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華姫奇譚  作者: 葛籠屋 九十九
第1章 先代鬼姫編
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後日談 星に願いを。胸に決意を。物語に始まりを

先代との戦いから1週間。久野宮さんと先代の葬儀を執り行ったり今回の件の報告書を作ったりと日々は忙しなく過ぎて行った。


久しぶりの何も無い休日、我輩は庭で久野宮さんが見せた技を思い出しながら巻藁に見た技を当て練習していた。

久野宮さんを、自分が殺した人を忘れない様に。


「踏み込みがまだ甘い。それにもっと腰を落とせ」


久野宮さんの声だった。

言われた通りに腰を落とし強く踏み込み拳を叩きつける。するとさっきはビクともしなかった巻藁に穴が空く。


「久野宮さん、帰ってきたんですか?」


虚しく我輩の声だけが響いた。そりゃそうか。死人が帰ってくるはずもない。帰ってきたとすればそれは敵なのだろう。きっとさっきの声はただの幻聴だ。葬儀の時に月奈に言われた通り気にし過ぎなのかもしれない。


「はぁ・・・」


自然と溜息が出る。気が晴れない。空は雲ひとつない晴れ晴れとした日だと言うのに。


気分転換に虎織と一緒に散歩にでも出掛けようか・・・

アリサも一緒にと思ったが残念ながら事務所で職業体験の続きをしている。

あのゴタゴタの中仕事を見学するなど不可能と判断され落ち着くまで延期という事になったのだ。そして今日から2日間就業体験らしい。


「おはよう将鷹」


気づけば虎織は縁側に座っていた。


「あぁ、おはよう。虎織、起きて早々なんだが囲いとかが有るとは言え外にその格好で来るのは辞めような」


虎織は寝巻きの状態でそこに居た。寝巻きと言っても我輩が使っていた制服のシャツを着ているだけなのだが・・・


「おっと、これは確かに駄目だね。ご近所さんから何か言われるかも。と思ったけどご近所さん居ないね」

「全く・・・ちょっと気が緩み過ぎなんじゃないか?」

「家に居る時くらいは緩み過ぎぐらいがいいんだよー」


虎織は縁側で寝転がって伸びをする。その姿はさながら猫の様だった。

確かに虎織の言っている事は正しいがこちらとしては気が気でない。

虎織からすれば昔から一緒に居る家族だからこそという感じなのだろう。でも我輩としては虎織は好きな人な訳で・・・その、好きな人の素肌がチラチラと・・・頭がパンクしそうになるから考えるのは辞めよう


「そうだ。今日一緒に散歩してパフェ食べに行こうよ」


虎織は寝転がっている体勢からガバッと勢いよく起きてそう言って笑う。


「あぁ、行こう」


我輩は短く返事をした。ちょうど良かった。もとより誘うつもりだった訳だしな


「じゃあ着替えてくるね!」


タッタッタッと虎織は小走りで部屋へと向かう。

多分10分ぐらいはかかるだろう。我輩はその間にシャワーでも浴びるとしよう



身支度を終え玄関へと向かう。虎織は既に靴を履いており準備万端だった。少々待たせてしまっただろうか?


「ごめん、待ったか?」


言ってから気づいたけど漫画でよくある質問の仕方だなこれ。


「二、三分くらいね」


虎織は率直に言う。私も今来たところなどとと言う漫画チックな回答は返ってこない。というかそんな返事したら笑ってしまう


「なら何か飲み物を奢るぞ」

「じゃあ缶のおしるこ!」

「この季節には無いだろ、と言いたいところだけど有るんだよなぁ」

「冗談で言ったのに有るの!?もう冬終わっちゃってるよ!?冬季限定品だよねアレ!」

「まぁ業者さんがまだ入れ替えてないだけだろ」


業者と言えば洗面所の床まだ業者さん来ないな・・・

一応予約は取ってるんだけどなぁ・・・

どうでもいい事を考えながら虎織と共におしるこの有る自販機へ向かい歩く


「本当にまだ置いてる!」


自販機の前に立ち虎織ははしゃぐ。はしゃいでいる時の虎織を見ていると気が晴れる。本当に我輩は虎織が好きなのだろう。自販機に札を入れ虎織と我輩自身の分のおしるこを買う


