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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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第11幕 禁厭

暗闇を抜けると随分と懐かしい風景が目の前に広がっていた。


「どうだ?懐かしいだろ。お前がまだ子供だった頃の華姫市だ」

「そうだな。懐かしくて涙が出そうだ。というかまさかとは思うけどお前が案内人的な事してくれるのか?」

「そうだ。不本意だが土地神の頼みだ。もし逆らったらお前がどうなるか分からねぇしな」

「お前って結構優しいのか?よく分からんな・・・」

「お前が消えれば俺も消える。そうならない為、自分の都合だ」


影朧はそう言うと歩き始める。この街並みは多分小学生の頃の風景だ。まだ大型のデパートが潰れる前の駅前だろうか?白鷺城も真っ白ではなく黒ずんでいた。本当にに懐かしい


「影朧はこの景色懐かしく思ったりするのか?」


ふと疑問に思ったことを口に出す


「俺はなんとも思わない。人の作り出した物にも興味が薄いしな。今何があって何が無いのかなんて俺にはわからん。お前の見てきた物の断片しか俺は覗けないんだからな」

「そうか。お前はそれを不満に思ったりしないのか?」

「俺にはそれで十分だ。外の世界なんて眩しくて直視できねぇし。おっ、あそこ見てみろよ」


影朧は少し先の歩道橋を指しながら言う。そこには小さな子供とお婆さんが居た。どうやら子供がお婆さんの荷物を運んでいるようだ


「随分と優しい子供だな」

「自画自賛か?あれお前だぞ」

「は?」


望遠の魔術式を使って顔を確認してみる事にした。しかし魔術式は現れるものの効果が一切発揮されない。何故だ?


「あー言ってなかったな。ここはお前の記憶の断片だから魔術式の効果は一切合切無効化される。使うだけ無駄だ」

「記憶改竄防止みたいなもんか」

「そんなもんだな。あと土地神の力でここに来てるって事は現実世界にも影響を及ぼす可能性もある。念には念をってやつだ」

「なるほどな。遠くがはっきり見れないってのは不便なもんだ」

「魔術式に頼りっきりになると急に視力無くなるぞ」

「怖いこと言うなよ。何千回と使ってきたんだけど」

「冗談だ。だがこういう場面でさっきみたいな事があれば命取りになる。気をつけておけ」

「分かった」


影朧は思っていたよりも優しい奴なのかもしれない。こうやって気を使ってくれるのも自分の為と言いながらも優しさが垣間見える。

我輩の中にいる魔術式の人格というより少し悪ぶっている兄のようなに感じる。

歩道橋まで近づき子供の姿を確認すると紛れもなくそれは我輩であった。昔はこういう人助けをよくしたものだと思い出に浸っていると小さい我輩は歩道橋から降り、荷物をお婆さんに渡し神社の方へと歩き始める。何かに誘われるかのようにゆらゆらと歩く。

影朧はそれを追うように歩く。大人と子供の歩幅ではかなり違いがある為影朧はたまに立ち止まって距離をとったりしている。

そして歩くこと数分、土地神さまの神社の前に来た


「そろそろ神域か。俺はここまでしか入れないからあとはお前1人で見てこい」

「分かった。じゃあ行ってくる」

「おう。行ってこい」


影朧に見送られ本日2回目の石段登りを開始する。

子供の我輩はハイペースでタッタッタッと登っていく。あの元気さと体力が懐かしいものだ・・・それに比べて今の我輩ときたら半分登ったくらいで息が上がってくる。随分と体力が落ちたものだなぁ。

そんな思考を巡らせていると社が見えてくる。本日3回目の景色だな。

石段を登りきると昔の我輩が少女を護るかのように今日対峙した鬼と戦っていた。いくらなんでも急展開過ぎない?だって我輩が登りきって我輩がここに立つまで3分も経ってないんだぞ!?


「鬼相手なら力試しには丁度いいな!」


何言ってんの我輩!?この頃って魔術もろくに使えないんじゃないのか!?

見たところ丸腰だし!


