第39幕 椿流始祖
黒縄山の麓、竹が群生している場所がある。そこが我輩と虎織が修行してきた場所だ。そんな竹の群生地には一箇所だけ中へ入れる道がありその道を進むと円形の平地が現れる。
その真ん中には我輩達の師匠が座っていた。
「来たか。準備はいいな?」
虎織の顔を見てからコクリと頷く。目の前から師匠が姿を消す。それを見て我輩は白虎を取り出して構え、視覚ではなく風の音と流れでその動きを捉える。
一撃目を防げばそのままの勢いで普通の戦闘に持ち込めるはずだ。近くを通る音、だが攻撃時の風を切る音は無い、これはフェイントか。
こちらも高速で移動してもいいのだが視界がぼやける状態では戦いにすらならない。
虎織も我輩も風の音を捉えるので手一杯、雑談でもして気を紛らわせたい程の緊張感で空気が張り詰める。
「椿流、辰の番」
斜め前からの声、そして音が迫る。狩龍天静かそれとも別の新しい技か……?
前の戦いで新しい十二支の技見せたのはこの択を迫る為だろう。風の音からするに仕掛けてくる。
「龍驤麟振!」
普通なら怯むほどの気迫と共に風が震える。目の前の地面が抉れなにかが迫る。明確な殺気……それに合わせて刀を構えるが刃には何も触れない。殺気が消えると共に腹部に内蔵が潰れるような衝撃が走り抜ける。殺気に気を取られて風の流れや音への注意が逸れた所を狙われた。
声すら出ない、ただ身体から空気が抜ける、そんな感覚と痛みだけが身体を支配する。
痛みと苦しさに思考を鈍らせるな……今なら師匠のスピードは落ちてるはずだ……手を伸ばせ!
自分を鼓舞して後ろに思いっきり手を伸ばす。布を掴み足と腕に力を入れ直し無理やり空気を吸い込み自分の目の前に引っ張り出す。
「捕まえたのは見事、だが次が無いな」
「将鷹だけだったらね!」
上空から虎織が蛮歌を振り上げ師匠へ強襲をかける。師匠はそれを刃で受け流し後ろへ跳ぶ。距離は一気に離れたが好機とも取れる。
今のうちに痛みを堪え息を整え叫ぶ。
「心炎点火!」
虎織が使った我輩の加速魔術式の再現式、それの原理を教えて貰って自分なりに組み立てた再現のコピー。肉体強化と炎による速度の底上げ、そして風による後押し。速度は劣るけど視界はぼやけないし制御が楽だ。
走りながら袖から十手となった虎徹を出して突き出すように構え白虎を引き気味に突きを放つ溜めのような形で構え迫る。
防御態勢をとる師匠を見てからさらに叫ぶ。
「イグニッション!」
視界がぼやけるがほどの加速。それと同時に両手を大きく広げ鈍色を白虎を振るい逸らし虎徹で師匠の腹へと打撃を加えながら通り抜け、有り余った加速を虎徹と白虎を地面に突き立て減速する。
「同じ手で返して来るか……」
「師匠は我輩を捕まえられなかったけどなっ!」
息を整えながら白虎を袖に納め、代わりに取り出した投げナイフを三本投げる。全て躱されナイフは竹に突き刺さる。
「避ける先はちゃんとみた方がいいんじゃない!」
虎織が師匠に向けて蛮歌を投げる。手裏剣のようにぐるぐると回転しながら師匠に迫り師匠は間一髪の所で避ける。正確には避けられように虎織は投げた。アレは囮だ。師匠に攻撃の隙を与えてはいけない。きっとそこからペースを握られ不利になる、昔からそうだったからこそ我輩達は囮に囮を重ね本命の攻撃を当てに行く。
「囮ってのはわかっちょる!」
「でもこれは避けられねぇだろ!椿我流、八極!」
師匠の懐に飛び込み、踏み込み拳での一撃を放つ。拳は師匠の鳩尾を捉えるが入りが浅い。寸前で後ろにさがられダメージを逃がされた。当たらなかったのなら次の手を打つために袖から鎖を出す。
「真正面からの打撃にバックステップするのは変わってなくて良かった!椿我流、昇炎!」
炎を纏った蛮歌を低く構えた虎織が下から上へと蛮歌を振るい炎の波を飛ばす。
「椿流、亥の番。猪牙舟」
師匠は水を纏わせた刀を前にし虎織の振るった炎の軌跡を掻き分け避ける。それを見た虎織はすぐさま次の技を出す。
「落炎!」
上へと振った蛮歌を返し次は上から下へと振り下ろす。本来ならば昇炎と同じ炎を飛ばす技ではあるが今回は違う。迫って来た師匠を迎え撃つため刃に炎を纏わせたままでの斬撃、刃の水を蒸発させるには超高温が必要になる。炎を飛ばすのに割くリソースを熱に回し一気に蒸発させる算段なのだろう。
師匠も受けて立つというように刃を振るい鍔迫り合いをする。
そして我輩は不意打ちで師匠の後ろから虎徹で打撃を加えるようと近付くが師匠の後ろから竹が生え、行く手を阻む。
「それで止められるのは昔の我輩だけだぜ!」
鎖を引き寄せ蛮歌を握りそのままの勢いで竹を割く。
「チッ!投げたにしては手元に返ってくるのが早いとは思っていたがそのデカブツがもうひとつあるとはな……」
師匠は虎織と鍔迫り合いをしたまま片手を離し竹筒を胸元から取り出し口でピンを抜く。
フラッシュバンか……!解った時には既に遅く視界が白一色に潰される。
「俺にこいつを使わせたのは褒めてやる。でもまだ期待外れなのは変わりない」
言葉と共に胸ぐらを掴まれる感覚。そしてすぐに手が離れ身体がふわりと宙を舞う。空へと投げられたのだと理解する
「椿流、奥義が一つ」
まずい……!こんな状況でこれくらったら死ぬぞ……!受け身なんて取れないしやばい……
「櫓落とし!」
浮いた身体がグイッと腕力と重力に引っ張られる。風を背中で切りそのまま身動きできずに落ちていく。我輩のとは違う櫓落とし。そうか、我輩のに足りなかった破壊力はこれか……
落下の最中この技が師匠ほど破壊力がないと感じていたがその答えにたどり着いた……