「はい、どうぞ」

「ありがと!」


缶を開けカツンと2人で缶をぶつける。

普通なら乾杯とでも言うのだろうが気にしない。

おしるこは虎織の様に甘く、暖かく、優しかった。

全く、自分でも呆れるくらい虎織の事が大好きなんだなとさっきも思った事を再認識してしまった。あまりの馬鹿らしさに少し肩の力が抜け、我輩はフッっと笑いが出た


「どうしたの?いきなり笑っちゃって」

「いや、なんでもない。ただの思い出し笑いだ」

「やっと笑ってくれた。難しい顔してるより今みたいに笑ってる方が私は好きだよ?」

「あれ?我輩そんなに難しい顔してたか?」

「うん。悩み過ぎてる時の顔だったよ。あんまり1人で抱え込まないで。私は将鷹の力に成りたいんだ」


虎織は我輩の手をぎゅっと握りそう言った。ここまで虎織に心配をかけてしまうとはな・・・

この一週間自分の中ではそれなりに元気に振舞っていたつもりだったがどうやら隠しきれてはいなかったみたいだ


「ありがとう。パフェ食べに行く前にちょっと公園で話してもいいか?」

「うん。いいよ」


優しい笑顔で虎織はそう言っておしるこを飲み干し自販機の横に備え付けてあるゴミ箱へと缶を入れる。我輩も飲み干し同じようにゴミ箱へと入れすぐ横にある公園へ足を踏み入れる。そして入口付近にあるベンチへと腰掛ける


「我輩は久野宮さんを殺した・・・取り返しのつかない事をしたんだ・・・なのに誰にも咎められない、久野宮さんの息子も同然の辰希さんにも咎められるどころかありがとうと言われる始末だ・・・」


視界が揺れる


「大丈夫。みんな将鷹が久野宮さんを殺したなんて思ってないよ」


一瞬何が起きたかは全く分からなかったが虎織が抱き寄せて頭を撫でてくれているというような状態だ。


「でも・・・!」

「もしも罪に対する罰が欲しいならその苦悩が罰なんじゃないかな?」

「そんなので赦される訳ないだろ・・・」

「どうかな?私から見たら十分過ぎるくらいだよ。何日も眠れなかったのを私は知ってるよ」


虎織の優しい声で涙が溢れそうになった。実際泣いてしまっているのかもしれない。色んな感情がごちゃ混ぜになってもう何がなんだか分からない


「大丈夫、大丈夫だよ。将鷹は最善の選択をしたんだよ。それにあの妖刀、心中で死人が出ることはもうないんだよ」


虎織が大丈夫と言うと少し気が楽になった。

あの日、心中は元の持ち主の幽霊によって砕かれ消えていったのだ。自らの事で手一杯過ぎてすっかり忘れていた。


「少しだけ落ち着いた・・・取り乱してごめん」

「うん。少しずつでいいから前を向こうね」


あぁ、なんか安心したら急に眠気が来た・・・ゆっくりと瞼が落ち、意識が朦朧とし始め目の前が暗くなる




「ん・・・」


目が覚めた。

目を開けると雲ひとつない青空にさんさんと照る太陽が眩しい。そして虎織の膝の上に頭を乗せて寝ていた事に気づいた。


「おはよ。一時間くらい寝てたけどまだ眠い?」

「おはよう・・・眠気はもう大丈夫かな」

「そっかそっか!うん!なんかちょっとだけ表情が明るくなった気がする!」


虎織は我輩の頬っぺたをつまみフニフニと触る。


「やっぱり柔らかいなー。羨ましい」

「フニフニするなー。というか重くないか?足痺れたりしてないか?」

「あー平気平気。昔から将鷹の頭を何回乗せてると思ってるの?」

「倒れる度だったな・・・」

「無茶して倒れる事多かったからもう両手両足の指使っても数えられないよ」


虎織は笑う。それにつられて我輩も笑う。

なんだかいつもの日常が帰ってきた感じがした


「さて、眠くないならパフェ食べに行こうよ!お店まで行ったらお昼時ぐらいだからちょうどお腹空くんじゃ無いかな?」

「そうだな。行こうか」


いつも使う路面電車の終点まで歩いて向かう。

終点はいつも活気づいている。携帯ショップやパチンコ屋の並ぶ道を抜け、知り合いの経営する回らない寿司屋がある路地の反対側の路地へと入る。

そして1件の店の前へと足を運ぶ。店の入口は2階にありその階段を登ると食品サンプルが飾られている。

山盛りのパフェや包み焼きハンバーグ、どれをとっても美味しそうな見た目である。

そして小さい写真ながらも存在感のある筋肉をネタにした芸人の写真が飾られていた。随分と昔、ここの1番大きいパフェを食べる企画でこの地を訪れスタッフと2人で巨大パフェを完食したのだ。


