第10幕 影朧
「ちっ、土地神め。厄介な事してくれたな」
気づけば水面に我輩は立っていた。そして隣に我輩に似た人間が存在している
「お前が影朧・・・?」
灰色の髪、水色の眼。聞いていた話の特徴と合致する
何度か声を聞きはしているがこうやって姿を見るのは初めてだ
「おう。こうやって隣に立って話をするのは初めてだな。俺は影朧。お前を守る魔術式だ」
「守るって言っても聞いた話だと蒼い炎を纏って暴れ狂ってるって感じなんだが」
「ははっ、確かにそうだな!俺はお前の魔力が少なくならないと正気で表に出られない性質でな。魔力量が多い状態で俺が表に出ると制御不能になる訳だ。お前もよく知ってるだろ?魔力量が多くて耐えきれずに死ぬ奴らのことを」
「多少はな。実際に見た事は無いが内側から魔力が何かしらの形を模してその人を殺すとは聞いている」
「そう。俺はその形が炎な訳だ。でも俺は死なない、だから常に炎が身体を焼いてるって感じでな。俺に制御できる魔力量になれば炎は消えるし常時魔力を消費して回復してる状態だからお前に傷1つ残らないから安心しろ」
「我輩の事はどうでもいい。我輩はお前が仲間を襲わないか心配なんだよ」
「それは俺にはどうしようもない。お前が死なない様に心がけるか倒れる前に魔力をある程度減らすしかねぇよ」
「そうか。どうしようもないわけか」
「それはお前の努力次第だな。死ななきゃ問題無いだろ?わざわざ命懸けて仕事するのも俺はどうかと思うぜ。あの娘の隣に居たいのは解るが今のお前じゃ力不足だ」
「そんなのは分かってる!でも・・・」
「でも、なんだ?言ってみろよ。お前が倒れりゃ俺が暴れてあの娘が傷つく可能性も大いにあるぞ?自分の事ばっかり考えてんじゃねぇぞ」
影朧から放たれた弁解の余地のない正論は我輩の心を抉る
「湿気た面するなよ。おっと、まさかさっきの言葉で心が折れたとかないよなぁ?お前がメンタル貧弱なのは知ってるがここまで貧弱だとは思ってなかったんだが・・・泣くな・・・さっきの冗談だから、なっ?」
「泣いてねぇよ!」
「泣きそうじゃねぇかよ!まぁいいや、着いてこい。お前が今見るべきモノは俺じゃなくてお前自身の過去だ」
「土地神さまが言ってたあの日か・・・」
「その通り。お前には知る義務、いや、責任がある。あとそこら辺沈むから気をつけろよ」
影朧はスタスタと暗闇へと進んで行く
我輩もそれを追って暗闇へと溶け込んで行く。それにしても本当にここら辺足元が沈むな。水だから仕方ないんだろうけど・・・




