぞ」

「おう。ありがとうな!」


影朧と別れの挨拶をしてからさらに目を瞑り意識を現実へと引き戻す。

目を開けると元いた神社に戻ってきていた

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