「昔からここのパフェは凄いよな。テレビで紹介されるし」

「懐かしいね。この企画一緒に見ていつかはこのウルトラパフェ食べるぞ!って意気込んでたよね」

「そうだったな。それにしても店主は凄いな・・・新しく天空のパフェなんて作って・・・しかも値段えげつないし」

「これはアリサちゃん居ないと食べきれないよね」


ケーキの上にパフェが乗っている。どうなっているのかよく分からないがとりあえずでかいとしか言いようがない・・・


そもそもウルトラパフェ自体もえげつなくでかい。

まぁ今からそのパフェを食べるんだが・・・

カップルで食べるようなやつだよなぁと昔我輩が言ってからこのウルトラパフェは我輩達の中でカップルパフェというあだ名がついた。


店に1歩入るといかにもオシャレな内装になっており昔、我輩には少々場違いかな?と思っていたが気にしないというか何回も来ていると気にならなくなっていた。人間の慣れって怖いよなぁ・・・


席に着いてから店員さんを待ち、注文を言う


「ウルトラパフェですね。少々お時間頂きますがよろしいでしょうか?」


この店員さんはもう慣れっ子なのだろう。ウルトラパフェという単語を聴いても眉一つ動かさなかった


「大丈夫です」


短く答えて出された水を口に含む


「久しぶりに食べるよねー楽しみだなー」

「2年ぶりくらいか」

「それくらいだねー」


虎織はニコニコと笑みを浮かべながら少しズレていた髪留めの位置を調整する。

今気づいたが虎織の髪留めが2つのうち1つが灰色だ。

プレゼントした数は5つ、そして魔術式が発動したのが3つ、数が合わない。あと1つ蒼色が残っているとは思うが気分で変えているのだろうか?