「危ないよ!私はいいから逃げて!」

「目の前で危ない目に合ってる人を放って逃げるなんて俺には出来ない!なんせ将来の夢は皆を護るヒーローだからな!助かる命を見捨てるとか論外だろ!」


うわぁ・・・子供の頃の我輩カッケー・・・でもそう甘くないのが現実なんだよな・・・

喋ってる間に拳が近づいてきてるな。まぁそれに気付かないほど鈍くはないよな

さて、魔術を使えないのにどうやって闘うか見せてもらおうじゃないか


「行くぞ!」


あの構え方・・・陰陽道?いや、違う・・・なんだ?魔術式とは毛色が違う・・・


「我は万人を護る焔!人に仇なす悪しきモノを焼き払え!」


瞬間、焔が一直線に地面を這って進み鬼の腕を切り裂くが如く走り抜けていった。

嘘だろ!?禁厭の焔!?なにがどうなってんだ!?ありえない!禁厭を教えて貰った記憶なんて無いぞ・・・そもそも少彦名命様に会ったことも無いのにどうして!?

・・・久那さんか?でも記憶に無い


「君・・・神様に関わりがあるの?」


少女が我輩に問う。神様には関わりがあるが禁厭を使える神様とはまだきっちり逢えてはいないはずだ。そもそも神様と逢うようになるのは中学生の後半だったはずだ


「俺は・・・」


グォォォォっと鬼が吠え我輩があの時何を言ったのかは聞こえなかった。ちくしょうあの鬼め。邪魔しやがって


「あれで焼き切れないってお前随分と厄介だな。いいぜ。徹底的に相手してやるよ」


そういうと焔が足元に海を作りながらその色を蒼へと変えて行く。

これが蒼い炎の原型?ということはあの御守りの魔術式は魔術じゃなくて禁厭なのか?


我輩は懐から小刀を取り出し鬼へと向かう。

いや待て、我輩よ。その歳で短刀持つのは良くないだろ。しかしよく考えればこの時の華姫は鬼姫不在の荒れていた時代だったな。

護身用の小刀1本くらい持っててもおかしくはない。


それはさておき我輩の小刀の扱いは異様にド下手だった。見ているこっちが恥ずかしい・・・いやまぁ仕方ないよな。この時まだ何も分かってない状態だし。

禁厭使ってる時との温度差で風邪引きそうだな

鬼の腕に斬りかかるが小刀が砕け散る。表面は謎の防御があるが故に弾かれてしまうのだ


「硬いな・・・でもこれはどうかな!」


砕けた小刀の破片が蒼い炎を纏い鬼の肩を貫き肩から腕を切り落とす。

腕はぼとりと落ちたが霧散はしていない。


落ちた腕は少女へと向かい飛んでいく。

ロケットパンチじゃないんだから大人しく落ちておけよと小さい我輩は思っただろう。

なにかするにも距離と時間が足りない。そしてあれは燃やせるかどうか分からない。それなら身を呈して護る、それしか許されない状態だな。

そして腕を囮に鬼は山の中へと足速に去っていく



「大丈夫?怪我してない?」

「あっ・・・あぁぁぁぁ!ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!私のせいで・・・!」


考え通り我輩は少女の前に立ち、向かって来る拳を受けた。子供の癖に手足がありえない方向を向いても他人の心配か。この時から狂っていたのか・・・

黒影が山の中に消えたのを見た我輩は倒れ込み血を吐いていた。それと同時に蒼い炎が燃え上がり鬼の腕を焼き付くし消える


「月奈?どうしたんだい!?そんなに泣いて!それにその子は!」


月奈のお父さんが境内から出てきた。この少女はどうやら幼い月奈のようだ。


「お父さん・・・!私は大丈夫・・・でも・・・」

「見せてみなさい。脈はある。しかし・・・土地神さま!来て頂けますか」

「なんじゃ。あぁ、さっき入ってきた黒影にやられたか。今日は結界が緩む日でな。ふむ。不幸な事故だとしか言えんな」


月奈のお父さんの言葉に応え土地神さまがふらりと現れ状況を分析していた


「土地神さま、何故それを教えて下さらなかったんですか!教えて下さっていればこの子はこのようにならなくて済んだというのに!」

「教えてもこの未来は変えられなかった。今はそれよりそこの童の治療を優先するとしよう」

「助かりますか・・・?」

「助けるとも。ついでに寿命も延ばしてやるとしよう。このままだと魔力の暴走で持ってあと2年という所だろう。魔術師としての力を奪った方が童の為になるだろうしな」


あぁ、なるほど。あの日月奈から貰った力は貰ったではなく返してもらったというのが正しいのか・・・

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