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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第2章不死殺し編
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プロローグ 東雲雑貨にて

「今日も華姫は平和だな」


我輩は雲ひとつない空と活気のある街並み、人々が笑顔で過ぎ去る景色を横目で見ながらいつもより少し歩幅を小さくして歩く。


理由は簡単。


「そうだね。これだけ平和だと私達が魔術師だって事忘れちゃいそうだよねー」


我輩の横を歩く、艶やかな灰色の髪を靡かせ綺麗な琥珀色の瞳を光らせる女性、虎織と共に歩く為だ。


「いっそ魔術師やめて一緒に旅でもするか?」

「それもいいけど将鷹のみんなを助けるヒーローになりたいって夢はもういいの?」

「随分と懐かしい夢を覚えてるんだな。確か中学に上がるまで掲げてた夢だったか」


本当に懐かしい。あの頃の我輩は魔術師ではなくヒーローとして人助けをしたり、みんなの笑顔を守る存在に成りたいと思っていたのだ。現実など知らずに・・・


「今は違うの?」


虎織は少し寂しげに言う。


「あぁ、我輩の今の夢はもっと身近なものさ」


虎織とこうして一緒に居られるのならばそれでいい。今の我輩がみんなを守るなんて出来はしないのだ。

そもそもそんな事は言ってはいけない。我輩の足元には既に1つの屍が晒されているのだから・・・

正義の味方なんて名乗る資格も権利も持ち合わせていないのだ。これから人の屍をいくら積み上げるかも分からない。

そう考えると我輩が虎織の横に立つ事は許されるのか?


「しょーよー。難しい顔しないのー」

「あっ、悪い。ちょっと考え事してた」

「休日ぐらいは何も考えずに遊んでもいいんじゃない?」

「ご最もだ」


考えすぎるのは我輩の悪い癖なのは分かっているがこれはどうにもならないな。

なるべく考えないで過ごすのは難しいがまぁ虎織と一緒に居る時ぐらいは何も考えず今を楽しめるか・・・


「さて、ここの路地だな」


暗がりが広がる狭い路地へと我輩達は脚を進める


「いつになってもここだけ怖いよね・・・暗いし壁の他に何もないし」

「確かになぁ。でもこの先は・・・」


暗い路地に光が差し込む。路地の終わりがやってきた。

眩しい光と共に視界には澄んだ景色が広がっている。

白い石が敷き詰められ等間隔に黒く大きい石が足場として用意され、周りに竹が生い茂り石の先には和風な建物、東雲(しののめ)雑貨が存在している。

そしてここに生い茂っている竹は路地の向こうからは一切竹が見えない。ここの土地の所有者、東雲奏さんによって隠蔽されているのだ。

何かを必要としている者、1度来た者以外は路地すら見つけられないようになっているのだ。


「ここの景色はいつ来てもいいよね。日ノ元っぽくて」

「そうだな昔の日ノ元を思い出すな。と言っても資料で見てだけなんだがな」

「ふふっ、そうだね」


「おや、いらっしゃい2人とも」


店から出てきて声をかけて来たのはオレンジ色の長い髪の中性的な男、ここ東雲雑貨の店主、東雲(しののめ)(かなで)さんだ


「こんにちは奏さん」

「こんにちはー」

「はい、こんにちは。今日は何を探しに来たのかな?それとも雪に会いに来たのかい?」

「今日は髪留めを作ってもらいに来ました」

「うん。わかった。準備をするから少し店の中で待っていてくれるかい」

「わかりました。ありがとうございます」


店の中に入ると和風な外観とは打って代わり洋風な内装だ。喫茶店のようだと言えばわかりやすいか


「おっと、将鷹君のストックの気応鉄(きおうてつ)がもう無くなりそうだけどどうする?」


気応鉄。触れた人の想いを汲み取り色や性質を変える不思議な鉄だ。

我輩の持つ虎徹や風切もこの気応鉄で作られているそうだ。

何かと使うしあって困ることは無い。大きめの気応鉄を買ってストックしておいて貰おう


「そこの大っきい気応鉄頂けますか?」

「はいはい。じゃあ触って思いを込めて」


目を閉じ想いを込める

虎織を守る力を。虎織の為になる何かを。虎織と共に過ごせるように・・・


「おや?前は蒼炎だったがこれは・・・」

「どうしました?」


困惑している奏さんの声を聞き目を開ける。

気応鉄は蒼色ではなく真っ白。純白であった


(ゆき)!こっちに来なさい!きっと驚くぞ!」

「お父さんどうしたの?」


店の奥から東雲色の髪の女性、奏さんの娘で我輩の親友、東雲雪が顔を出す


「あっ!将鷹!それに虎織!いらっしゃい!」

「おう。雪は元気そうだな」

「お邪魔してるよー」


雪はこっちに駆け寄ってくると驚いた顔をする


「これってもしかして白!?これ将鷹が!?」

「そうだけどこれって一体」

「白!気応鉄で最も強度があって生まれて数回拝めればラッキーって言われてるんだよ!どれだけ強い想い込めたの!?」

「普通に願いと想いを込めただけだけど・・・」


そう。至って普通だ。昔と変わらずなのだが


「あーでも冷静に考えると白だと将鷹君の依頼の蒼色の髪留め作れない・・・いや、待てよ・・・?いけるかもしれないな・・・将鷹君!これのお代はいいから研究材料として少し分けて貰えるかい!?」

「勿論。こちらとしては願ったり叶ったりってやつですね」


奏さんの提案はすごくありがたい。少しでも出費を抑えられるのは嬉しいものだ


「ねぇねぇ!将鷹!これで新しい刀作らない!?というか僕に打たせて!」


雪は凄い勢いとテンションで我輩に詰め寄る。

雪は我輩の刃物類と白鷺城に乗り込んだ時の短刀を打ってくれた張本人だ。

雪の腕は信頼できるし少し短い刀も欲しいしちょうどいい


「じゃあ頼めるか?満足できるまでこれを使ってくれて構わないよ。というか元はここのだし」

「さっすが将鷹!絶対いい刀作るからね!楽しみにしてて!」


そういうと雪は自らの工房へと消えていった


「さて、わたしも仕事をするとしよう!将鷹君、虎織ちゃん。お茶でも飲んで待っててね」


「じゃあゆっくりさせてもらおうか」


我輩はお言葉に甘えテーブルで虎織とお茶を飲んで過ごすことにした。

中学生の頃を思い出すな・・・あの時もこうやってお茶を飲みながら髪留め作ってもらってたっけ

懐かしいな


「そういえばさっき聞き忘れてたんだけど将鷹の今の夢って何?」

「我輩の夢は今みたいな時間が続けられる事だ。それを守るってのも夢だな」

「ふふっ、いいね、それ。私も今みたいな時間大好き」


にこりと笑う虎織に我輩はいつものようにときめいてしまった

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