「虎織、明日、髪留め作ってもらいに行こうか」

「あっ、もしかして蒼と灰色だと落ち着かない?」

「そんなことはないんだけどほら、蒼色のストックがもうないじゃん?」

「そうだね。この1つが最後の蒼色だもんね」


最後・・・?まぁ深く考えることでも無いか。渡した数を我輩が間違えているのだろう



「お待たせしましたーウルトラパフェです」


いつ見ても凄い迫力だ。色とりどりなアイスがすごい数乗っておりリンゴ等のフルーツが刺さっている。


「うわぁ・・・いつ見ても凄い迫力・・・」

「アイスが溶けないうちに食べようか」

「そうだね!それじゃあいただきます!」



食べ始めて結構な時間が経った。流石に身体は冷えてきたしお腹もいっぱいになって来た。

だがしかし、まだパフェは残っている。なかなかの強敵だ


「最近少食になって来たな・・・」

「だね・・・それにこのコーンフレークが結構来るんだよねぇ・・・」

「あぁ、キツい・・・でも美味しいんだよなぁ・・・」



我輩達がこのパフェを食べ終わるのは約一時間後であった。


「あぁ・・・しばらく甘いものいいわ・・・」

「とか言いながら仕事しながらチョコレート食べるんでしょ?」

「多分なー」



「さて、ある程度動けるようになったし店出ようか」

「うん。将鷹はこの後どうする?」

「そうだなぁ家に帰ってゴロゴロするかどこかをぶらぶらするかだな」

「家でゴロゴロに1票」

「なら家帰るかー」


我輩と虎織は路面電車に揺られ帰路へとつく。歩いて帰っても良かったんだがな


「「ただいまー」」


「あれ?将鷹、何か置いてあるよ?」

「ん?手紙と金平糖?」


我輩は手紙を開き目を通す。



風咲へ

今回は貴殿に本当に申し訳ない事をしたと思っている。ワタシのワガママに付き合わせてしまいきっと貴殿は気に病んでしまっている事だろう。

こんなことを書いても貴殿の気が晴れる訳ではないがどうか気にしないで欲しい。ワタシはワタシの決断で心中を使った。貴殿は決して悪くはない。


いつかどこかでまた会える日が来るやもしれない。その時はきっと貴殿達の力になると約束する。


久野宮竜吉


追伸

仄様と旅に出るので華姫から少し離れます。仄様が好んで食べていた金平糖を置いておくので食べてください




久野宮さんからの手紙だ・・・幽霊が書いたパターン?いやいや、そんなことないだろ。


「固まってどうしたの?」


虎織が我輩の顔を覗き込む


「久野宮さんから手紙が・・・」

「御冗談を・・・」

「この金平糖の店の電話番号・・・」


金平糖の販売をしている店に電話をかけると久野宮さんと仄様が買いに来ていたそうだ


「幽霊なんてよく居るものだろう?まぁ昔に比べりゃあ随分と数は減ったがな」と店主は電話越しにガハハと笑う。

そういうものなのか?我輩はまだまだこの世の事が分かってないようだ・・・そもそも幽霊なんて・・・いやいや、よく考えれば心中の元の持ち主も幽霊じゃん。




夜が深け、星を眺めるにはちょうどいい時間となった。

我輩は屋根に登り温かい珈琲を持ち星を眺めている。今日も華姫は平和だったな・・・


「隣いい?」

「いいよ」


虎織が登って来て隣に腰掛ける


「将鷹はさ、華姫は好き?」

「あぁ、大好きだ」

「そっか。私も大好き。・・・これから城ヶ崎とか左右偽陰がここで事件を起こすかもしれないんだよね」

「そうかもしれないな。でも我輩達なら何とかできるさ」

「そうだね・・・私さ、不安なんだよ・・・将鷹が居なくなったりするかもって考えちゃって・・・」

「居なくなったりしないよ。大丈夫だよ」

「将鷹の大丈夫は信用出来ないなぁ・・・」

「えぇ・・・」

「でもその大丈夫って言葉はなんか安心するなぁ」

「そうか」


「お兄ちゃん!経理の神代さんから電話だよ!」


下からアリサの声が聞こえた。


「今降りる。虎織、少しだけここで待っててくれ」

「うん。待ってる」



「もしもし、神代さんどうされましたか?」


経理総括、神代さん。予算会議の取り仕切り役で我輩と蓮の苦手な人である。


「夜分遅くにすみません。琴葉様から言伝があるので電話させていただきました」

「というと?」

「明後日から吉音さんと共に事件の調査に向かって貰います。今回は華姫周辺ですので出ずっぱりになる事はありません。雪城さんについては琴葉様の身辺警護をとの事です。これは雪城さんにも伝えて置いてください」

「わかりまし・・・」


ツーツーっと電話が切れた音がした。言葉を言い切る前に電話が切られた。早い。電話を切るのが早すぎる!マイペース過ぎない?だからこの人苦手なんだよなぁ


我輩は再び屋根に登り虎織の横に腰を下ろす


「神代さんなんて言ってた?」

「明後日から我輩は月奈と一緒に月奈が前追ってた事件の調査、虎織は琴葉ちゃんの警護だそうだ」

「えぇ・・・」

「琴葉ちゃんの命令だそうだ。こればかりは逆らう訳にはいかないだろうさ」

「そうなんだけど・・・なんか寂しいなぁ」

「まぁ家には毎日帰って来れるだろうからさ」

「それならいいんだけど・・・」


「あっ、流れ星」


我輩は呟いた。1つ、2つと星は流れて行く。どうやら流星群というのが偶然今日だったのだろう

幾つもの星が光の尾を引いて流れ、消えて行く。


「キレイだね」

「あぁ・・・」


星に願いを。虎織と共にいつまでも一緒に居られますように・・・


罪に赦しを。久野宮さん本人から赦して貰えたからか今は少し気が楽だ。でも、これは一生背負うべき罪だ・・・


胸に希望を。2人ならきっとこれからも大丈夫・・・そう確信している。何があっても我輩と虎織の絆は揺るがない・・・


でも告白する勇気がないんだよなぁ・・・でもいつかは必ず!


決意を胸に、瞳に希望を宿し我輩は星を眺める

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